ヒズル

ヒズル・ハン：ジョチ・ウルスのハン

ヒズル・ハン（生年不詳 - 1361年）は、ジョチ・ウルスのハンであり、ジョチの五男シバンの玄孫にあたります。彼はシバン家出身者として初めてハン位に就いたことで知られています。

生涯

『高貴系譜』や『勝利の書なる選ばれたる諸史』といったチンギス・カン家の系譜を記した史料によると、ヒズル・ハンはシバンの三男カダクの息子トレ・ブカの息子マングタイの息子とされています。

『チンギズ・ナーマ』によれば、バトゥ家断絶後の混乱期に、ウズベク・ハンの正妃であったタイトグリがシバン家のヒズルをハンに推戴しようとしました。タイトグリはヒズルと再婚することで自身の地位を維持しようとしましたが、ヒズルはベグの進言により結婚を拒否したため、両者は決裂しヒズルは追放されました。しかし、最終的にヒズルはホラズム地方の支配者コンギラト・アク・フサインの協力を得てサライを奪取し、タイトグリを捕らえて処刑し、ハンに即位したと伝えられています。

一方、『ニコン年代記』には、バトゥ家最後のハンであるベルディ・ベクがクルナによって殺害された後、ハン位はクルナから「ヴォルガ河の帝王」ナウルーズ・ベクに引き継がれたものの、「ヤイク河の向こうの帝王ヒズル」とサライのベグたちの陰謀によってナウルーズと「帝妃タイトグリ」が殺害されたと記録されています。

これらの史料から、ヒズル・ハンがバトゥ家断絶後のジョチ・ウルス（バトゥ・ウルス）に勢力を拡大し、タイトグリを代表とする敵対勢力を打倒してハンとなったことは確実であると考えられます。

1361年、ヒズル・ハンは息子のテムル・ホージャによって殺害されました。しかし、テムル・ホージャもクリミア地方の有力諸侯ママイによって殺害され、ジョチ・ウルスはサライを中心とする東半分を支配し独自にハンを称するシバン家と、クリミア地方を中心とする西半分を支配し傀儡ハンを擁立するママイの勢力（ママイ・オルダ）が並立する状態となりました。

シバン家の系図

ジョチ太子
シバン
カダク
トレ・ブカ
マングタイ
ヒズル・ハン
テムル・ホージャ
ムラート
バハドル
ジョチ・ブカ
ヤダクル
ミン・テムル

参考文献

赤坂恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
川口琢司「キプチャク草原とロシア」『中央ユーラシアの統合：9-16世紀』岩波書店、1997年
Howorth, Henry Hoyle. History of the Mongols from the 9th to the 19th Century*. London: Longmans, Green, 1880.

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