ファイアボール (アルバム)

ディープ・パープル『ファイアボール』解説

『ファイアボール』は、イングランドのロックバンド、ディープ・パープルが1971年に発表したアルバムです。前作『ディープ・パープル・イン・ロック』の成功を受けて制作されましたが、制作過程は決して順風満帆ではありませんでした。

制作の背景

1970年9月、ディープ・パープルはロンドンのデ・レイン・リー・スタジオで新作アルバムの制作を開始しました。しかし、前作のヒットによるツアー活動の激化により、メンバーはスタジオでの作業に集中することが難しい状況でした。制作はデ・レイン・リー・スタジオとオリンピック・スタジオで行われ、1971年5月まで及びました。

ドラマーのイアン・ペイスは、スタジオの音質に不満を感じ、ドラムセットを廊下に運び出してドラムパートのみを録り直したというエピソードがあります。また、タイトル曲では珍しく2バスドラムのセットを使用し、楽曲冒頭の効果音にはエアコンのコンプレッサーを作動させた時の音が利用されました。

1971年2月には、「ストレンジ・ウーマン」が先行シングルとしてリリースされ、イギリスで最高8位を記録。アルバム自体は同年7月にアメリカとカナダ、9月にイギリスとヨーロッパで発売されました。イギリス盤では、3曲目に「ストレンジ・ウーマン」の代わりに「デイモンズ・アイ」が収録されています。

評価

前作がヒットしたイギリスでは、本作も好調な売れ行きを記録し、ディープ・パープルのアルバムとして初めて1位を獲得しました。アメリカでもビルボードチャートで最高32位にランクイン。メンバーが火の玉となって宇宙へ飛び出すというユニークなジャケットデザインは、『ニュー・ミュージカル・エクスプレス』紙の「ベスト・デザイン・ナンバー・ワン・アルバム賞」を受賞しました。

しかし、メンバーによる本作への評価は分かれています。リッチー・ブラックモアは「主張のないアルバム」「ツアーが忙しく、構想を練る時間がなかった」と語り、ロジャー・グローヴァーは「『イン・ロック』の成功のプレッシャーで考えすぎた」「火の玉というより線香花火のよう」と述べるなど、概して厳しい意見が聞かれました。一方、ジョン・ロードは「どの曲も実験的だった」と評価し、イアン・ギランは本作を気に入っており、収録曲のいくつかを再結成後のコンサートで頻繁に演奏しています。

収録曲

1. ファイアボール - "Fireball" - 3:22
2. ノー・ノー・ノー - "No No No" - 6:52
3. ストレンジ・ウーマン - "Strange Kind of Woman" - 4:07
4. 誰かの娘 - "Anyone's Daughter" - 4:40
5. らば - "The Mule" - 5:19
6. 愚か者たち - "Fools" - 8:16
7. 誰も来ない - "No One Came" - 6:24

メンバー

リッチー・ブラックモア - ギター
イアン・ギラン - ボーカル
ロジャー・グローヴァー - ベース
ジョン・ロード - キーボード
* イアン・ペイス - ドラムス

実験的な要素と、ツアーのプレッシャーの中で生まれた『ファイアボール』。メンバーの評価は分かれるものの、ディープ・パープルの歴史において重要な作品の一つであることは間違いありません。

もう一度検索