ピエール・モントゥー

ピエール・モントゥー：20世紀を彩った巨匠の生涯

ピエール・モントゥー (1875年4月4日 - 1964年7月1日) は、20世紀を代表するフランスの指揮者です。パリに生まれ、靴のセールスマンの父とピアニストの母の元に育ちました。南フランスにルーツを持つセファルディムの家系に生まれ、音楽一家の中でも特に才能を開花させました。兄弟には俳優や音楽家もおり、芸術一家としての素養は幼少期から培われていたと言えるでしょう。

パリ音楽院でヴァイオリンを学んだモントゥーは、在学中から指揮活動を開始。卒業後はパリ・オペラ＝コミック座やコロンヌ管弦楽団で楽員を務め、1906年にコロンヌ管弦楽団を指揮してデビューを飾ります。その後、彼のキャリアは大きく躍進していきます。

1911年には、セルゲイ・ディアギレフ率いるロシア・バレエ団の指揮者に就任。これはモントゥーのキャリアにおける大きな転換点となりました。ストラヴィンスキーの『春の祭典』や『ペトルーシュカ』、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』、ドビュッシーの『遊戯』など、20世紀を代表するバレエ音楽の数々の初演を指揮し、バレエ音楽史に大きな足跡を残しました。同年に自らコンセール・ベルリオーズを設立するなど、精力的に活動しました。

第一次世界大戦中は兵役につきましたが、1916年にアメリカへ渡り、翌年にはメトロポリタン歌劇場の指揮者に就任。フランス系のレパートリーを中心に指揮する一方、リムスキー＝コルサコフの『金鶏』のアメリカ初演も手掛けました。戦後はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団やボストン交響楽団（1919年から1924年まで音楽監督）の指揮者を歴任しました。1929年にはパリ交響楽団の創立時の常任指揮者を務め、プロコフィエフの交響曲第3番の世界初演を指揮するなど、現代音楽にも積極的に取り組んでいました。

1935年からサンフランシスコ交響楽団の常任指揮者となり、同楽団の黄金時代を築きます。1953年にサンフランシスコ交響楽団を退任後はフリーとなり、世界各地のオーケストラを客演。1953年にはボストン交響楽団との録音において、RCAビクターが実験的に行ったステレオ録音に参加しており、その一部が1996年に世界最古のステレオ録音としてCD化されるという快挙を達成しました。1961年にはロンドン交響楽団の首席指揮者に就任し、1963年には同楽団を率いて来日公演を行い、NHKでも放送されました。

モントゥーは、古典から近代音楽まで幅広いレパートリーを誇り、力強く豊かな音楽で世界中の聴衆を魅了しました。多くのレコーディングを残しており、その音楽は今も世界中で愛されています。彼はブラームスを深く敬愛しており、晩年のブラームス本人を前に演奏した経験を生涯の誇りとしていたという逸話も残っています。特に「ドイツ・レクイエム」を愛し、最期までその楽譜を胸に抱いていたと言われています。

モントゥーは、この世代の指揮者としては珍しく、後進の育成にも熱心に取り組みました。1943年からアメリカ・メイン州ハンコックで指揮講座を開講し、ネヴィル・マリナー、アンドレ・プレヴィン、デイヴィッド・ジンマンなど、多くの著名な指揮者を育成しました。

ピエール・モントゥーは、類まれな音楽的才能と、情熱的な指揮、そして後進育成への熱意をもって、20世紀の音楽史に不滅の足跡を残した、偉大な指揮者でした。彼の残した膨大なレコーディングは、今も世界中の音楽愛好家たちに感動を与え続けています。

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