ピンヤ朝

14世紀前半、現在のミャンマー北部、上ビルマ地域において、シャン族によって樹立された王朝がピンヤ朝（ビルマ語: ပင်းယခေတ）です。1312年に成立し、約半世紀後の1364年に終焉を迎えました。この王朝は、かつて栄えたパガン朝が衰退し、政治的な空白が生まれた時期に登場し、その後のビルマの歴史に影響を与える存在でした。

歴史

シャン族の台頭と建国

13世紀末、強大な力を誇ったパガン朝が衰退期を迎える中、王国東部でシャン族が勢力を拡大していました。特に、アサンカヤー、ヤーザティンジャン、ティハトゥというシャン族の三兄弟は、パガン王室との婚姻を通じて宮廷内部での影響力を強めていきます。元朝の攻撃を受けてパガン王ナラティーハパテが首都から逃れた後、彼は三兄弟にそれぞれミンザイン、メッカヤー、ピンレーといった要地を与えました。

末弟のティハトゥは、1295年に白象王を意味するスィンビューシンの称号を、翌1296年にはパガン朝の王が用いた大王（ミンジー）の称号を使用するなど、独立に向けた動きを見せ始めます。1297年、長兄アサンカヤーはパガン朝の皇太后ソウと結託し、当時の国王チョウスワーを殺害、その息子ソウニッを傀儡として擁立しました。そして1300年、アサンカヤーは自身の本拠地であるミンザインで正式に独立を宣言。ここに、ビルマにおけるシャン族による王朝の歴史が始まりました（この王朝をミンザイン王朝と呼ぶこともあります）。

同年、殺害されたチョウスワーの王子からの要請を受けた元朝の皇帝テムルは、ミンザインへ軍を派遣します。三兄弟は元軍の包囲に耐え抜き、最終的には元軍の指揮官に賄賂を贈ることで撤兵させることに成功しました。元軍が去った後、次弟ヤーザティンジャンは病没します。その後、1310年の春にはティハトゥが長兄アサンカヤーを毒殺し、三兄弟の中で唯一の権力者となりました。

ティハトゥは当初、アヴァを新たな本拠地に定めようと考えましたが、不吉とされる出来事が続いたため、代わりにピンヤの地を選びました。そして1312年、ティハトゥはピンヤをウィザヤプーラ、すなわち「勝利の都」と改称し、正式な都と定めます。新たな都には王宮、寺院、仏塔などが次々と建設されました。ティハトゥは、かつてパガン王室の権威を象徴する金帯と金盆を皇太后ソウから譲り受けることで、自らの王位の正当性を内外に示しました。一方、形式的に王位にあったソウニッは廃位され、ティハトゥの支配下で一地方の領主として晩年を送ることになります。

サガイン朝との並立と滅亡

しかし、建国から間もない1315年頃、ティハトゥの末子にあたるソーユン（彼は長兄の名を受け継ぎアサンカヤーとも呼ばれました）が、エーヤワディー川の対岸、右岸に位置するサガインの地で独立を宣言し、サガイン朝を樹立します。これにより、エーヤワディー川を挟んでピンヤ朝とサガイン朝という二つの王朝が並び立つこととなりました。

治世中の出来事としては、1331年にピンヤの都を襲った大洪水が挙げられます。この洪水により、多くの仏塔や僧坊が大きな被害を受けました。また、歴代の君主が交代し、1344年には前王ウザナの甥であり娘婿でもあるティハトゥ2世が即位しています。

ピンヤ朝の終焉は外敵の侵攻によってもたらされました。1359年には、北方の麓川地域に居住するマオ・シャン族がピンヤへ侵攻し、王朝を混乱に陥れました。そして1364年、再びマオ・シャン族による大規模な攻撃を受け、ピンヤ朝はついに滅亡しました。生き残った王族たちは各地へ逃げ散ったと伝えられています。

同じ年、対岸に存在したサガイン朝もまたマオ・シャン族によって滅ぼされましたが、サガイン朝の王族であったタドミンピャが勢力を集め、後の上ビルマを統一するアヴァ王朝を建国することになります。現在、かつてピンヤ朝の都が栄えた場所には、当時を偲ばせるものはほとんど残っていません。広がる畑の中に、崩壊しかけた仏塔がわずかに点在するのみで、往時の繁栄の面影は失われています。

社会

ピンヤ朝における社会・行政単位としては、かつてパガン朝期に軍事基地として建設された城市（ミョウ）がその中心的な役割を担っていました。地方の開発が進むにつれて、城市は行政だけでなく政治や経済においてもその重要性を増していきました。宗教面では、パガン朝の中期頃から民衆の厚い支持を得ていたアラニャ僧団が、ピンヤ朝の時代を通して社会的な影響力をさらに高めていきました。一方、支配者層となったシャン族に対し、それまで中心的な民族であったビルマ族の一部は、シャン族の支配から逃れるため、南の下ビルマ地域へと移住する動きも見られました。

文化

ピンヤ朝期は、ビルマ語文学が発展した時代でもありました。この時期には、人々の暮らしや情景を歌ったタヤーボエ・タチン（村落の歌）、円盾を使った踊りと共に歌われるカージン、そして季節の移り変わりなどを詠んだヤドゥといった詩歌が多く生み出されました。これらの作品は、パガン朝時代の文学と比較して、より豊かな表現力を持っていたと評価されています。その一方で、古くからビルマ世界で親しまれていたリンガ（古詩）は、この時代には次第に衰退していきました。特に著名なのは、14世紀初頭に宰相サドゥリンガバラによって書かれたヤドゥです。彼の作品は、ビルマ語と仏教の典拠言語であるパーリ語を巧みに組み合わせ、正確かつリズミカルな表現で、難解な仏教の教義について深く問いかける内容となっています。

歴代君主

- ティハトゥ（在位：1309年? - 1325年）
- ウザナ（在位：1321年? - 1340年）
- ミンザインシートゥー（在位：1340年 - 1344年）
- ティハトゥ2世（ンガーシーシン、在位：1344年 - 1350年）
- チョースワー（在位：1350年 - 1359年）
- ティハトゥ3世（在位：1359年 - 1360年）

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