ピアース (ISS)

ピアース・ドッキング室 (Pirs Docking Compartment)

「ピアース・ドッキング室」は、国際宇宙ステーション（ISS）の一部として機能したロシアのモジュールです。ロシア語で「埠頭」を意味する「ピアース（Пирс）」、あるいは「ドッキング室」を意味する「スティカヴァチヌイ・オステク1（Стыковочный отсек）」と呼ばれるほか、英語の略称「DC-1」やロシア語の略称「SO-1」としても知られています。

ISSの計画初期段階で構想された、ロシアの二つのドッキングモジュールのうちの一つとして、2001年9月に打ち上げられました。ISSの主要な居住・生命維持モジュールである「ズヴェズダ」の地球側に結合され、その後の約20年間にわたり、様々な重要な役割を担いました。

主要な機能

ピアースは主に二つの中心的な機能を持っていました。

1. ドッキングポート：ロシアのソユーズ宇宙船やプログレス補給船などの宇宙船がISSに接続するための重要な入り口として機能しました。
2. エアロック：ISSのクルーが宇宙遊泳（船外活動）を行うための出入り口として利用されました。特にロシアのオーラン宇宙服を用いた船外活動は、ピアースを拠点として行われることが原則とされていました。ISSのアメリカ区画にある「クエスト」エアロックでもオーラン宇宙服での船外活動は可能ですが、ロシア区画での作業においてはピアースが主に用いられました。

また、ピアースには推進剤を移送する機能も備わっていました。ドッキングしているプログレス補給船のタンクから、ズヴェズダや「ザーリャ機能的貨物ブロック」の推進システムへ燃料を供給したり、逆にズヴェズダやザーリャからプログレスへ推進剤を移すことが可能でした。

設計と製造

ピアースはロシアの主要な宇宙開発企業であるRKKエネルギアによって製造されました。その設計は、かつて運用されていたミール宇宙ステーションで使用されたドッキングモジュールと構造的に類似しており、ソユーズTMAやプログレスMといったロシアの標準的な宇宙船とのドッキングに対応できるよう設計されていました。

打ち上げと接続

ピアースは2001年9月14日、ISSの組立ミッション4Rとして、ロシアのソユーズUロケットによって宇宙へ運ばれました。専用の推進モジュールであるプログレスM-SO1を用いて軌道上で移動し、2001年9月16日にズヴェズダサービスモジュールの地球側ポートに無事ドッキングしました。その後、ISSに滞在していた第3次長期滞在クルーが、複数回の船外活動を実施してピアースとISS本体の接続作業を完了させました。

運用の歴史

当初、ISSのロシア区画計画には「SO-2」と呼ばれるもう一つのドッキングモジュールが含まれており、SO-2が設置された後にピアースは廃棄される予定でした。しかし、資金不足などの理由によりSO-2の製造は中止され、計画から削除されたため、ピアースが予定を超えて継続して使用されることになりました。後に、SO-2の計画を引き継ぐ形で「MRM-2」（ポイスク）モジュールが2009年に打ち上げられ、ズヴェズダの上部に結合されました。多目的実験モジュール（MLM）である「ナウカ」にはエアロック機能がないため、MRM-2がピアースのエアロックとしての役割を一部継承することになりました。

ピアースの設計上の運用寿命は5年でしたが、計画変更やISSの運用継続に伴い、この期間を大幅に超過して利用されました。ISSロシア区画の拡張計画、特に大型の多目的実験モジュール「ナウカ」の設置に伴い、ピアースが使用していたポートをナウカに譲るため、その役目を終えることとなりました。

最終運用と廃棄

2021年7月26日、ピアースはISSから分離されました。無人宇宙補給機プログレスMS-16がピアースに結合した状態でISSを離脱し、両モジュールは共に地球の大気圏へ再突入しました。大気圏突入の過程で機体は分解・燃焼し、その残骸は南太平洋の安全な海域に落下しました。これにより、ピアースは約20年にわたるISSでの長期任務を完了しました。

仕様

ピアースは円筒形をしており、与圧モジュールではありませんでした。

長さ: 4.9メートル
直径: 2.25メートル
重量: 3,676キログラム
体積: 13立方メートル

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