ヒュルミーネー

ヒュルミーネー

ギリシア神話におけるヒュルミーネー（古希: Ὑρμίνη, Hyrmīnē）は、エーリス地方を統治した王エンデュミオーンの息子であるエペイオスの娘として知られる女性です。彼女の名前は、長音を省略してヒュルミネと表記されることもあります。

彼女の配偶者と子供たちについては、古代の複数の著述家がそれぞれ異なる、あるいは補完し合う記述を残しています。

旅行家として知られるパウサニアースは、その著書『ギリシア記』の中で、ヒュルミーネーがエーリス地方の英雄であるポルバースと結婚し、彼との間にアクトールをもうけたと述べています。パウサニアースはエーリス地方の歴史や地理について詳細に記録しており、この記述もその一環として地元の伝承に基づいていると考えられます。

一方、シケリアの歴史家ディオドーロスは、その著作『神代地誌』において、ヒュルミーネーの夫とされるポルバースについて、より詳しい背景を提供しています。ディオドーロスによると、このポルバースはもともとテッサリアー地方に住む、勇猛な部族として知られるラピテース族の一員であり、その地で王の一人でした。しかし、後にエーリス地方へと招かれ、そこで新たな王の一人となったとされています。そして、ディオドーロスはポルバースがアクトールとアウゲイアースという息子たちをもうけたと記していますが、これらの子供がヒュルミーネーとの間に生まれたのか、あるいはポルバースの別の妻との間の子であるのかについては明確に触れていません。しかし、パウサニアースの記述と合わせると、少なくともアクトールはヒュルミーネーの子である可能性が高いと言えます。

さらに、ローマ時代の神話集を編纂したヒュギーヌスは、彼の『ギリシャ神話集』の中で、ポルバースとヒュルミーネーの間に生まれた子としてティーピュスの名を挙げています。このように、ヒュルミーネーの子供たちの構成については、伝承によって若干の差異が見られますが、少なくともアクトールは共通して言及される重要な息子です。

ヒュルミーネーの子であるアクトールは、後にモリオネと呼ばれる双子の巨人たちの父となった人物です。また、アクトールは母であるヒュルミーネーの名を記念し、エーリス地方に「ヒュルミーネー」という名前の都市を建設したと伝えられています。これは、息子が母を深く敬愛していたこと、あるいは母がその土地において重要な人物であったことを示唆しています。

ヒュギーヌスがヒュルミーネーの子とするティーピュスは、ギリシア神話における最も有名な冒険譚の一つである「アルゴナウタイ」の一員として名を連ねています。彼はイアソンが金羊毛を求めてコルキスへ向かう際に使用した船、アルゴー号の優れた操舵手として航海に貢献しました。彼がヒュルミーネーの子であるという伝承は、彼女が単なる地方の王女ではなく、より広範な神話世界とつながる人物であったことを示しています。

このように、ヒュルミーネーはエーリス地方の王家の娘として生まれ、異なる伝承によって様々な息子たちをもうけたとされ、その子孫や関連人物がギリシア神話の主要な物語に登場するなど、重要な役割を果たした女性と言えます。特に息子アクトールによる都市建設の伝承は、彼女の名が後世まで語り継がれる一因となりました。彼女に関する情報は、主にパウサニアース、ディオドーロス、ヒュギーヌスといった古代の著述家たちの記録から得られています。

もう一度検索