セバスティアーノ・セルリオ
セバスティアーノ・セルリオ（Sebastiano Serlio、1475年9月6日 - 1554年頃）は、イタリアのマニエリスム期に活躍した建築家です。フォンテーヌブロー宮殿の建設にも携わり、建築理論をまとめた著書『建築書（I sette libri dell'architettura）』、別名『建築五書（Tutte l'opere d'architettura et prospettiva）』によって、建築における「オーダー」を定着させたことで知られています。
セルリオはボローニャで生まれ、1514年にローマに移り、建築家バルダッサーレ・ペルッツィのアトリエで働き始めました。しかし、1527年のローマ略奪によって建設プロジェクトが中断されたため、ペルッツィと同様に画家として生計を立てるようになりました。1527年頃から1540年代前半にかけてヴェネツィアに滞在しましたが、この時期の活動についてはあまり記録が残っていません。
1537年、ヴェネツィアで最初の著書『建築の一般規則（Regole generali d'architettura）』を出版しました。これは後に『建築書』第4巻として知られるようになります。セルリオは当初、全7巻からなる『建築七書』を構想していましたが、完全に実現することはありませんでした。この第4巻では、教会のファサードに関する革新的なモデルが提示されています。高いヴォールトの本堂と低い側廊を持ち、ゴシック様式のファサードを与える手法は、アルベルティが設計したフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会のファサード（1458年頃）にその萌芽が見られます。1530年代にはこの様式が確立しつつあり、複数の教会で採用されました。セルリオはこれらの概念を木版画によって建築家たちに提示しました。続いて、1540年には同じくヴェネツィアで、古代ローマの建築に関する「第3巻」が出版されました。
セルリオの著作はフランス王フランソワ1世の目に留まり、彼はフォンテーヌブロー宮殿の建設と装飾のアドバイザーとしてセルリオを招きました。セルリオは、イタリア人設計士と職人のチームを率い、宮殿の建設に携わりました。また、個人的な仕事も請け負い、その中で確実にセルリオが関わったとされているのは、ブルゴーニュのトネール近郊にあるアンシー・ル・フラン城です。この城は1546年に完成しました。
1545年、セルリオは舞台背景に関する木版画集（Scenographies）をパリで出版しました。その一部は遠近法の解説に充てられています。土木技師としては、いくつかの要塞を設計したとされています。
セルリオは1554年頃、フランスのリヨンで亡くなりました。
セルリオの最大の功績は、建築に関する実用的な著書を出版したことです。彼は、文章を補完するために精緻な図版を掲載することを初めて試みました。セルリオの『建築書』は、第5巻までが1537年から順次出版され、当初の構想にはなかった1冊が1551年にリヨンで出版されました。さらに、死後に出版されたものもあります。未刊の手稿もいくつか現存しています。
セルリオの『建築書』は、特にフランス、オランダ、イングランドにおいて、建築家向けの図解入り手引書として大きな影響を与え、イタリアルネサンス様式をこれらの国々に広めました。1539年には、ピーテル・クック・ファン・アールストによってオランダ語に翻訳されました。その後、彼の弟子であるオランダ人建築家ハンス・フレーデマン・デ・フリースによって、セルリオの様式や装飾がアルプス以北に広められました。1552年には、スペインのトレドでフアン・デ・アヤラが原著と同じ図版を用いた本を出版しました。セルリオが描いた多数のローマ建築の平面図と立面図は、古典建築の貴重なレパートリーを提供し、何度も増刷されました。
オランダ語版からの英語訳は『The Five Books of Architecture』として1611年にロンドンで出版されました。この翻訳は、ジェームズ1世時代の建築に大きな影響を与えたアントワープ・マニエリスムの版画の影響を打ち消す効果がありました。セルリオの著作は、後のクリストファー・レンやバースの都市計画を立案したジョン・ウッドなども所有していました。
Sebastiano Serlio, Sebastiano Serlio on Architecture, edited by Vaughan Hart and Peter Hicks, Yale University 1996-2001. ISBN 0300085036.
『セルリオ『建築書』註解 上巻』飛ヶ谷潤一郎編著、中央公論美術出版、2025年～。ISBN 978-4805509920
Life and Work of Sebastiano Serlio
Palladio's Literary Predecessors
The Castle of Fontainebleau
オンラインの論文集
生涯
セルリオはボローニャで生まれ、1514年にローマに移り、建築家バルダッサーレ・ペルッツィのアトリエで働き始めました。しかし、1527年のローマ略奪によって建設プロジェクトが中断されたため、ペルッツィと同様に画家として生計を立てるようになりました。1527年頃から1540年代前半にかけてヴェネツィアに滞在しましたが、この時期の活動についてはあまり記録が残っていません。
1537年、ヴェネツィアで最初の著書『建築の一般規則（Regole generali d'architettura）』を出版しました。これは後に『建築書』第4巻として知られるようになります。セルリオは当初、全7巻からなる『建築七書』を構想していましたが、完全に実現することはありませんでした。この第4巻では、教会のファサードに関する革新的なモデルが提示されています。高いヴォールトの本堂と低い側廊を持ち、ゴシック様式のファサードを与える手法は、アルベルティが設計したフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会のファサード（1458年頃）にその萌芽が見られます。1530年代にはこの様式が確立しつつあり、複数の教会で採用されました。セルリオはこれらの概念を木版画によって建築家たちに提示しました。続いて、1540年には同じくヴェネツィアで、古代ローマの建築に関する「第3巻」が出版されました。
セルリオの著作はフランス王フランソワ1世の目に留まり、彼はフォンテーヌブロー宮殿の建設と装飾のアドバイザーとしてセルリオを招きました。セルリオは、イタリア人設計士と職人のチームを率い、宮殿の建設に携わりました。また、個人的な仕事も請け負い、その中で確実にセルリオが関わったとされているのは、ブルゴーニュのトネール近郊にあるアンシー・ル・フラン城です。この城は1546年に完成しました。
1545年、セルリオは舞台背景に関する木版画集（Scenographies）をパリで出版しました。その一部は遠近法の解説に充てられています。土木技師としては、いくつかの要塞を設計したとされています。
セルリオは1554年頃、フランスのリヨンで亡くなりました。
建築書とその影響
セルリオの最大の功績は、建築に関する実用的な著書を出版したことです。彼は、文章を補完するために精緻な図版を掲載することを初めて試みました。セルリオの『建築書』は、第5巻までが1537年から順次出版され、当初の構想にはなかった1冊が1551年にリヨンで出版されました。さらに、死後に出版されたものもあります。未刊の手稿もいくつか現存しています。
セルリオの『建築書』は、特にフランス、オランダ、イングランドにおいて、建築家向けの図解入り手引書として大きな影響を与え、イタリアルネサンス様式をこれらの国々に広めました。1539年には、ピーテル・クック・ファン・アールストによってオランダ語に翻訳されました。その後、彼の弟子であるオランダ人建築家ハンス・フレーデマン・デ・フリースによって、セルリオの様式や装飾がアルプス以北に広められました。1552年には、スペインのトレドでフアン・デ・アヤラが原著と同じ図版を用いた本を出版しました。セルリオが描いた多数のローマ建築の平面図と立面図は、古典建築の貴重なレパートリーを提供し、何度も増刷されました。
オランダ語版からの英語訳は『The Five Books of Architecture』として1611年にロンドンで出版されました。この翻訳は、ジェームズ1世時代の建築に大きな影響を与えたアントワープ・マニエリスムの版画の影響を打ち消す効果がありました。セルリオの著作は、後のクリストファー・レンやバースの都市計画を立案したジョン・ウッドなども所有していました。
参考文献
Sebastiano Serlio, Sebastiano Serlio on Architecture, edited by Vaughan Hart and Peter Hicks, Yale University 1996-2001. ISBN 0300085036.
『セルリオ『建築書』註解 上巻』飛ヶ谷潤一郎編著、中央公論美術出版、2025年～。ISBN 978-4805509920
外部リンク
Life and Work of Sebastiano Serlio
Palladio's Literary Predecessors
The Castle of Fontainebleau
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