ビッグ・メイシオ

ビッグ・メイシオ・メリウェザー（Big Maceo Merriweather）は、20世紀半ばのブルース界で重要な足跡を残したアメリカのピアニスト、そして歌手です。特に1940年代、シカゴのブルースシーンにおいて、その力強く情感豊かなピアノ演奏で数多くの後進に影響を与え、「シカゴ・ブルース・ピアノの巨人」と称される存在となりました。

1905年 3月31日、ジョージア州ニューナンで生を受けた彼は、 formalな音楽教育を受けることなく、独学でピアノの腕を磨きました。転機が訪れたのは1920年、デトロイトに移住した頃です。この地で彼は音楽家としてのキャリアを本格的にスタートさせ、やがて名ギタリスト、タンパ・レッドと運命的な出会いを果たします。タンパ・レッドの紹介により、メイシオは当時ブルース録音で勢いのあったRCAビクター傘下のブルーバード・レコードとの契約を獲得し、キャリアを飛躍させることになります。

ブルーバード・レコードから発表された彼のデビューシングルは、1941年にリリースされた「Worried Life Blues」でした。この楽曲はたちまちヒットを記録し、彼の代表曲となりました。スリーピー・ジョン・エスティスの「Someday Baby Blues」を元にしたとされるこの曲は、その後、ブルースの古典として語り継がれることになります。他にも「Chicago Breakdown」、「Texas Stomp」、「Detroit Jump」といった、ピアノブルースの歴史に残るインストゥルメンタルやボーカル曲を世に送り出しました。彼のピアノスタイルは、リロイ・カーやルーズヴェルト・サイクスといった同時代のブルースピアニスト、さらにはミード・ルクス・ルイスやアルバート・アモンズといったブギウギの先駆者たちの影響を受けながら、独自の力強い左手のリズムとメロディアスな右手のフレーズが融合した唯一無二のものへと発展していきました。その影響力は絶大で、リトル・サニー・ジョーンズやヘンリー・グレイといった後世代のブルースピアニストたちは、メイシオから大きなインスピレーションを受けたと語っています。特にヘンリー・グレイは、自身のブルースピアニストとしての第一歩を踏み出す際に、メイシオから多大な支援を受けたと述懐しています。戦後シカゴで活躍した多くのブルースピアニストが、何らかの形でメイシオのスタイルに影響を受けていると言っても過言ではないでしょう。

彼の代表作である「Worried Life Blues」は、単なるヒット曲にとどまらず、ブルースのスタンダードナンバーとして不動の地位を確立しました。エリック・クラプトンをはじめ、数多くのアーティストによってカバーされ、ライブでの定番曲となっています。この楽曲は、「ストーミー・マンデイ」や「スウィート・ホーム・シカゴ」といった他のブルースの古典とともに、ブルースの殿堂の「古典的ブルース・レコーディング」部門に最初に選出された栄誉ある楽曲の一つです。

順調なキャリアを歩んでいたメイシオでしたが、1946年に脳卒中を患い、右手に麻痺が残るという大きな試練に見舞われます。しかし、彼は音楽への情熱を失いませんでした。エディ・ボイドやジョニー・ジョーンズといった仲間の助けを借りながら、困難な状況下でも左手のみで演奏活動を続けました。

1953年2月23日、彼はシカゴで心臓発作のため47歳でその生涯を閉じました。遺体はミシガン州ウォーレンにあるデトロイト・メモリアル墓地に埋葬されました。

彼の残したレコーディング音源は、没後も多くの音楽ファンに聴き継がれています。特にRCAビクターやブルーバードに残されたセッションは、1975年に2枚組アルバム『Chicago Breakdown』としてまとめられ、その後の多くのコンピレーション盤で再リリースされています。彼のブルース界への貢献は高く評価され、2002年にはブルースの殿堂入りを果たしました。

さらに、彼の墓石が長らく設置されていなかったことを知った有志の活動により、2008年にはミシガン州で開催されたブルースフェスティバルの収益を元に、墓地に正式な墓標が建立されることとなりました。

ビッグ・メイシオは短い生涯ながら、独創的で力強いピアノスタイルと情感豊かな歌声で、シカゴブルースピアノの基礎を築き、後世に計り知れない影響を与えました。彼の音楽は、今なお多くのブルースファンに愛され続けています。

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