アヴァ王朝
アヴァ王朝（1364年 - 1555年）は、14世紀中頃から16世紀中頃にかけて、現在のミャンマー北部、上ビルマに存在した王国です。シャン族が建国しましたが、王国を実質的に支えたのはビルマ族でした。首都はアヴァ（現在のインワ）に置かれ、「宝石の都」を意味するラタナープラという雅称でも呼ばれました。この王朝の時代、「アヴァ」という言葉は、長らくビルマ全域を指す呼称としても使われました。
パガン朝の崩壊後、上ビルマにはピンヤ朝やサガイン朝が興亡しましたが、マオ・シャン族の侵攻で両国は衰退しました。サガイン王家の王子であったタドミンビャは、マオ・シャン族の侵攻によって荒廃したアヴァ周辺の沼沢地を開発し、1364年にこの地を首都として新たな王朝を創始しました。しかし、初代タドミンビャは国内各地で頻発する地方城市（独立性の強い都市）の反乱鎮圧に奔走しました。
その後、王位を巡る混乱を経て第3代スワーソーケが即位し、中央平原地帯の開発や行政の再編を進めました。彼の治世末期から、南方で勢力を拡大するペグー朝との長期にわたる抗争が始まりました。この争いは数十年続き、第6代ミンカウン1世の時代まで繰り広げられました。アヴァはアラカン王国を従属させるなど勢力拡大を図りましたが、ペグー朝との戦いは激戦となり、特に王子のミンレチョースワが奮戦しました。戦争は1422年に終結しました。
15世紀に入ると、王権の弱体化と地方分権化が進み、各地の城市が自立の動きを強め、反乱が相次ぎました。宮廷内でも王位を巡る争いが頻繁に起こり、政治は不安定化しました。有力な地方領主が台頭し、王位に就く者も現れました。北方のマオ・シャン族とも関係を持ち、一時的に主要な脅威を排除したこともありましたが、明との対立も発生しました。
15世紀末から16世紀初頭にかけて、南方の城市タウングーと北方の城市モーニンが急速に勢力を伸張させました。アヴァの支配力は失われ、多くの城市がアヴァへの服従を拒否。特にモーニンはイラワジ川沿岸部を次々と制圧し、1527年にはアヴァを陥落させました。モーニンの指導者ソーロンの子、トハンブワがアヴァの王位に就きましたが、非仏教徒であった彼は仏教弾圧を行い、民衆の強い反発を招きました。トハンブワは最終的にビルマ族の家臣によって殺害されました。
トハンブワの死後、後継者たちも国内の混乱を収拾できませんでした。その間に力を蓄えていたタウングー朝が攻勢を強め、タウングー王バインナウンの攻撃を受け、1555年にアヴァは陥落し、アヴァ王朝は滅亡しました。
アヴァ王朝は、パガン朝のような強力な中央集権体制を築くことはできませんでした。統治の基本単位は、城壁に囲まれた地方都市である城市（ミョウ）でした。これらの城市は地方の開発とともに重要性を増し、中央政府からの独立性を強め、中には半独立状態となるものもありました。城市を支配する城主（ミョウザー）には王族や高官が任命されましたが、地位の世襲化が進んだり、地方の有力者が城主の地位を掌握する例も見られました。城主は、世襲制の地方役人を通じて領内を支配しましたが、地方役人の統制は十分ではなく、不正も横行したとされます。
また、戦乱期における社会的な混乱の中で、自由な平民階層（アティー）が形成され、自己の財産について一定の権利を持つようになりました。仏塔奴隷の一部も、混乱の中で解放されて宗教用地を私有化し、やがてこのアティー階層に組み込まれていきました。
各地の城市は、灌漑施設の整備や人口増加策によって、生産力を高めました。農業は、北部では灌漑を利用した稲作と綿花栽培が経済の柱であり、綿花は主要な換金作物、さらには中国への輸出品となりました。南部ではイラワジ川流域の稲作が安定していましたが、日用品や輸出品（木材、鉱物など）を北部に依存し、北部も海産物や輸入品を南部に依存するなど、城市間の経済は相互依存しつつも、不安定な側面がありました。
パガン朝期から続く仏教集団であるアラニャ僧団は、アヴァ王朝期も強い影響力を持ち、僧団長は宮廷の王師を兼ねました。僧団は積極的に寺領の開発・拡大を行い、大規模な灌漑事業も手がけました。その開発事業は国家の利益とも合致したため、国からの支援もありました。しかし、南方のペグー朝で起きた宗教改革の影響や、トハンブワによる激しい仏教弾圧によって、僧団はその勢いを失い、多くの僧侶が亡命を余儀なくされました。
南方のペグー朝とは長期にわたり抗争を続け、イラワジ川デルタ地帯の覇権を争いました。この争いは、ビルマ族とモン族（ペグー朝を支えた民族）の歴史的な対立の継続とも見なされました。北方の明とは、主にマオ・シャン族への対処を巡って関係を持ち、明はアヴァの存在を承認しましたが、マオ・シャン族指導者の処遇を巡る対立も発生しました。15世紀中頃には、イタリア商人ニッコロ・デ・コンティがアヴァを訪れ、当時の記録を残しており、これはヨーロッパと上ビルマの初期の接触の一つです。
アヴァ王朝期には、文学分野でパーリ語に代わってビルマ語の使用が進みました。僧侶たちによる、仏典を題材にした仏典叙事詩（ピョー）が主流となり、後世に高く評価されました。これらの文学作品は、教義理解を助けるものとして教育や芸能に取り入れられ、民衆にも広まりました。僧侶だけでなく、史謡や記録詩といった分野で、様々な階層の人々がビルマ語文学の発展に貢献し、女性の文学者も現れました。建築面では、1456年にイラワジ川にビルマ史上初となる木造橋が建設されたことが注目されます。これは大規模な土木事業であり、当時の技術水準を示しています。
歴史
パガン朝の崩壊後、上ビルマにはピンヤ朝やサガイン朝が興亡しましたが、マオ・シャン族の侵攻で両国は衰退しました。サガイン王家の王子であったタドミンビャは、マオ・シャン族の侵攻によって荒廃したアヴァ周辺の沼沢地を開発し、1364年にこの地を首都として新たな王朝を創始しました。しかし、初代タドミンビャは国内各地で頻発する地方城市（独立性の強い都市）の反乱鎮圧に奔走しました。
その後、王位を巡る混乱を経て第3代スワーソーケが即位し、中央平原地帯の開発や行政の再編を進めました。彼の治世末期から、南方で勢力を拡大するペグー朝との長期にわたる抗争が始まりました。この争いは数十年続き、第6代ミンカウン1世の時代まで繰り広げられました。アヴァはアラカン王国を従属させるなど勢力拡大を図りましたが、ペグー朝との戦いは激戦となり、特に王子のミンレチョースワが奮戦しました。戦争は1422年に終結しました。
15世紀に入ると、王権の弱体化と地方分権化が進み、各地の城市が自立の動きを強め、反乱が相次ぎました。宮廷内でも王位を巡る争いが頻繁に起こり、政治は不安定化しました。有力な地方領主が台頭し、王位に就く者も現れました。北方のマオ・シャン族とも関係を持ち、一時的に主要な脅威を排除したこともありましたが、明との対立も発生しました。
15世紀末から16世紀初頭にかけて、南方の城市タウングーと北方の城市モーニンが急速に勢力を伸張させました。アヴァの支配力は失われ、多くの城市がアヴァへの服従を拒否。特にモーニンはイラワジ川沿岸部を次々と制圧し、1527年にはアヴァを陥落させました。モーニンの指導者ソーロンの子、トハンブワがアヴァの王位に就きましたが、非仏教徒であった彼は仏教弾圧を行い、民衆の強い反発を招きました。トハンブワは最終的にビルマ族の家臣によって殺害されました。
トハンブワの死後、後継者たちも国内の混乱を収拾できませんでした。その間に力を蓄えていたタウングー朝が攻勢を強め、タウングー王バインナウンの攻撃を受け、1555年にアヴァは陥落し、アヴァ王朝は滅亡しました。
社会と行政
アヴァ王朝は、パガン朝のような強力な中央集権体制を築くことはできませんでした。統治の基本単位は、城壁に囲まれた地方都市である城市（ミョウ）でした。これらの城市は地方の開発とともに重要性を増し、中央政府からの独立性を強め、中には半独立状態となるものもありました。城市を支配する城主（ミョウザー）には王族や高官が任命されましたが、地位の世襲化が進んだり、地方の有力者が城主の地位を掌握する例も見られました。城主は、世襲制の地方役人を通じて領内を支配しましたが、地方役人の統制は十分ではなく、不正も横行したとされます。
また、戦乱期における社会的な混乱の中で、自由な平民階層（アティー）が形成され、自己の財産について一定の権利を持つようになりました。仏塔奴隷の一部も、混乱の中で解放されて宗教用地を私有化し、やがてこのアティー階層に組み込まれていきました。
経済と農業
各地の城市は、灌漑施設の整備や人口増加策によって、生産力を高めました。農業は、北部では灌漑を利用した稲作と綿花栽培が経済の柱であり、綿花は主要な換金作物、さらには中国への輸出品となりました。南部ではイラワジ川流域の稲作が安定していましたが、日用品や輸出品（木材、鉱物など）を北部に依存し、北部も海産物や輸入品を南部に依存するなど、城市間の経済は相互依存しつつも、不安定な側面がありました。
宗教
パガン朝期から続く仏教集団であるアラニャ僧団は、アヴァ王朝期も強い影響力を持ち、僧団長は宮廷の王師を兼ねました。僧団は積極的に寺領の開発・拡大を行い、大規模な灌漑事業も手がけました。その開発事業は国家の利益とも合致したため、国からの支援もありました。しかし、南方のペグー朝で起きた宗教改革の影響や、トハンブワによる激しい仏教弾圧によって、僧団はその勢いを失い、多くの僧侶が亡命を余儀なくされました。
外交
南方のペグー朝とは長期にわたり抗争を続け、イラワジ川デルタ地帯の覇権を争いました。この争いは、ビルマ族とモン族（ペグー朝を支えた民族）の歴史的な対立の継続とも見なされました。北方の明とは、主にマオ・シャン族への対処を巡って関係を持ち、明はアヴァの存在を承認しましたが、マオ・シャン族指導者の処遇を巡る対立も発生しました。15世紀中頃には、イタリア商人ニッコロ・デ・コンティがアヴァを訪れ、当時の記録を残しており、これはヨーロッパと上ビルマの初期の接触の一つです。
文化
アヴァ王朝期には、文学分野でパーリ語に代わってビルマ語の使用が進みました。僧侶たちによる、仏典を題材にした仏典叙事詩（ピョー）が主流となり、後世に高く評価されました。これらの文学作品は、教義理解を助けるものとして教育や芸能に取り入れられ、民衆にも広まりました。僧侶だけでなく、史謡や記録詩といった分野で、様々な階層の人々がビルマ語文学の発展に貢献し、女性の文学者も現れました。建築面では、1456年にイラワジ川にビルマ史上初となる木造橋が建設されたことが注目されます。これは大規模な土木事業であり、当時の技術水準を示しています。
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