ヒルピニ族

ヒルピニ族：古代イタリアのサムニウム系部族

ヒルピニ族は、古代イタリア半島の中央部に位置するサムニウム地方に居住した部族です。彼らはサムニウム人の一派として認識されることが多いですが、独自の部族としての特徴も持っていました。本稿では、ヒルピニ族の居住地、名前の由来、そしてローマとの関係について詳しく解説します。

居住地

ヒルピニ族は、サムニウム地方の南部に位置する山岳地帯に居住していました。彼らの居住地は、南はルカニア地方、東はアプリア地方、西はカンパニア地方に接しており、周囲の部族との交流は限られていました。アペニン山脈の広大な山岳地帯に住む部族の中でも、ヒルピニ族はその大部分を占めていました。彼らは、ウルトゥルヌス、タマルス、カロル、サバトゥスの各部族に分かれ、山岳地内部の窪地にそれぞれ居住していました。

彼らの領土は、標高が高く岩肌が露出した地形であり、渓谷沿いの川が流れていました。この渓谷は、彼らの領土とベネベントゥムを結ぶ重要なルートでした。また、ヒルピニ族の領土は、南はアウフィドゥス川（現在のオファント川）の上流域まで広がっていました。

名前の由来

「ヒルピニ」という名前は、サビニ人またはサムニウム人の言葉で「狼」を意味するとされています。この語源を裏付けるように、ヒルピニ族の伝承では、彼らの祖先が狼に導かれて新たな土地にたどり着いたと伝えられています。この伝承から、ヒルピニ族は、北部からイタリア南部に移住したサベリア系諸部族と同様に、他所から移住してきた部族であったと考えられます。しかし、彼らがいつ頃アペニン山脈に移住したのかは不明です。彼らがアペニン山脈中央部に定着したのは非常に早い時期であり、歴史に登場する頃にはすでにその地を領土としていたと考えられています。

歴史

初期の歴史において、ヒルピニ族はサムニウム人と区別することが困難でした。彼らの土地は、サムニウム戦争の舞台となり、特にマレウェントゥムは両軍が衝突する場所として繰り返し記録されました。しかし、ヒルピニ族の名前は、この戦争においてほとんど言及されていません。これは、ヒルピニ族が当時、独立した部族としてではなく、サムニウム人全体の一部として行動していたためと考えられます。ローマの年代記では、彼らは「サムニウム人」として一括りにされ、個別の部族として区別されることはありませんでした。

ローマがベネヴェントを支配下に置いた紀元前268年以前には、ヒルピニ族の地域もローマの支配下に入っていたと考えられますが、具体的な時期を特定することは困難です。

第二次ポエニ戦争において、ヒルピニ族はサムニウム系諸部族から独立した部族として記述されるようになります。リウィウスは、ヒルピニ族をサムニウムと対比させて言及することさえありました。この時期のヒルピニ族は、紀元前216年のカンナエの戦い以降、ローマを見限りハンニバルに恭順した部族として描かれています。しかし、彼らの都市であるベネヴェントはカルタゴの手に落ちることはなく、翌年にはヒルピニ族の村落がローマの支配下に戻されました。紀元前214年には、彼らの土地でハンニバルの部下ハンノとローマのティベリウス・グラックスが衝突し、紀元前212年にはカルタゴ軍がカプアを奪取するためにこの地を支配下に置きました。紀元前209年まで、彼らはカルタゴ軍に駐留されていましたが、最終的にはローマに寝返りました。

同盟市戦争（紀元前90年）において、ヒルピニ族はローマに対して反旗を翻しました。しかし、紀元前89年にスッラが彼らの都市であるアエクラヌムを陥落させると、残りの住民は恐怖に陥り、ローマに降伏しました。彼らは優遇された条件で降伏を許されましたが、ヒルピニ族の中には親ローマ派も存在していました。アエクラヌム出身のミナティウス・マギウスは、ローマのために住民を組織し、ティトゥス・ディディウスやスッラの下で戦いました。

同盟市戦争後、ヒルピニ族はローマの支配下に入り、ローマ人との同化が進みました。この戦争による被害は、周辺のサムニウム人に比べて少なかったものの、彼らの土地の一部はローマによって没収され、ローマの富裕層の手に渡りました。

アウグストゥスの時代には、ヒルピニの地は、他のサムニウムの地が第4区に統合されたのとは異なり、第2区としてアプリアとカラブリアと共に編成されました。この区分は、後期のローマ帝国においても維持されました。この時代には、サムニウムという名前は名目的な意味合いが強く、より細分化された属州に分割されました。ベネヴェントとヒルピニ起源の集落のほとんどは、カンパニア属州に組み込まれました。

ヒルピニ族は、古代イタリアの歴史において、独自の存在感を示した部族でした。彼らの歴史は、ローマとの関係の中で形作られ、最終的にはローマに同化されていきました。

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