ピーテル・クック・ファン・アールスト

ピーテル・クック・ファン・アールスト：フランドル・ルネサンスの多才な巨匠

ピーテル・クック・ファン・アールスト（1502年8月14日-1550年12月6日）は、フランドル地方（現在のベルギー）を代表する、類まれな多才ぶりを発揮した芸術家でした。画家、版画家としての才能に加え、建築家や工芸家としても活躍し、16世紀の芸術文化に多大な貢献を果たしています。

アールストからアントウェルペンへ、そしてイタリアへ

現在のベルギー、オースト＝フランデレン州のアールストに生まれたファン・アールストは、若き日にブリュッセルで、当時著名な画家であったベルナールト・ファン・オルレイに師事したと推測されています。その後、アントウェルペンの画家ヤン・ファン・ドルニッケの工房で研鑽を積みました。ヤン・ファン・ドルニッケの娘と結婚し、アントウェルペンの版画家や出版業者が多く住むロンバルデンフェスト通りに居を構えます。1527年に岳父が亡くなると、アントウェルペンの聖ルカ組合の親方として登録されました。

20代半ばにはイタリアへの旅に出ています。この旅は、彼の芸術に大きな影響を与えました。イタリア・ルネサンスの芸術に触れたファン・アールストは、イタリア・マニエリスム様式の影響を強く受けた独自の画風を確立していきます。

多彩な活動：出版、建築、タペストリーデザイン

絵画制作以外にも、ファン・アールストの活動は多岐に渡ります。彼は活発な出版活動を行い、1539年にはイタリアの建築家セバスティアーノ・セルリオの建築に関する著書をオランダ語とフランス語に翻訳、出版しました。この翻訳出版は、フランドル地方における建築理論の普及に貢献したと言えるでしょう。さらに、ステンドグラスやタペストリーのデザインなども手掛けており、その才能は絵画制作のみに留まらず、様々な分野に広がっていたことがわかります。

カール5世の宮廷画家、そしてブリューゲルの師

1534年からは神聖ローマ帝国皇帝カール5世に仕え、晩年には宮廷画家となりました。16世紀の伝記作家カレル・ヴァン・マンデルは、ファン・アールストが著名な画家ピーテル・ブリューゲル（c.1525-1569）の師であったと記しています。1540年代半ばから1550年の死去まで、ファン・アールストはブリューゲルに指導を与えていたとされています。また、ファン・アールストの娘、マイケン・クックは、1563年にブリューゲルと結婚しており、師弟関係を超えた深い繋がりがあったことがうかがえます。

後世への影響

ファン・アールストの作品は、イタリア・ルネサンス様式とフランドル絵画の伝統を見事に融合させたものであり、後のフランドル絵画に大きな影響を与えました。特に、弟子であったとされるブリューゲルの作品にも、ファン・アールストの影響が見られるとされています。彼の多才な才能と幅広い活動は、16世紀フランドルの芸術文化を語る上で欠かせない存在となっています。

参考文献

Pieter Coecke van Aelst: Die inventie der colomnen, 1539 (MS in der Rijksuniversiteit te Gent), 32 Seiten.
Pierre d’Aelit: IIIme Livre de l’architecture Sebastiee Serlii, traduit et imprimé par… Anvers 1545. Referenz bei Fernando García Salinero: Léxico de alarifes de los siglos de oro. Madrid 1968.
Georges Marlier: Pierre Coeck d’Alost – la renaissance flamande, Brüssel 1966.
Wilhelm Schmidt: Coecke, Pieter. In: Allgemeine Deutsche Biographie (ADB). Band 4, Duncker & Humblot, Leipzig 1876, S. 385 f.
A. E. Santaniello: „Sebastiano Serlio and The Book of Architecture“ in Sebastiano Serlio: The Book of Architecture by… Benjamin Blom, Inc. Publishers, New York 1970, S. 15.
Elizabeth A. H. Cleland (red.) (2014), Grand Design. Pieter Coecke van Aelst and Renaissance Tapestry, 401 blz. - Lees op Google Books
Danièle Séraphin en Jacques Lauprêtre (2013), Le Testament des Ombres. Mise en Cène de Martin Luther par Pieter Coeck d'Alost (Parijs: Éditions d'Art Hermann)
R. Bauer (red.), Tapisserien der Renaissance. Nach Entwürfen von Pieter Coecke van Aelst (Tentoonstellingscatalogus, Schloss Halbturn, 1981)
Georges Marlier (1966), Pierre Coeck d'Alost. La renaissance flamande
Dr August Corbet (1950) Pieter Coecke van Aelst

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