ピュロス戦争

ピュロス戦争：勝利と代償

ピュロス戦争（紀元前280年 - 紀元前275年）は、エペイロス王ピュロスが共和政ローマおよびカルタゴと戦った一連の戦いです。この戦争は、ピュロスが南イタリアのギリシア人植民都市ターレス（現在のターラント）からの要請に応じて、ローマとの戦いを支援するために介入したことから始まりました。

戦争の背景

紀元前290年のサムニウム戦争終結後、ローマはイタリア半島の中部・南部に勢力を拡大していました。一方、マグナ・グラエキアと呼ばれる地域には、紀元前6世紀以来、ギリシア人による植民都市が点在していました。ターレスは、その中でも最大の都市であり、ローマの勢力拡大を警戒していました。

紀元前282年、ターレスはローマ船を攻撃し、これをきっかけにローマとの間に緊張が高まります。ローマは使節を派遣して事態の解決を図ろうとしますが、ターレスはこれを拒否し、ローマは宣戦布告に至ります。ターレスは、エペイロスのピュロス王に支援を要請しました。

ピュロスの参戦と初期の勝利

ピュロスは、当時屈指の軍事指導者であり、戦象を擁する強力な軍隊を持っていました。彼はターレスからの要請に応じ、イタリア半島に上陸します。ピュロスは、ヘラクレアの戦いやアスクルムの戦いにおいて、ローマ軍団に勝利を収めます。しかし、これらの勝利は、ピュロス軍にも大きな損害をもたらしました。

「ピュロスの勝利」の語源

プルタルコスによれば、ピュロスは二度目の勝利の後、「もう一度ローマ軍に勝利したら、我々は滅亡するだろう」と述べたとされています。これは、ピュロス軍の損害が大きく、勝利に見合うだけの成果が得られていないことを示唆しています。このことから、「ピュロスの勝利」という言葉は、甚大な犠牲を伴う勝利、つまり「割に合わない勝利」を意味する慣用句として使われるようになりました。

ローマは豊富な人的資源を有しており、軍団が壊滅しても新たな軍団を編成することができました。一方、ピュロスは本国からの増援を得ることができず、イタリア半島の同盟都市も協力的ではありませんでした。

戦争の転換と終結

ローマとの戦いに疲弊したピュロスは、カルタゴとの戦いのためにシケリア（現在のシチリア島）に転戦します。シケリアでの作戦（紀元前278年 - 紀元前275年）の後、ピュロスはイタリアに戻り、ローマとの最後の戦いに臨みますが敗北します。その後、エペイロスに戻り、紀元前275年にピュロス戦争は終結しました。

ローマの勝利とその影響

紀元前272年、ローマはターレスを奪取し、南イタリアにおける覇権を確立しました。ピュロス戦争は、ローマがヘレニズム国家のプロの傭兵部隊と戦った最初の経験であり、ローマの勝利はヘレニズム世界に新興勢力としてのローマの台頭を意識させました。エジプト王プトレマイオス2世は、ローマとの外交関係を締結しています。

ピュロス戦争は、ローマの軍事力と国力を示すとともに、その後の地中海世界におけるローマの覇権確立の礎となった重要な戦いでした。

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