ピアノ協奏曲第11番 (ハイドン)

ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob. XVIII:11

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが作曲した鍵盤楽器のための協奏曲の中でも、特に広く知られ、現代でも頻繁に演奏される作品が、このニ長調の協奏曲 Hob. XVIII:11です。作品は1784年以前に完成したとされています。ハイドンは他にも鍵盤協奏曲を手掛けていますが、そのほとんどが1750年代から1770年代頃の比較的初期の作品であるのに対し、本曲は1780年代の作と見られており、作曲家円熟期に近い時代の作品であることが大きな特徴です。

しばしば『ピアノ協奏曲第11番』という通し番号で呼ばれることがありますが、これはハイドンの鍵盤楽器のための協奏曲（オルガン用を含む）全体にホーボーケン番号のXVIII群として一括して番号を振った結果に過ぎません。チェンバロやピアノといった、独奏楽器としてより一般的な鍵盤楽器のためにハイドンが書いた協奏曲は、実際にはこの曲を含めて3曲のみ（Hob. XVIII:3, 4, 11）であるため、この「第11番」という呼称は、作品の実態を正確に反映しているとは言い難い側面もあります。

楽曲の背景と出版

この協奏曲の正確な作曲時期や詳しい経緯については、残念ながら明確な記録が残されていません。しかし、作曲年代が1780年代、特に1781年頃にハイドンがヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトと親交を深めた時期と重なることから、モーツァルトの同時期のピアノ協奏曲からの音楽的な影響が、ハイドンの他の鍵盤協奏曲と比較して顕著に見られると指摘されています。

作品は1784年にウィーンの出版社アルタリアから「作品37」として世に出されました。同年のうちにパリやロンドンでも出版されており、当時のヨーロッパでの注目度の高さがうかがえます。出版時の表題は『チェンバロまたはフォルテピアノのための協奏曲（Concerto per il clavicembalo o fortepiano）』となっており、当時の主要な鍵盤楽器であったチェンバロと、当時普及しつつあったフォルテピアノのどちらでも演奏できるよう配慮されていました。現代では、モダンピアノによる演奏が圧倒的に主流ですが、オリジナルの指定に倣ってチェンバロやフォルテピアノで演奏される録音も存在します。また、近年ではハープによる演奏も試みられています。

編成

この協奏曲は、独奏鍵盤楽器（チェンバロまたはピアノ）と以下のオーケストラ編成で演奏されます。

オーボエ 2
ホルン 2
第1ヴァイオリン
第2ヴァイオリン
ヴィオラ
低音パート（チェロ、コントラバス。任意でファゴットが加わることもあります）

独奏パートの楽譜には、独奏部分の他に数字付き通奏低音も記されていますが、現代の演奏においては省略されることが一般的です。

楽章構成

全3楽章構成で、全体の演奏時間は約20分です。第1楽章と第2楽章には、独奏者が技巧を披露するためのカデンツァを挿入する箇所が設けられています。

第1楽章 ヴィヴァーチェ

ニ長調、4分の4拍子。協奏ソナタ形式が用いられています。冒頭に現れる第1主題は明るく、親しみやすい旋律ですが、独奏ピアノが登場すると、イ短調によるシンコペーションのリズムが特徴的な対照的な主題が現れます。

第2楽章 ウン・ポコ・アダージョ

イ長調、4分の3拍子。緩やかなテンポで歌われる叙情的な楽章です。

第3楽章 ハンガリー風ロンド：アレグロ・アッサイ

ニ長調、4分の2拍子。活気あふれるロンド形式の楽章です。

「ハンガリー風ロンド（Rondo all'Ungarese）」という副題が付けられていますが、研究者によっては、この主題の起源はハンガリーではなく、ボスニアやダルマチア地方で踊られる舞曲『シリ・コロ（Siri Kolo）』に由来するという説が提唱されています。この主要な主題が繰り返される間に、性質の異なる3つの副次主題が挿入され、長調と短調が鋭く対比されることで、変化に富んだ魅力的な音楽が展開されます。

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