ピナクル航空3701便墜落事故

ピナクル航空3701便墜落事故の概要

2004年10月14日22時15分（CDT）、ピナクル航空（現エンデバー航空）3701便、ボンバルディアCRJ-200型機が、アメリカ合衆国ミズーリ州ジェファーソンシティ近郊の住宅地に墜落しました。この事故では、機長と副操縦士の2名が死亡しましたが、回送飛行中であったため、乗客や客室乗務員は搭乗しておらず、地上住民への被害はありませんでした。

機体と乗務員

機体: ボンバルディア CRJ-200 (機体記号：N8396A)。ノースウエスト・エアリンクが所有。
乗務員: 機長と副操縦士の2名のみ（回送のため）。

事故の経緯

当該機は、アーカンソー州リトルロックからミネソタ州ミネアポリスへ回送される途中、高度41,000フィート（約12,000メートル）という高高度で両エンジンが停止しました。パイロットはエンジンの再始動を試みましたが失敗し、滑空状態で最寄りのジェファーソンシティメモリアル空港への着陸を試みたものの、空港の手前約4キロメートルの住宅地に墜落しました。

事故原因は、フライトプランにはない高度41,000フィートへの上昇と、それまでの異常な操縦によるエンジンの過熱に起因する「コアロック」であるとされています。

エンジン停止に至るまでの異常な飛行

フライトデータレコーダー（FDR）の記録によると、当該機は離陸直後から以下のような異常な飛行を行っていました。

離陸直後から約1.8Gの急上昇。
高度上昇に伴う速度低下で失速警報装置が作動するも、上昇を継続。
高度14,000フィートでオートパイロットを作動させ、約80秒間の水平飛行中にパイロットが席を交代。
高度15,000フィート付近で、迎え角17度、重力加速度2.3Gの急上昇後、操縦桿を押し込み0.3Gまで落とすという機動を2回実施。
急激な方向舵操作でラダーリバーサルが発生。
オートパイロットをオンにして再び上昇開始。
高度25,000フィートでオートパイロットを解除し、操縦桿を引いては離す操作を繰り返した後、再びオートパイロットを作動。
オートパイロットの上昇率を毎分600フィートから毎分約6,000フィートに設定。
管制センターに高度41,000フィートまでの上昇許可を要請し、許可を得て上昇。
高度41,000フィートで約3分間飛行後、失速警報装置が作動しオートパイロットが解除。その後、操縦桿が前に移動し、中立位置に。
操縦桿が再び引かれ、失速警報装置とスティックプッシャーが作動。その後も操縦桿の引き起こしを3回繰り返す。
エンジンの回転数が低下し始め、管制センターへの降下要請と同時に両エンジンがフレームアウト。

墜落までの経緯

失速状態は解消されたものの、両エンジンは停止したままでした。高度30,000フィートまで降下しましたが、エンジンのコア回転数はゼロになりました。パイロットは管制センターに13,000フィートまでの降下を要請し、許可されました。

高度約20,000フィートで管制センターから現状を尋ねられた際、パイロットは「1基のエンジンが故障し、再始動のため降下する」と虚偽の報告をしました。実際には両エンジンとも停止しており、管制センターが「片側エンジンは正常な推力がある状態での 'controlled flight' である」と確認した際も、パイロットはこれを否定しませんでした。

マニュアルでは、ウィンドミル始動（飛行による風圧でエンジンを回転させて再始動する方法）には対気速度300ノット以上が必要でしたが、パイロットは不十分な速度で始動を試みました。APUによる再始動も試みられましたが、エンジンは回転しませんでした。

高度約10,000フィートで、パイロットは両エンジンが停止していることを初めて管制センターに伝え、最寄りの空港への誘導を要請。管制センターはジェファーソンシティ空港を提案しましたが、最終的に空港の手前の住宅地に墜落しました。

墜落時の状況

墜落直前、パイロットは空港滑走路には到達できないと判断し、付近のハイウェイへの着陸を試みましたが、住宅地に墜落しました。機長は最後まで着陸脚を出さず、空気抵抗を避けるようにしていました。

事故当時、滑空状態で到達可能な空港は複数ありましたが、パイロットはジェファーソンシティ空港を選択しました。管制センターも、最寄りの空港であったこと、他の空港への旋回による速度と高度の喪失を考慮し、ジェファーソンシティ空港を選択することが適切であると判断しました。

「410クラブ」の存在

ピナクル航空の乗務員の間では、フェリー運航中に高度41,000フィートに到達した者に「410クラブ」の称号を与えるという慣習がありました。事故当時、機長はキャビンから炭酸飲料を持ち帰り、副操縦士と乾杯を交わしていたことが記録されています。

事故原因

国家運輸安全委員会（NTSB）の報告書によると、事故の原因は以下の通りです。

パイロットの非プロフェッショナルな行動、標準操作手順からの逸脱、不適切な操縦。
両エンジンが停止しているにもかかわらず、管制センターへの虚偽報告により、緊急着陸の可能性を自ら低くした。
全エンジン故障時のチェックリストに対する不適切な対応。
エンジンがコアロック状態となり再始動不能になった。
エンジンコアの回転を維持するための適切な速度維持がマニュアルに記載されていなかった。

結論

ピナクル航空3701便墜落事故は、パイロットの不適切な操縦と対応、そして航空機の設計上の問題が複合的に作用した結果、発生した悲劇的な航空事故でした。この事故は、航空業界におけるパイロットの訓練と緊急時の対応、そして航空機の安全基準について、重要な教訓を残しました。

関連項目

航空事故

外部リンク

* NTSB による事故報告書（英文）

もう一度検索