ビュイック・リーガル
ビュイック・リーガル（Buick Regal）は、ゼネラルモーターズ（GM）のビュイック部門によって製造・販売されていた中型自動車です。このモデルは、特に北米市場において、ビュイックのラインナップの中で重要な位置を占めていました。なお、日本ではトヨタ自動車が「センチュリー」の商標権を持つ関係で、GMがかつて日本国内向けに販売していた「センチュリー」が「リーガル」の名称で展開されていた時期があり、本項で述べるビュイック・リーガルとは直接関連性のない別の車種となりますが、元々はビュイック・リーガルがビュイック・センチュリーの上級グレードとして誕生したという歴史的な繋がりは存在します。
ビュイックは1963年にフルサイズの高級パーソナルカーであるリヴィエラで市場に参入しましたが、それよりも手頃な価格帯の中型高級パーソナルカー市場の開拓においては、ポンティアックのグランプリ（1969年）やシボレーのモンテカルロ（1970年）、オールズモビルのカトラスシュープリーム（1970年）といった他部門の車種に比べて出遅れていました。これらの競合に対抗するため、1973年にビュイックは中型車ラインアップであるAボディのセンチュリーの最上位モデルとして「センチュリーリーガル」を発表しました。この年は、1968年に登場したGMのAボディが初めて全面改良を受けた時期にあたります。
初期のリーガルは、フロントとリアのスタイリングが姉妹モデルのセンチュリーと共通部分が多かったものの、専用デザインのグリルやテールライトレンズによって差別化が図られました。車体構造においては、姉妹車であるグランプリ、モンテカルロ、カトラスシュープリーム、そして下位のセンチュリーラグゼスクーペと共通の「コロネード」（サッシュレスでありながらセンターピラーを持つ）と呼ばれるピラー構造を持つハードトップルーフラインとウインドウエリアを採用。さらに、シートメタルに囲まれた特徴的な小さな嵌め殺し窓である「オペラウインドウ」を備えていました。
当初は2ドアのコロネードハードトップクーペのみが提供されましたが、1974年にはサッシュレスドアを持つ4ドアのコロネードセダンがラインアップに加わりました。1975年には車名から「センチュリー」が外れ、「リーガル」として独立。1976年にはフェイスリフトが実施され、合法化された角形ヘッドライトがクーペでは横並び、セダンでは縦並びの配置となりました。
リーガルのインテリアは、センチュリーよりも豪華に仕立てられていました。ダッシュボードやドアパネルには木目調の装飾が施され、布地、ベロア、ビニール張りのセンターアームレスト付きノッチバックベンチシートが標準装備。オプションでアームレスト付きの60対40分割ベンチシートも選択可能でした。また、1976年から1977年のリーガルクーペには、コーデュロイ張りのリクライニングバケットシートを含むS/Rオプションが用意されていました。
エンジンは当初、全車で5.7L V8が標準搭載され、よりパワフルな7.5L V8は1973年から1974年にかけてオプションで提供されました。クーペモデルには1975年から3.8L V6が標準エンジンとして設定されました。1975年から1976年当時、アメリカの中型車でV6エンジンを用意していたのは、センチュリーとリーガルだけでした。
この初代リーガルは、人気テレビドラマ『刑事コジャック』において、テリー・サバラス演じる主人公コジャック警部補の愛車（覆面パトカー）として登場し、広く知られることとなりました。
1978年にはボディサイズを縮小した2代目リーガルが登場し、9年という長いモデルライフを過ごしました。搭載エンジンは、当初新開発の3.2L V6が標準でしたが、1980年には実績ある3.8L V6の改良版が標準となりました。V8エンジンも引き続き提供されましたが、排気量は4.3L（1980-1981年のみ）に縮小されました。当初は3速MTが標準でしたが、後にATが主流となりました。
この2代目リーガルは、元々中型高級パーソナルカーとして設計されたにも関わらず、性能面で予期せぬ評価を得ることになりました。しかし、そのポテンシャルは、ソフトなサスペンション、小径のホイールとタイヤ、そして後年MT設定がなくなったことによって、十分に引き出せない側面もありました。
特筆すべきは、1978年モデルに設定された3.8L V6ターボエンジンとATの組み合わせです。当時、アメリカ市場でターボチャージャー搭載車はビュイック・ルセーバー、そして輸入車のサーブとポルシェ930に限られており、リーガルターボはその数少ない選択肢の一つでした。このモデルは、強化されたハンドリング性能を持つサスペンションや大径のタイヤ、スポーツホイールといった装備も与えられていました。
1981年に実施されたフェイスリフトは、リーガルにより空力的に洗練されたフォルムをもたらし、これがNASCARレーシングサーキットでの競争力を高める結果となりました。滑らかなフードとノーズ形状はNASCARの複数のチームに好まれ、リチャード・ペティは1981年のデイトナ500でこの車をドライブして優勝。リーガルは1981年と1982年に主要レースで勝利を重ね、NASCARのマニュファクチャラータイトルを連続で獲得しました。
1982年には新しいFFレイアウトのAボディを採用したセンチュリーが登場しましたが、それまでのFRレイアウトのセンチュリーセダンとワゴンはリーガルという車名に変更されて販売が続けられました。しかし、ワゴンは1983年に、セダンはその翌年にラインアップから姿を消しました。
モデル末期となる1986年から1987年にかけては、オールズモビル製の5.0L V8がオプションで設定され、3.8L V6が標準エンジンでした。これらいずれのエンジンにも、オーバードライブ機能付きの4速ATがオプションとして用意されていました。
2代目リーガルの中で特に伝説的な存在となったのが「グランドナショナル」です。1982年2月、NASCARグランドナショナルシリーズでの成功を受けて、その名を冠した最上級モデルとして登場しました。初期の1982年モデルは、252立方インチ（4.1L）のV6自然吸気エンジンを搭載し、127PSを発生しました。翌1983年モデルで一度廃止され、ビュイック共通の上級グレードであるT-タイプが一時的に最上位となりますが、1984年にはエンジンや外観を一新し、再び最上級モデルとして復活します。
復活した新型グランドナショナルには、231.3立方インチ（3.8L）V6エンジンにターボチャージャーを組み合わせた強力なユニットが搭載されました。このエンジンは、マルチポイントインジェクションやデスビレス点火装置など、当時としては先進的な技術を採用しており、203PSというスペックを発生しました。これは、それまでアメリカ車の主流であった大排気量V型8気筒エンジンにも匹敵する性能であり、クォーターマイル（約400m）を15.9秒で走破するなど、当時のシボレー・コルベット（15.2秒）に迫るパフォーマンスを秘めていました。
その後も進化を続け、1986年モデルではインタークーラーの改良により出力が235PSに向上。1987年の最終モデルでは、さらに248PS、49.0kgf·mまでパワーアップを果たし、その人気を決定的なものとしました。全身をブラックで統一した外観から、当時流行した映画『スター・ウォーズ』のキャラクター、ダース・ベイダーになぞらえて「ベイダーカー」とも呼ばれました。その人気はアメリカ国内でも非常に高く、自動車関連のメディア企画で「復活してほしい車ランキング」に選出されることもありました。
2代目リーガルの生産終了を翌年に控えた1987年、この世代の最後を飾るスペシャルモデルとして限定生産されたのが「GNX」です。ビュイック工場で製造されたグランドナショナル500台が、ミシガン州のマクラーレン・エンジニアリングに送られ、そこでGNXへとアップグレードされるという特別な手法が取られました。
エンジンは、ターボチャージャー、インタークーラー、吸気パイプが改良され、さらにECUのチューニングによってブースト圧が高められました。これにより、スペックはノーマルのグランドナショナルを大きく上回る280PS、49.8kgf·mに達しました。このモデルには、エンジンだけでなく、サスペンションやトランスミッションなど、各部に徹底的なモディファイが加えられています。外装の特徴は、ベースモデルではメッキパーツだった部分まで全てブラックアウトされている点です。
こうした改良の結果、GNXはクォーターマイル加速12.7秒、0-60mph（約97km/h）加速4.6秒という驚異的なタイムを記録しました。これは、当時のフェラーリF40やポルシェ911（930型）をも凌駕する数値であり、世界中の自動車エンスージアストから大きな注目を集めました。
1988年モデルイヤーに登場した3代目は、プラットフォームにGMのWプラットフォームを採用し、初めてFF（前輪駆動）レイアウトとなりました。モデルライフは9年間に及び、その間に小変更が加えられました。本来のコンセプトである高級パーソナルカーに回帰し、当初は2ドアクーペのみがラインアップされましたが、市場のニーズの変化に対応するため、1990年には4ドアセダンが再び設定されました（これは姉妹車のオールズモビル・カトラスシュープリームやポンティアック・グランプリでも同様の動きでした）。
グレード構成は、ベーシックな「カスタム」、上級の「リミテッド」、そしてスポーティーな「グランスポーツ」の3種類が用意されました。搭載エンジンは、ベースモデルが当初2.8L V6を搭載し、翌年には3.1Lに排気量が拡大されました。グランスポーツには、姉妹車と差別化された高性能な3.8L V6エンジンが搭載されました。しかし、残念ながら先代で人気を博したV8やV6ターボといった高性能エンジンは廃止され、高性能版のラインアップは途絶えました。
年次改良も行われ、1992年にはカスタムを除くグレードにABSが標準装備されました。1993年にはグリルのデザインが変更され、リアのテールライトとバンパーが上位車種のルセーバー風に改められ、電子制御ATが導入されました。1994年にはベースモデルの出力が向上し、全モデルで運転席エアバッグ、ABS、パワーウインドウが標準装備化されました。また、リミテッドのクーペモデルはこの年で廃止となりました。1995年にはインテリアデザインが一新され、デュアルエアバッグが装備されました。1996年には3.8L V6エンジンの出力がさらに向上しました。この年は最終モデルイヤーとされていましたが、次期モデルの登場が遅れたため、1997年まで生産が継続されました。
1997年モデルイヤーで登場した4代目リーガルは、再びセンチュリーの上級モデルという位置づけに戻りました。オールズモビル・イントリーグ、ポンティアック・グランプリ、シボレー・インパラといったGMの他部門の中型車と同様に、改良されたWプラットフォームをベースとして開発されました。ボディタイプは4ドアセダンのみの設定となりました。経済性を重視したセンチュリーに対し、リーガルはよりパワフルな新型3.8L V6エンジンを搭載し、装飾性の高い内装や豊富な快適装備を備えることで差別化されました。先代までのリーガルやセンチュリーには6人乗り仕様が存在しましたが、この4代目ではグランプリやイントリーグ（カトラスシュープリーム後継）と同様に、全グレードが5人乗りとなりました。
4代目には、2代目グランドナショナル以来となる高性能グレード「GS」が存在しました。ターボチャージャーではなくスーパーチャージャーを採用し、240hp（約180kW）、280lb-ft（約380Nm）を発揮しました。2000年には、インタークーラーを備えた3.8Lスーパーチャージャーエンジンを搭載したコンセプトカー「コンセプトGNX」も発表されました。このコンセプトモデルは、オリジナルのGNX（276hp）を超える300hp（約220kW）を発生する potent なモデルでした。
この世代の特筆すべき点は、中国市場での展開です。2002年12月26日、上海GMでビュイックブランドの4番目の車種としてリーガルの製造が開始されました。中国ではこのモデルがセンチュリーの後継となり、米国仕様とはわずかに異なるフロントデザインを持っていました。搭載エンジンは北米仕様とは大きく異なり、2.0L直列4気筒と2.5L V型6気筒の2種類が用意されました。米国仕様よりも高価な設定でしたが、大型で比較的豪華なセダンとして、中国市場で相当数の販売台数を記録しました。また、この中国生産モデルは、フィリピンにシボレー・ルミナとして輸出もされました。
北米市場向けのリーガルは、2004年モデルを最後に一旦生産を終了しました。そのポジションは、同じWプラットフォームをベースとしたビュイック・ラクロスが引き継ぐ形となりました。一方、中国では生産が続けられ、2008年まで製造された後、次期モデルに移行しました。
2008年11月、オペル・インシグニアをベースとした全く新しいビュイック・リーガルが中国市場で先行発売されました。搭載されるエンジンは直列4気筒のみで、当初は2.4L自然吸気と2.0Lターボが用意されましたが、後に2.0L自然吸気と1.6Lターボも追加されました。トランスミッションは、1.6Lターボには6速MTが設定されたほかは、全て6速ATとの組み合わせでした。
遅れて2009年11月、ロサンゼルスで開催されたイベントで、GMはリーガルを2010年の第2四半期に北米市場に導入することを発表しました。北米においては、新型リーガルはラクロスの下位に位置づけられ、アキュラTSXやボルボS60といった上級セダンとの競合を目指しました。北米での発売当初は、2.4L直列4気筒（182hp）エンジンのみが提供されましたが、220hpを発揮する2.0Lターボモデルが2010年末に追加されました。これらいずれにも6速ATが組み合わされましたが、ビュイックのチーフエンジニアは6速MTもオプションで用意される可能性に言及していました。また、ハイブリッド仕様の追加も報じられていました。
北米向けリーガルは、2011年モデルではCXLグレードのみが提供され、他のグレードは2012年以降に追加される予定でした。価格帯は、CXLが26,995ドルから、CXLターボが29,495ドルからと発表されました。ベーシックグレードのCXも2012年に追加されると見込まれていました。
生産については、北米向けリーガルは発売当初はオペル・インシグニアとともにドイツのリュッセルスハイム工場で製造されていましたが、2011年第1四半期からはカナダのオシャワ工場での生産に切り替えられました。
2010年の北米国際オートショーでは、オペル・インシグニアOPCのビュイック版ともいえる高性能コンセプトカー「リーガルGSコンセプト」が出展されました。255hpを発揮する直列4気筒ターボエンジンにマニュアルトランスミッションを組み合わせ、駆動方式はAWDとなるモデルでした。このGSコンセプトの市販化も検討されていました。
6代目リーガルは、2017年4月にアメリカ、同年7月には中国で販売が開始されました。ベースとなったオペル・インシグニアと同様に、流麗な5ドアセダンの「スポーツバック」に加え、オペル・インシグニアのカントリーツアラーに相当するクロスオーバー風のステーションワゴンモデル「TOUR X」が設定されました。
最終的に、GMがビュイックブランドのラインアップをSUV中心とする戦略を決定したことにより、リーガルは2020年モデルをもって生産を終了し、その歴史に幕を下ろしました。
歴史
初代（1973-1977年）
ビュイックは1963年にフルサイズの高級パーソナルカーであるリヴィエラで市場に参入しましたが、それよりも手頃な価格帯の中型高級パーソナルカー市場の開拓においては、ポンティアックのグランプリ（1969年）やシボレーのモンテカルロ（1970年）、オールズモビルのカトラスシュープリーム（1970年）といった他部門の車種に比べて出遅れていました。これらの競合に対抗するため、1973年にビュイックは中型車ラインアップであるAボディのセンチュリーの最上位モデルとして「センチュリーリーガル」を発表しました。この年は、1968年に登場したGMのAボディが初めて全面改良を受けた時期にあたります。
初期のリーガルは、フロントとリアのスタイリングが姉妹モデルのセンチュリーと共通部分が多かったものの、専用デザインのグリルやテールライトレンズによって差別化が図られました。車体構造においては、姉妹車であるグランプリ、モンテカルロ、カトラスシュープリーム、そして下位のセンチュリーラグゼスクーペと共通の「コロネード」（サッシュレスでありながらセンターピラーを持つ）と呼ばれるピラー構造を持つハードトップルーフラインとウインドウエリアを採用。さらに、シートメタルに囲まれた特徴的な小さな嵌め殺し窓である「オペラウインドウ」を備えていました。
当初は2ドアのコロネードハードトップクーペのみが提供されましたが、1974年にはサッシュレスドアを持つ4ドアのコロネードセダンがラインアップに加わりました。1975年には車名から「センチュリー」が外れ、「リーガル」として独立。1976年にはフェイスリフトが実施され、合法化された角形ヘッドライトがクーペでは横並び、セダンでは縦並びの配置となりました。
リーガルのインテリアは、センチュリーよりも豪華に仕立てられていました。ダッシュボードやドアパネルには木目調の装飾が施され、布地、ベロア、ビニール張りのセンターアームレスト付きノッチバックベンチシートが標準装備。オプションでアームレスト付きの60対40分割ベンチシートも選択可能でした。また、1976年から1977年のリーガルクーペには、コーデュロイ張りのリクライニングバケットシートを含むS/Rオプションが用意されていました。
エンジンは当初、全車で5.7L V8が標準搭載され、よりパワフルな7.5L V8は1973年から1974年にかけてオプションで提供されました。クーペモデルには1975年から3.8L V6が標準エンジンとして設定されました。1975年から1976年当時、アメリカの中型車でV6エンジンを用意していたのは、センチュリーとリーガルだけでした。
この初代リーガルは、人気テレビドラマ『刑事コジャック』において、テリー・サバラス演じる主人公コジャック警部補の愛車（覆面パトカー）として登場し、広く知られることとなりました。
2代目（1978-1987年）
1978年にはボディサイズを縮小した2代目リーガルが登場し、9年という長いモデルライフを過ごしました。搭載エンジンは、当初新開発の3.2L V6が標準でしたが、1980年には実績ある3.8L V6の改良版が標準となりました。V8エンジンも引き続き提供されましたが、排気量は4.3L（1980-1981年のみ）に縮小されました。当初は3速MTが標準でしたが、後にATが主流となりました。
この2代目リーガルは、元々中型高級パーソナルカーとして設計されたにも関わらず、性能面で予期せぬ評価を得ることになりました。しかし、そのポテンシャルは、ソフトなサスペンション、小径のホイールとタイヤ、そして後年MT設定がなくなったことによって、十分に引き出せない側面もありました。
特筆すべきは、1978年モデルに設定された3.8L V6ターボエンジンとATの組み合わせです。当時、アメリカ市場でターボチャージャー搭載車はビュイック・ルセーバー、そして輸入車のサーブとポルシェ930に限られており、リーガルターボはその数少ない選択肢の一つでした。このモデルは、強化されたハンドリング性能を持つサスペンションや大径のタイヤ、スポーツホイールといった装備も与えられていました。
1981年に実施されたフェイスリフトは、リーガルにより空力的に洗練されたフォルムをもたらし、これがNASCARレーシングサーキットでの競争力を高める結果となりました。滑らかなフードとノーズ形状はNASCARの複数のチームに好まれ、リチャード・ペティは1981年のデイトナ500でこの車をドライブして優勝。リーガルは1981年と1982年に主要レースで勝利を重ね、NASCARのマニュファクチャラータイトルを連続で獲得しました。
1982年には新しいFFレイアウトのAボディを採用したセンチュリーが登場しましたが、それまでのFRレイアウトのセンチュリーセダンとワゴンはリーガルという車名に変更されて販売が続けられました。しかし、ワゴンは1983年に、セダンはその翌年にラインアップから姿を消しました。
モデル末期となる1986年から1987年にかけては、オールズモビル製の5.0L V8がオプションで設定され、3.8L V6が標準エンジンでした。これらいずれのエンジンにも、オーバードライブ機能付きの4速ATがオプションとして用意されていました。
グランドナショナル (Grand National)
2代目リーガルの中で特に伝説的な存在となったのが「グランドナショナル」です。1982年2月、NASCARグランドナショナルシリーズでの成功を受けて、その名を冠した最上級モデルとして登場しました。初期の1982年モデルは、252立方インチ（4.1L）のV6自然吸気エンジンを搭載し、127PSを発生しました。翌1983年モデルで一度廃止され、ビュイック共通の上級グレードであるT-タイプが一時的に最上位となりますが、1984年にはエンジンや外観を一新し、再び最上級モデルとして復活します。
復活した新型グランドナショナルには、231.3立方インチ（3.8L）V6エンジンにターボチャージャーを組み合わせた強力なユニットが搭載されました。このエンジンは、マルチポイントインジェクションやデスビレス点火装置など、当時としては先進的な技術を採用しており、203PSというスペックを発生しました。これは、それまでアメリカ車の主流であった大排気量V型8気筒エンジンにも匹敵する性能であり、クォーターマイル（約400m）を15.9秒で走破するなど、当時のシボレー・コルベット（15.2秒）に迫るパフォーマンスを秘めていました。
その後も進化を続け、1986年モデルではインタークーラーの改良により出力が235PSに向上。1987年の最終モデルでは、さらに248PS、49.0kgf·mまでパワーアップを果たし、その人気を決定的なものとしました。全身をブラックで統一した外観から、当時流行した映画『スター・ウォーズ』のキャラクター、ダース・ベイダーになぞらえて「ベイダーカー」とも呼ばれました。その人気はアメリカ国内でも非常に高く、自動車関連のメディア企画で「復活してほしい車ランキング」に選出されることもありました。
GNX (Grand National Experimental)
2代目リーガルの生産終了を翌年に控えた1987年、この世代の最後を飾るスペシャルモデルとして限定生産されたのが「GNX」です。ビュイック工場で製造されたグランドナショナル500台が、ミシガン州のマクラーレン・エンジニアリングに送られ、そこでGNXへとアップグレードされるという特別な手法が取られました。
エンジンは、ターボチャージャー、インタークーラー、吸気パイプが改良され、さらにECUのチューニングによってブースト圧が高められました。これにより、スペックはノーマルのグランドナショナルを大きく上回る280PS、49.8kgf·mに達しました。このモデルには、エンジンだけでなく、サスペンションやトランスミッションなど、各部に徹底的なモディファイが加えられています。外装の特徴は、ベースモデルではメッキパーツだった部分まで全てブラックアウトされている点です。
こうした改良の結果、GNXはクォーターマイル加速12.7秒、0-60mph（約97km/h）加速4.6秒という驚異的なタイムを記録しました。これは、当時のフェラーリF40やポルシェ911（930型）をも凌駕する数値であり、世界中の自動車エンスージアストから大きな注目を集めました。
3代目（1988-1996年）
1988年モデルイヤーに登場した3代目は、プラットフォームにGMのWプラットフォームを採用し、初めてFF（前輪駆動）レイアウトとなりました。モデルライフは9年間に及び、その間に小変更が加えられました。本来のコンセプトである高級パーソナルカーに回帰し、当初は2ドアクーペのみがラインアップされましたが、市場のニーズの変化に対応するため、1990年には4ドアセダンが再び設定されました（これは姉妹車のオールズモビル・カトラスシュープリームやポンティアック・グランプリでも同様の動きでした）。
グレード構成は、ベーシックな「カスタム」、上級の「リミテッド」、そしてスポーティーな「グランスポーツ」の3種類が用意されました。搭載エンジンは、ベースモデルが当初2.8L V6を搭載し、翌年には3.1Lに排気量が拡大されました。グランスポーツには、姉妹車と差別化された高性能な3.8L V6エンジンが搭載されました。しかし、残念ながら先代で人気を博したV8やV6ターボといった高性能エンジンは廃止され、高性能版のラインアップは途絶えました。
年次改良も行われ、1992年にはカスタムを除くグレードにABSが標準装備されました。1993年にはグリルのデザインが変更され、リアのテールライトとバンパーが上位車種のルセーバー風に改められ、電子制御ATが導入されました。1994年にはベースモデルの出力が向上し、全モデルで運転席エアバッグ、ABS、パワーウインドウが標準装備化されました。また、リミテッドのクーペモデルはこの年で廃止となりました。1995年にはインテリアデザインが一新され、デュアルエアバッグが装備されました。1996年には3.8L V6エンジンの出力がさらに向上しました。この年は最終モデルイヤーとされていましたが、次期モデルの登場が遅れたため、1997年まで生産が継続されました。
4代目（1997-2008年）
1997年モデルイヤーで登場した4代目リーガルは、再びセンチュリーの上級モデルという位置づけに戻りました。オールズモビル・イントリーグ、ポンティアック・グランプリ、シボレー・インパラといったGMの他部門の中型車と同様に、改良されたWプラットフォームをベースとして開発されました。ボディタイプは4ドアセダンのみの設定となりました。経済性を重視したセンチュリーに対し、リーガルはよりパワフルな新型3.8L V6エンジンを搭載し、装飾性の高い内装や豊富な快適装備を備えることで差別化されました。先代までのリーガルやセンチュリーには6人乗り仕様が存在しましたが、この4代目ではグランプリやイントリーグ（カトラスシュープリーム後継）と同様に、全グレードが5人乗りとなりました。
4代目には、2代目グランドナショナル以来となる高性能グレード「GS」が存在しました。ターボチャージャーではなくスーパーチャージャーを採用し、240hp（約180kW）、280lb-ft（約380Nm）を発揮しました。2000年には、インタークーラーを備えた3.8Lスーパーチャージャーエンジンを搭載したコンセプトカー「コンセプトGNX」も発表されました。このコンセプトモデルは、オリジナルのGNX（276hp）を超える300hp（約220kW）を発生する potent なモデルでした。
この世代の特筆すべき点は、中国市場での展開です。2002年12月26日、上海GMでビュイックブランドの4番目の車種としてリーガルの製造が開始されました。中国ではこのモデルがセンチュリーの後継となり、米国仕様とはわずかに異なるフロントデザインを持っていました。搭載エンジンは北米仕様とは大きく異なり、2.0L直列4気筒と2.5L V型6気筒の2種類が用意されました。米国仕様よりも高価な設定でしたが、大型で比較的豪華なセダンとして、中国市場で相当数の販売台数を記録しました。また、この中国生産モデルは、フィリピンにシボレー・ルミナとして輸出もされました。
北米市場向けのリーガルは、2004年モデルを最後に一旦生産を終了しました。そのポジションは、同じWプラットフォームをベースとしたビュイック・ラクロスが引き継ぐ形となりました。一方、中国では生産が続けられ、2008年まで製造された後、次期モデルに移行しました。
5代目（2008-2017年）
2008年11月、オペル・インシグニアをベースとした全く新しいビュイック・リーガルが中国市場で先行発売されました。搭載されるエンジンは直列4気筒のみで、当初は2.4L自然吸気と2.0Lターボが用意されましたが、後に2.0L自然吸気と1.6Lターボも追加されました。トランスミッションは、1.6Lターボには6速MTが設定されたほかは、全て6速ATとの組み合わせでした。
遅れて2009年11月、ロサンゼルスで開催されたイベントで、GMはリーガルを2010年の第2四半期に北米市場に導入することを発表しました。北米においては、新型リーガルはラクロスの下位に位置づけられ、アキュラTSXやボルボS60といった上級セダンとの競合を目指しました。北米での発売当初は、2.4L直列4気筒（182hp）エンジンのみが提供されましたが、220hpを発揮する2.0Lターボモデルが2010年末に追加されました。これらいずれにも6速ATが組み合わされましたが、ビュイックのチーフエンジニアは6速MTもオプションで用意される可能性に言及していました。また、ハイブリッド仕様の追加も報じられていました。
北米向けリーガルは、2011年モデルではCXLグレードのみが提供され、他のグレードは2012年以降に追加される予定でした。価格帯は、CXLが26,995ドルから、CXLターボが29,495ドルからと発表されました。ベーシックグレードのCXも2012年に追加されると見込まれていました。
生産については、北米向けリーガルは発売当初はオペル・インシグニアとともにドイツのリュッセルスハイム工場で製造されていましたが、2011年第1四半期からはカナダのオシャワ工場での生産に切り替えられました。
2010年の北米国際オートショーでは、オペル・インシグニアOPCのビュイック版ともいえる高性能コンセプトカー「リーガルGSコンセプト」が出展されました。255hpを発揮する直列4気筒ターボエンジンにマニュアルトランスミッションを組み合わせ、駆動方式はAWDとなるモデルでした。このGSコンセプトの市販化も検討されていました。
6代目（2017年-2020年）
6代目リーガルは、2017年4月にアメリカ、同年7月には中国で販売が開始されました。ベースとなったオペル・インシグニアと同様に、流麗な5ドアセダンの「スポーツバック」に加え、オペル・インシグニアのカントリーツアラーに相当するクロスオーバー風のステーションワゴンモデル「TOUR X」が設定されました。
最終的に、GMがビュイックブランドのラインアップをSUV中心とする戦略を決定したことにより、リーガルは2020年モデルをもって生産を終了し、その歴史に幕を下ろしました。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。