ピアノ協奏曲 (シューマン)

ロベルト・シューマン：ピアノ協奏曲 イ短調 作品54

ロベルト・シューマンが作曲したピアノ協奏曲イ短調作品54は、彼の唯一の完成されたピアノ協奏曲であり、1845年に完成されました。この作品は、シューマンがそれ以前に試みたいくつかのピアノ協奏曲の構想を基に、最終的に結実したものです。

作曲の背景

シューマンは、この協奏曲以前にもピアノ協奏曲の作曲を試みていました。1828年には変ホ長調の協奏曲、1829年から1831年にかけてはヘ長調の協奏曲、そして1839年にはニ短調の協奏曲の第1楽章を完成させていますが、いずれも未完に終わっています。1841年に作曲された『ピアノと管弦楽のための幻想曲』が、この協奏曲の第1楽章の原型となりました。1845年、シューマンはこの幻想曲を改作し、間奏曲とフィナーレの2楽章を加えて、ピアノ協奏曲として完成させました。

楽曲構成

この協奏曲は、以下の3つの楽章から構成されています。第2楽章と第3楽章は切れ目なく演奏されるのが特徴です。

1. 第1楽章: Allegro affettuoso（アレグロ・アフェットゥオーソ）
イ短調、4分の4拍子。
冒頭は、イ短調の属音であるホ音の強奏に、ピアノが鋭い付点リズムで応える形で始まります。
第1主題は、木管楽器による素朴な響きが印象的で、オーボエがC-H-Aの主題を提示します。
展開部は、『幻想曲』だった頃の自由な形式を色濃く残しており、変イ長調の夜想曲風の変奏が印象的です。
カデンツァでは、対位法的な処理が施され、シューマンの作曲技術の高さが窺えます。
コーダでは、木管がC-H-Aの主題を繰り返す中、ピアノはオブリガートに徹しています。

2. 第2楽章: Intermezzo; Andantino grazioso（インテルメッツォ：アンダンティーノ・グラツィオーソ）
ヘ長調、4分の2拍子。
間奏曲と題された、落ち着いた楽章です。
冒頭では、ピアノによるA-B-C-Dのつぶやくような音型に、木管が呼応する形で進みます。
最後に、前楽章の主題であるC-H-Aが管楽器によって短調と長調で現れ、楽曲全体の統一感を生み出しています。

3. 第3楽章: Finale; Allegro vivace（フィナーレ：アレグロ・ヴィヴァーチェ）
イ長調、4分の3拍子。
第1主題は、第2楽章の終盤から連続的に示された短い序奏に続いて、ピアノによって登場します。
その後、ピアノが華やかな動きを見せ、弦楽器による弾むようなリズムの第2主題へと続きます。

初演とその後

1846年1月1日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスにて、ロベルトの妻クララ・シューマンのピアノ独奏、献呈者フェルディナント・ヒラーの指揮によって初演されました。シューマンは、この協奏曲の後に『序奏とアレグロ・アパッショナート ト長調』作品92と『序奏と演奏会用アレグロ ニ短調』作品134をピアノと管弦楽のために作曲しています。

楽器編成

独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部

演奏時間

約30分（第1楽章：約15分、第2楽章：約5分、第3楽章：約10分）

その他

ディヌ・リパッティとヘルベルト・フォン・カラヤン指揮による演奏の第1楽章が、『ウルトラセブン』のBGMとして使用されました。
曲中には、シューマンの親友であるルートヴィヒ・シュンケに献呈された作品の一節が引用されており、夭折した親友へのオマージュとなっています。

日本での初演

日本では、1911年5月に東京音楽学校で、橘糸重のピアノ独奏、ハンカ・ペツォールトの伴奏により、2台ピアノ版が演奏されました。管弦楽付きでの初演は、1927年9月18日、宝塚小劇場にて、ヨーゼフ・ラスカ指揮、宝塚交響楽協会によって行われました。

外部リンク

シューマン：ピアノ協奏曲イ短調 - 『ピアノ曲事典』
Piano Concerto Op.54の楽譜)

関連項目

ピアノ協奏曲 (クララ・シューマン)

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