ヒュロス

ヒュロス：ヘーラクレースの血を引く悲劇の英雄

ヒュロスは、ギリシア神話に登場する英雄であり、偉大な英雄ヘーラクレースとデーイアネイラの間に生まれた息子です。彼はクテーシッポス、グレーノス、オネイテース、マカリアーという兄弟姉妹を持ち、イオレーとの間にクレオダイオスをもうけました。ヒュロスは、ヘーラクレースの血を引く者たち、いわゆるヘーラクレイダイの初代として、数々の困難に立ち向かった人物です。

ミュケーナイとの戦い

両親の死後、ヒュロスはミュケーナイ王エウリュステウスによって迫害を受けます。エウリュステウスは、ヘーラクレースの息子であるヒュロスに王位を奪われることを恐れていました。ヒュロスはまず、トラーキースのケーユクス王のもとに身を寄せましたが、エウリュステウスの脅迫によりそこを追われ、最終的にアテーナイのマラトーンにあるゼウス神殿へと逃げ込みました。アテーナイ王デーモポーンは彼を見捨てず、エウリュステウス率いるミュケーナイ軍と戦うことを決意します。

ヒュロス軍は、ペルセポネーに由緒ある家柄の娘を生贄に捧げることで勝利できるという神託を受けました。その結果、ヘーラクレースの娘マカリアーが自ら命を絶ちます。また、老齢のイオラーオスがヘーラクレースとその妻ヘーベーに祈りを捧げると、天から星が降り注ぎ、黒雲が彼を包み込みました。黒雲の中から若々しい姿で力を取り戻したイオラーオスは、その武勇をいかんなく発揮し、敵将を打ち破り、エウリュステウスを追い詰めます。そして、エウリュステウスはスケイローンの岩の傍らで捕えられ、アルクメーネーによって処刑されます。

ペロポネーソス半島への挑戦と挫折

エウリュステウスを倒した後、ヒュロスはペロポネーソス半島へと侵攻し、その領土を支配下に置きます。しかし、疫病が蔓延し、神託を伺ったところ、定められた時期よりも早くペロポネーソスに帰還してしまったことが原因であると告げられます。ヒュロスはこれを受け入れ、ペロポネーソスから撤退し、マラトーンに戻りました。

その後、ヒュロスはデルポイに赴き、ペロポネーソス帰還に関する神託を伺います。そこで、「3度の収穫の後」に帰還すべきであるという神託を得ます。ヒュロスはこれを「3年後」と解釈し、3年後に再び軍を率いてペロポネーソスに侵攻します。当時、ペロポネーソス半島を支配していたのはオレステースまたはその息子ティーサメノスでした。両軍はコリントス地峡で対峙しますが、ヒュロスは戦争を回避するため、一騎打ちを提案します。ヒュロスは、自身が勝てばヘーラクレイダイはペロポネーソスに帰還し、父祖の権利を主張できるが、もし負ければ今後100年間帰還しないという条件を提示しました。

ペロポネーソス側はこれを受け入れ、テゲアー王エケモスが一騎打ちの相手として名乗りを上げます。激しい戦いの末、ヒュロスはエケモスに敗れ、その生涯を閉じます。ヒュロスの遺体はメガラー地方に埋葬され、この一騎打ちの結果、ヘーラクレイダイは再びペロポネーソスから遠ざかることになりました。ペロポネーソスへの帰還は、テーメノスの時代まで待つことになります。

その他の伝承

パウサニアースによれば、リューディア地方の町テーメノーテュライで、ガイアの子ヒュロスの遺骨が発見されたと言われています。その骨格は人間のものにしては大きすぎたため、ゲーリュオーンの骨であるという噂も立ちました。また、同地にはガイアの子ヒュロスの名にちなんだ川があり、ヘーラクレースがオムパレーに仕えていた際にこの川を知り、息子の名をヒュロスと名付けたという伝承も存在します。一方で、ピロストラトスはプリュギア地方ではヘーラクレースの子ヒュロスの骨が見物できたと述べています。

まとめ

ヒュロスは、英雄ヘーラクレースの息子でありながら、数々の困難と悲劇に翻弄された人物です。彼は、父の遺志を継ぎ、ペロポネーソス半島の支配を試みますが、神託を誤解したことや、一騎打ちでの敗北により、その夢を果たすことができませんでした。しかし、彼の血を引くヘーラクレイダイは、後にペロポネーソス半島へと帰還を果たし、その歴史を大きく動かすことになります。ヒュロスの物語は、ギリシア神話における英雄の栄光と挫折を象徴する物語の一つと言えるでしょう。

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