ピアノソナタ第13番 (ベートーヴェン)

ベートーヴェン：ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1『幻想曲風ソナタ』

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲したピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1は、『幻想曲風ソナタ（"Sonata quasi una Fantasia"）』という特徴的な副題を持つ作品です。

概要

本作は1800年から1801年にかけて構想、完成され、続くピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2、通称『月光ソナタ』と共に、作品27として1802年3月に出版されました。作曲作業は、同時期に進められていたバレエ音楽『プロメテウスの創造物』に関連するスケッチと並行して行われていたことが知られています。このソナタは、ベートーヴェンの重要なパトロンであり、ピアノの門下生でもあったリヒテンシュタイン公爵夫人ヨーゼファ・ツー・フュルステンベルク＝ヴァイトラに献呈されました。ちなみに、彼女の夫であるヨーハン1世は、ピアノソナタ第21番『ヴァルトシュタイン』の愛称の由来となったヴァルトシュタイン伯爵の従兄弟にあたります。

作品27の2曲には、ベートーヴェン自身によって『幻想曲風ソナタ』という名称が与えられています。これは、古典的なソナタの厳格な形式と、より自由で即興的な性格を持つ幻想曲との融合を試みた結果と考えられます。実際、本作はソナタ形式で書かれた楽章を一つも含まないという点で、従来のソナタの枠組みから逸脱しています。また、全ての楽章を続けて（アタッカで）演奏するように指示されている点も、その形式的な独自性を際立たせています。さらに、曲の重心が終楽章に置かれるという傾向が見られ、これは次作『月光』ソナタにおいてさらに顕著になります。

演奏時間は約16分です。

楽曲構成

本作の構成については、一般的に4つの楽章から成ると解説されることが多いですが、第3楽章を終楽章への導入部と捉え、全体を3楽章構成と見なす解釈も存在します。

第1楽章：Andante 2/2拍子 - Allegro 6/8拍子 - Tempo I 2/2拍子 変ホ長調
この楽章は三部形式で書かれています。冒頭に現れる主題は、柔和で穏やかな雰囲気を持ち、4小節単位で提示され、繰り返されます。この主題は、満ち足りた響きの短い中間エピソードを挟んで再び現れ、装飾的な変奏が加えられて繰り返されます。その後、突然アレグロのテンポとなり、ハ長調、6/8拍子へと劇的に変化します。フォルテによるドイツ舞曲風の中間部は、それまでのアンダンテの穏やかさとは著しい対比をなしています。中間部はハ短調を経由して変ホ長調に戻り、音階の上昇とともに閉じられます。中間部の終了と同時に何事もなかったかのようにアンダンテが回帰し、主題は今度は左右の手が旋律を交代して繰り返されます。コーダでは、冒頭主題の要素を用いながらも音数が少なくなり、静かに楽章を閉じます。そのまま休みなく次の楽章へと続きます。

第2楽章：Allegro molto e vivace 3/4拍子 ハ短調
スケルツォに相当すると考えられる、活気に満ちたアレグロです。形式は三部形式。楽章は、左右の手が異なる音域で同時に三和音を奏でる、非旋律的でやや不気味な響きの主題で開始されます。この主題は反復され、同じ主題から派生した中間的なエピソードが挟まれて、再び主題が奏されます。エピソード以下も繰り返されます。中間部は変イ長調となり、スタッカートで刻まれるリズムは狩りの情景を思わせるような特徴を持ちます。主題部が再び現れる際、繰り返しでは左右の手のタイミングが半拍ずれ、右手が滑らかに奏されるのに対し左手はスタッカートで演奏されるなど、さらに不穏な雰囲気が強調されます。この音型がそのまま高揚していき、クライマックスに達したところで崩れ落ちるように楽章を終え、再び休みなく次の楽章へと移行します。

第3楽章：Adagio con espressione 3/4拍子 変イ長調
短いながらも、深い表現力と穏やかな感動を湛えたアダージョ楽章です。8小節から成る、非常に美しい旋律が奏でられます。短い中間エピソードを挟んで、この美しい旋律が再現されます。楽章の終わりには短いカデンツァが挿入され、切れ目なくそのまま最終楽章へと接続されます。

第4楽章：Allegro vivace 2/4拍子 変ホ長調
ロンド形式を基調としながらも、ソナタ形式の要素が強く組み合わされた、終楽章にふさわしい活気あふれる楽章です。楽章は、生き生きとして明るい性格の主要主題で始まります。間断なく続くエピソードも、歯切れが良く溌剌とした動きを持っています。1小節ごとに音域と強弱が交互に変化する推移を経て、変ロ長調の音型的な副主題が現れます。1オクターヴのアルペッジョが弧を描くように上昇する経過句の後、主要主題が再現されます。この後、主要主題は対位法的な手法を用いて巧みに展開され、楽章の頂点を築きます。頂点を過ぎると静かになり、今度は副主題が展開されます。低音に現れるトリルが合図となり、ロンド主題が再び再現されます。経過部を経て、副主題も今度は主調である変ホ長調で再現されます。そのまま結尾句の素材が提示され、クライマックスにおいてフェルマータの付いた和音で一時的に曲の進行が停止します。ここで、第3楽章の美しい旋律が変ホ長調で回想され、カデンツァへと繋がります。最後にプレストの速度へと転じ、主要主題の動機に基づいた華やかなコーダが、煌びやかに全曲を締めくくります。

この作品は、ベートーヴェンの初期から中期への移行期に位置づけられ、形式にとらわれない自由な発想と、後の大作に通じる力強さや表現の深さが共存する、実験的かつ魅力的なソナタと言えるでしょう。

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