ファゴット協奏曲

ファゴット協奏曲

ファゴット協奏曲とは、オーケストラの伴奏を得て、ファゴットが独奏楽器として活躍する楽曲形式を指します。このジャンルは「バスーン協奏曲」と呼ばれることもあります。ファゴットの持つ、温かみのある低音から、コミカル、あるいは哀愁を帯びた中高音域まで、多様な音色や表現力を引き出すために作曲されてきました。

協奏曲という形式は、独奏楽器とオーケストラとの対比や融合を通して音楽的な対話を生み出すものですが、ファゴットという独特な楽器が持つ個性は、この対話を非常に魅力的なものにしています。特に低音域の豊かな響きや、木管楽器ならではの柔らかな音色は、他の独奏楽器にはない独自の雰囲気を持っています。

歴史を通じて、多くの作曲家がファゴットのために協奏曲を残しています。中でもイタリアのバロック期を代表するアントニオ・ヴィヴァルディは、この楽器のために実に37曲もの協奏曲を作曲しており、その多作ぶりは特筆されます。特にホ短調のRV484やイ短調のRV498といった作品は、今日でも頻繁に演奏され、ヴィヴァルディのファゴットへの深い理解と愛情を示しています。

古典派に入ると、ヨハン・クリスティアン・バッハが変ロ長調や変ホ長調の作品を、ヤン・コジェルフがハ長調の協奏曲を手がけました。また、ヤン・ヴァンハルは珍しい2本のファゴットと管弦楽のためのヘ長調協奏曲を残しています。この時代の最も有名な作品としては、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの変ロ長調 K.191が挙げられます。これは若きモーツァルトが書いた木管楽器のための協奏曲の中でも特に初期のものであり、ファゴットの特性を巧みに生かした名作として知られています。彼の協奏交響曲変ホ長調 K.297bにも、ファゴットが独奏楽器群の一つとして含まれています。その他、フランソワ・ドヴィエンヌは4曲、フランツ・ダンツィはヘ長調に2曲とハ長調、ト短調の作品を残しています。

ロマン派では、ヨハン・ネポムク・フンメルのヘ長調 WoO.23や、カール・マリア・フォン・ウェーバーのヘ長調 Op.75が重要なレパートリーとなっています。ウェーバーは他にも、ファゴットと管弦楽のための「アンダンテとハンガリー風ロンド」 Op.35という、協奏曲形式ではないものの、ファゴットの技巧と表現力を存分に披露できる作品を残しました。ジョアキーノ・ロッシーニの作品とされる1曲は、現在では真贋が疑われています。この時代にはまた、フランツ・ベルワルドによるファゴットとオーケストラのためのコンツェルトシュツトゥックや、エドワード・エルガーのロマンス Op.62のような、比較的小規模ながら魅力的な作品も生まれました。

20世紀以降も、ファゴット協奏曲は多くの作曲家によって探求され続けています。ジョン・パウエルは1曲を、エイトル・ヴィラ＝ロボスは「7つの音の輪舞」を、アンリ・トマジやアンドレ・ジョリヴェはそれぞれファゴットと室内管弦楽のための協奏曲を作曲しました。ニーノ・ロータも1曲を、ジャン・フランセはファゴットと弦楽のためのディヴェルティスマンやファゴット協奏曲を書いています。現代の作曲家では、ジョン・ウィリアムズの「The Five Sacred Trees」、ソフィア・グバイドゥーリナのファゴットと低弦のための協奏曲などがあります。

日本においても、ファゴットのための協奏的作品が多数生まれています。諸井三郎のOp.14、外山雄三の1曲、池辺晋一郎の「炎の資格」、吉松隆の「一角獣回路」 Op.36、西村朗の「タパス（熱）」などが知られています。また、フィンランドのカレヴィ・アホは1曲を、日本の藤倉大も馬込勇氏の委嘱により1曲を書いており、国内外でこの楽器のための新たな地平が開かれています。これらの作品群は、時代ごとの音楽語法とファゴットの楽器特性が融合し、多様な音楽世界を聴かせてくれます。

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