ピアノ協奏曲第2番 (ショパン)

フレデリック・ショパン：ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21

フレデリック・ショパンが作曲したピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21は、1830年にその姿を完成させました。この作品は、出版された順序によって「第2番」という番号が付されていますが、実際にショパンが作曲を終えた協奏曲としては、本作が先に完成したものです。近年、ヤン・エキエルらによって編纂された『ナショナル・エディション』では、こうした事情を考慮し、作品番号とは別に番号を付すことはされていません。曲は完成した年の3月17日、ワルシャワにて、作曲者自身のピアノ演奏により初演されました。

作曲の背景と概要

ショパンはユゼフ・エルスネルに師事し、その下でピアノソナタやピアノ三重奏曲、『ラ・チ・ダレム変奏曲』といった作品を手掛け、作曲家としての経験を積みました。こうした経験を経て、ピアニストとしての名声を確立することを意図して、彼が満を持して取り組んだ最初の本格的な協奏曲がこのヘ短調協奏曲です。

初めての大規模な作品であったことから、この協奏曲は先行して作曲された（しかし出版は後になった）第1番に比べると、形式的にはやや自由な構成を持つ側面があります。しかし、その一方で、音楽の中には随所にショパンならではの独創的な創意工夫が凝らされています。演奏される機会は、残念ながら第1番と比較するとやや少ない傾向にあります。作曲家であり評論家でもあった小林秀雄は、自身が校訂した楽譜の解説の中で、カルクブレンナーのピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品61から影響を受けている可能性を指摘しています。

ショパンが後に作曲し、現在では「夜想曲第20番」として広く知られている『レント・コン・グラン・エスプレッシォーネ』には、この協奏曲の第1楽章や第3楽章からの断片的なモチーフが引用されていることが確認できます。

オーケストレーションと様々な版

この協奏曲については、しばしば管弦楽法がやや未熟であるとの指摘がなされます。この点については、ショパンが当時参考にしていたヴィルトゥオーゾ（技巧派演奏家）たちの協奏曲における手法の影響が考えられます。しかし、ヤン・エキエルらの『ナショナル・エディション』では、このオーケストレーションの「未熟さ」がショパン自身のオリジナルではない可能性を示唆しています。現存する自筆スコアのうち、管弦楽パートの筆跡がショパンのものではなく他者によって書かれているのに対し、ピアノパートのみがショパンの直筆である点がその根拠とされています。ただし、ショパンが友人らと共同で写譜作業を行った可能性も否定できず、断言は難しい状況です。それでも、例えば第3楽章における弦楽器へのコル・レーニョ（弓の木部で弦を叩く奏法）の指示など、ショパン自身が管弦楽の表現においても独自の工夫を凝らしていたことは明らかです。

ナショナル・エディションでは、ユリアン・フォンタナが作成したピアノスコアなどの資料を基に、ショパン本来のオーケストレーションを「復元」しようと試みた「コンサート・エディション」と、伝統的な楽譜に基づき校訂を行った「ヒストリカル・エディション」が作成されました。また、伝統的なオーケストレーションを補強することを目的とした版も複数存在し、アンドレ・メサジェやアルフレッド・コルトーらによって編曲されています。中でもメサジェ版はピアニストのマルグリット・ロンの依頼によって作成され、彼女はこの版を晩年までレパートリーとしました。さらに、2015年にはケヴィン・ケナーが編集したピアノと弦楽五重奏のためのヴァージョンも出版されています。ショパン自身は2台ピアノ版を全く残さなかったため、現在存在する2台ピアノのための編曲版は、全て他者による創作となっています。

この作品は、ショパンがパリで親交を結んだデルフィナ・ポトツカ伯爵夫人に献呈されています。

編成と演奏時間

オーケストラの編成は、フルート2、オーボエ2、B♭管クラリネット2、ファゴット2、F管ホルン2、B♭管トランペット2、バストロンボーン、ティンパニ、そして弦楽五部（ヴァイオリンI, II, ヴィオラ, チェロ, コントラバス）です。

全曲の演奏時間は約30分です。ショパンの祖国であるポーランドでは、第1番と同様に比較的ゆっくりとしたテンポで演奏されることが好まれる傾向があり、ショパン国際ピアノコンクールにおいてもこうした解釈が踏襲されることが多いようです。

楽曲構成

この協奏曲は標準的な3つの楽章から構成されています。

1. 第1楽章 Maestoso ヘ短調 4/4拍子
協奏風ソナタ形式で書かれています。オーケストラによる提示部は、対話するような第1主題と、オーボエによって提示される変イ長調の美しい第2主題からなります。独奏ピアノがドラマティックに登場すると、情熱的な音楽が展開されます。再現部では、第2主題が提示部と同じく変イ長調で再現されるのが特徴的です。

2. 第2楽章 Larghetto 変イ長調 4/4拍子
三部形式による緩徐楽章です。この楽章について、ショパンは友人のティトゥス・ヴォイチェホフスキに宛てた手紙の中で、当時心惹かれていた女性、コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現したものであると述べています。中間部は変イ短調に転じ、弦楽器の刻むような伴奏の上に、ピアノがユニゾンで激しいレチタティーヴォ風の旋律を奏でます。

3. 第3楽章 Allegro vivace ヘ短調～ヘ長調 3/4拍子
コーダを伴うロンド形式で、ポーランドの代表的な民族舞踊であるマズルカ、特にオベレクの要素が色濃く反映されています。ロンド主題とエピソードが繰り返される中で、中間部では弦楽器にコル・レーニョ奏法が指示され、ピアノもユニゾンで力強い響きを生み出します。華やかなコーダはヘ長調に転じ、ホルンのファンファーレが鳴り響き、明るく輝かしく全曲が閉じられます。

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