ヒーラ

ヒーラ：古代メソポタミアの文化交差点

ヒーラ（アラビア語: الحيرة, al-Ḥīra; シリア語: ܚܝܪܬܐ, Ḥīrtā）は、かつてメソポタミアに存在した都市です。現在のイラク中央部、クーファの町の南に位置し、その遺跡はナジャフの南東約7キロメートルの地点に存在します。この地は、古代においてメソポタミアと砂漠が接する場所に位置していました。

ラフム朝の宮廷都市として

4世紀から7世紀にかけて、ヒーラはラフム朝の宮廷都市として繁栄しました。ラフム朝は、アラビア語で「マナーズィラ」とも呼ばれる、定住アラブ人の王朝です。サーサーン朝は、北からのアラブ部族の侵入を防ぐためにラフム朝を属国とし、その王はサーサーン朝のシャーによって任命されていました。527年ごろには、レヴァントのガッサーン朝と争い、この争いはサーサーン朝とビザンツ帝国の代理戦争の様相を呈しました。

しかし、602年にホスロー2世によってラフム朝は滅ぼされ、ヒーラはサーサーン朝に併合されました。

三つの文化が交わる場所

ヒーラは、サーサーン朝のペルシア文化、ネストリウス派キリスト教文化、アラブ部族の伝統宗教文化が交じり合う独特な文化を持つ都市でした。特に、アラブ＝イスラームの征服直前のイラクにおいては、ネストリウス派キリスト教が宗教的多数派を占めていたと考えられています。ヒーラには4世紀から11世紀にかけてネストリウス派の主教座が置かれ、その教会建築はサーサーン朝建築の影響を受けて、ヴォールトやドームを用いた深い祭壇空間を持つなど、独特の特徴を持っていました。

遺跡としてのヒーラ

7世紀中盤にサーサーン朝の勢力が衰退すると、ヒーラもまた衰退の一途をたどります。633年にはアラブ軍によって降伏し、その後は軍営都市クーファの陰に隠れるようにして、その重要性を失っていきました。8世紀末にはハールーン・ラシードが訪れましたが、10世紀にはベドウィンの襲撃を受けるなど、不安定な状況が続きました。

西洋世界に初めてヒーラの遺跡を報告したのは、20世紀初頭のアッシリア学者マイスナーでした。1931年にはオックスフォード大学隊による発掘調査が行われ、その後、1970年代から1980年代にかけて日本の調査団も周辺の発掘調査を行いましたが、現在に至るまで十分な学術的調査は行われていません。

ヒーラの遺跡は、古代メソポタミアにおける文化交流の実態を今に伝える貴重な遺産であり、今後の学術的な調査が期待されています。

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