ピウス10世 (ローマ教皇)

ピウス10世（Pius X）は、1835年6月2日に生まれ、1914年8月20日に亡くなった、カトリック教会の聖人であり、1903年から1914年までローマ教皇を務めました。本名はジュゼッペ・メルキオッレ・サルト（Giuseppe Melchiorre Sarto）といい、16世紀のピウス5世以来、約400年ぶりに教皇として列聖された人物です。

生涯

ジュゼッペ・サルトは、ヴェネツィアに近いリエーゼで農家の息子として生まれました。父親は郵便局員として配達の仕事をしていました。彼はパドヴァとトレヴィーゾの神学校で学び、1858年に司祭に叙階された後、トマス・アクィナスと教会法を深く研究しました。その後、マントヴァの司教を経て、1896年には枢機卿としてヴェネツィアの大司教に任命されました。

当時、教会とイタリア王国は対立関係にあり、司教の任命をめぐってしばしば衝突していました。サルトの大司教任命もその例外ではなく、イタリア王国からクレームがつきましたが、最終的には問題が解決しました。

1903年8月、レオ13世の死後に行われたコンクラーヴェ（教皇選挙）は、拒否権が行使された最後の選挙となりました。この選挙では、オーストリアの意向を受けた拒否権が最有力候補であったマリアーノ・ランポッラ枢機卿に対して行使され、結果としてサルトが選出されました。彼は教皇としてピウス10世と名乗り、まずコンクラーヴェにおける拒否権を廃止しました。

教皇としての業績

ピウス10世は、保守的な教皇として知られており、「近代主義」と「相対主義」をキリスト教を脅かす思想として強く警戒しました。また、フランス首脳がイタリア王を訪問したことを非難し、フランスとの関係が悪化しました。教会内においては、教会法の改正を指示し、グレゴリオ聖歌の典礼における利用を推進しました。さらに、ジャンセニスムの影響で聖体拝領を敬遠する信徒が多かった状況を憂慮し、頻繁な聖体拝領と子供の早い時期での初聖体を奨励しました。

日本のカトリック教会に対しても配慮を示し、幕末以来パリ外国宣教会のみが活動していた日本に、他の修道会の宣教を許可しました。ピウス10世自身もイエズス会に日本での活動を依頼しており、これが後の上智大学創立へと繋がりました。

晩年

サラエボ事件の直後、ピウス10世はオーストリア皇位継承者カールに、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に戦争の危険性を十分に認識させるよう手紙を送るなど、第一次世界大戦の回避に尽力しようとしました。しかし、歴史上かつてない大規模な戦争が自身の治世中に勃発したことに深いショックを受け、1914年にこの世を去りました。

ピウス10世は、1954年5月29日にピウス12世によって列聖されました。彼の列聖は、その信仰生活と教会への貢献が高く評価された結果です。

ピウス10世は、教会改革、典礼の刷新、信徒の信心生活の促進など、多岐にわたる分野で影響を与えた教皇でした。彼の教えと行動は、現代のカトリック教会にも大きな影響を与え続けています。

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