ティトゥス・ディディウス

ティトゥス・ディディウス：共和政ローマの執政官、その功績と悪名

ティトゥス・ディディウス（没年：紀元前89年）は、共和政ローマ後期に活躍した政治家であり軍人です。彼はノウス・ホモ（平民出身の新参者）として政界に進出し、紀元前98年には執政官（コンスル）という最高職にまで上り詰めました。しかし、その経歴は功績と悪行が入り混じったものであり、後世に様々な評価を残しています。

クルスス・ホノルム（官職歴)

ディディウスの政歴は、紀元前103年の護民官就任から始まります。当時、同僚の護民官ガイウス・ノルバヌスが、アラウシオの戦いで大敗を喫したクィントゥス・セルウィリウス・カエピオを告訴しようとした際、ディディウスはこれに拒否権を行使しようとしました。この行動は注目を集めましたが、最終的にカエピオはローマから亡命することになります。

紀元前101年、ディディウスは法務官（プラエトル）に就任し、マケドニア属州に派遣されます。彼はスコルディスキ族との戦いで勝利を収め、紀元前99年には凱旋式を挙行しました。この勝利によって、彼は名声を高め、政治家としての地位を確立しました。

紀元前98年、ディディウスはついに執政官に就任します。同僚執政官はクィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ネポスでした。執政官として、彼はウィラ・プブリカ（公共施設）の修復を行うとともに、「カエキリウス・ディディウス法」を制定しました。この法律は、複数の異なる内容を一つの法案に含めることを禁じるもので、法案の可決・否決の判断をより明確にする役割を果たしました。

カエキリウス・ディディウス法

カエキリウス・ディディウス法は、一つの法案に様々な内容の効力が複雑にまとめられることで、人々が否決したい部分まで可決したり、可決したい部分まで否決したりする事態を防ぐことを目的としていました。この法律によって、法案審議はより透明性を増し、市民の意思が反映されやすくなったと考えられます。

プロコンスル（前執政官）としてヒスパニアへ

執政官任期後、紀元前97年から紀元前93年まで、ディディウスは前執政官（プロコンスル）としてヒスパニア・キテリオル（近ヒスパニア）属州の総督を務めます。この地で彼は、ケルティベリア人との戦いに明け暮れました。彼は数々の勝利を収めましたが、その過程で異常な残虐行為を行ったとされています。

彼はアレウァキ族20,000人を殺害し、テルマンティアの反乱を鎮圧、コレンダを9ヶ月間包囲して降伏させ、住民を奴隷として売り払いました。彼は「略奪者」の街を破壊したとして二度目の凱旋式を挙行しましたが、その実態は財産を失った貧しい人々が集団で暮らしていただけの場所でした。さらに、彼はこれらの人々に土地を提供すると誘い込み、家族と共にローマ軍の砦に集まってきたところを、全員殺害したと伝えられています。

歴史家アッピアノスは、ディディウスの残虐さと裏切り行為がヒスパニアの反乱を激化させ、後任の総督ガイウス・ウァレリウス・フラックスが鎮圧に苦労したと記録しています。

同盟市戦争での戦死

ヒスパニアでの任務を終えた後、ディディウスは同盟市戦争に参加します。紀元前90年には執政官ルキウス・ユリウス・カエサルの副官として、紀元前89年には執政官ルキウス・ポルキウス・カトとルキウス・コルネリウス・スッラの副官として戦いました。しかし、紀元前89年6月11日、ヘルクラネウム占領の直後、彼は戦死を遂げました。

人物評

キケロは、ディディウスを「書物によって戦理を極めたわけでなく、ただその功績によって名を揚げた人々」の一人として挙げています。これは、彼が理論よりも実践を重視し、軍事的な才能によって名声を得た人物であったことを示唆しています。しかし、ヒスパニアでの残虐行為は、彼の名声を大きく傷つけました。

ティトゥス・ディディウスは、共和政ローマ後期という激動の時代を生き抜いた人物です。彼は政治家として、また軍人として、一定の功績を残しましたが、その一方で、倫理的に問題のある行動も行いました。彼の生涯は、ローマ共和政の光と影を映し出す鏡と言えるでしょう。

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