ピアノソナタ第1番 (シューマン)

ピアノソナタ第1番 嬰ヘ短調 作品11

ロベルト・シューマンが1832年から1835年にかけて作曲し、1836年に出版したピアノソナタ第1番嬰ヘ短調 作品11は、彼が初めてソナタ形式の大作に挑んだ作品です。それまで幻想曲や変奏曲といった小品を手掛けてきたシューマンにとって、この作品は新たな境地を開く試みでした。

概要

初版には「フロレスタンとオイゼビウスによるピアノソナタ、クララに献呈」という題名が付けられており、シューマンの文学と音楽の融合への強い意欲が表れています。作品の随所に標題音楽的な要素が見られるのも特徴です。しかし、高度なピアノ演奏技巧を盛り込みすぎたため、当時の批評家からは「難解である」「観念的に混乱している」といった批判も受けました。作曲者自身も後に「生命力に欠けている」と自己批判しています。しかし、現代ではピアニストの重要なレパートリーとして広く演奏され、その芸術性が再評価されています。

楽曲構成

全4楽章で構成されています。

第1楽章 Introduktion：un poco Adagio - Allegro vivace

1832年に作曲された「アレグロ・ファンダンゴ」を改作したもので、嬰ヘ短調、4分の3拍子です。音域の広い左手の三連符の伴奏に乗せて、右手が鋭い付点リズムの主題を奏でる長大な序奏から始まります。この序奏は単なる導入だけでなく、再現部の前にも現れ、第2楽章の主題も予告する役割も担っています。最後はアルペジオに発展し、Allegro vivaceに移行します。

Allegro vivaceでは、左手の五度跳躍による特徴的な動機から第1主題が始まります（嬰ヘ短調、4分の2拍子）。主題提示後、スタッカート付きの和音連打によって主題が奏でられ、この主題と和音の連打が第1楽章全体を支配します。変ホ短調に転調した後、定石通りに現れるイ長調の第2主題は、8分音符主体の和音で穏やかに進行します。展開部では第1主題の動機を中心に展開し、途中ヘ短調で序奏の主題がバス声部に現れます。再現部は短縮され、最後は静かに終わります。

第2楽章 Aria：Senza passione, ma espressivo

イ長調、4分の3拍子、簡潔な三部形式です。1827年に作曲した歌曲「アンナに寄せて―谷ではなく」の主題を用いた歌謡風の楽章です。第1楽章の主要動機である左手の五度跳躍も効果的に用いられています。途中、ヘ長調に転調する部分では、中声部にメロディーが移行し、右手は16分音符による分散和音を奏でます。

第3楽章 Scherzo e Intermezzo：Allegrissimo

嬰ヘ短調、4分の3拍子です。スケルツォ楽章ですが、ロンド形式に近い構成（A-B-A-C-A）をとっています。冒頭では、左手に付点音符が特徴的な主題が現れ、右手は和音で補完します。途中からは左右がユニゾンになったり、掛け合い風のパッセージも登場します。中間部はニ長調のポロネーズ風の間奏曲となり、その後の再現部の前には小節線を排した自由なレチタティーヴォも置かれています。このレチタティーヴォの中には「オーボエ風に」という指示も書かれており、スケルツォでありながらこのような要素を取り入れることで、シューマンらしい古い習慣への皮肉が込められているとも言われています。他の楽章と異なり、フラット系への大胆な転調は行われていません。

第4楽章 Finale：Allegro un poco maestoso

嬰ヘ短調、4分の3拍子です。分厚い和音の主題で始まる長大な終楽章で、ロンド形式を軸にしながらも、全体は大きな2つの部分とコーダで構成されており、形式的に複雑です。途中で、遠隔調であるハ短調やヘ短調にも転調しますが、最後は同主長調である嬰ヘ長調で終結します。

外部リンク

ピアノソナタ第1番の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
ピアノソナタ第1番 - ピティナ・ピアノ曲事典

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