ファシグ・ティプトン

ファシグ・ティプトン：サラブレッド競売のパイオニア

ファシグ・ティプトン社は、北アメリカを代表するサラブレッド競走馬の競売業者です。1898年の創業以来、長い歴史と伝統を誇り、そのオークションは世界中の競馬関係者から注目を集めています。本拠地はケンタッキー州レキシントンにあり、メリーランド州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州などにも支社を展開しています。

世界的に有名なサラトガセール

ファシグ・ティプトンの事業の中でも特に有名なのは、毎年8月にニューヨーク州サラトガ・スプリングズで開催されるサラトガ・イヤリングセールです。サラトガ[[競馬場]]からほど近い場所に位置する競売会場は、多くの競り客が訪れる一大イベントとなっています。このセールでは、将来の活躍が期待される1歳馬が数多く出品され、過去には多くの名馬が競り落とされました。近年では、ニューヨーク州産馬セールで「ファニーサイド」が出品されたことも話題となりました。

会場には、競り客専用の座席が完備されたパビリオンが設けられ、一般来場者も入場可能です。特に地元ニューヨーク産馬のセール期間中は、地域住民にとって重要なイベントとなっています。競売の雰囲気は熱気に溢れ、競り合う人々の真剣な眼差し、そして競売人の巧みな話術が織りなすドラマは、競馬ファンならずとも魅了されるでしょう。

創業から現在まで：変革と伝統

ファシグ・ティプトン社は、ウィリアム・B・ファシグとエドワード・A・ティプトンによって設立されました。当初はニューヨーク市のマディソン・スクエア・ガーデンで、サラブレッドとスタンダードブレッドの競売を行っていました。1903年にファシグが亡くなると、ティプトンはイノック・ジェームズ調教師をパートナーに迎えました。ジェームズは、競売カタログの形式を刷新。従来の牝馬の名前をリストアップするだけのカタログから、対象競走馬の血統や祖先の競走成績、産駒成績などを掲載する詳細なカタログに変更しました。この改革は、競売業界に大きな影響を与え、現在のカタログの原型となっています。さらに、繁殖牝馬セールにおいては、全ての対象馬に健康状態と受胎状況の証明書を付けることを義務付けるなど、画期的な取り組みも行われました。

1917年には、ケンタッキー州の生産者らの協力を得て、サラトガ・スプリングズでのセールが開始されました。これが、現在も続くサラトガセールの始まりです。翌1918年のセールには、伝説的名馬マンノウォーが出品されたと伝えられています。

1937年には、ハンフリー・S・フィニーがサラトガセールで初めて競売を行いました。フィニーは、ファシグ・ティプトンの競売人の在り方を決定づけた人物で、その自叙伝『Fair Exchange（公正な取引）』には、「競売会社に求められるものは馬についてよく知ることと、自分たちが売るものの価値を知ることである」と記されています。この言葉は、現在でもファシグ・ティプトン社の行動規範として受け継がれています。

第二次世界大戦中は、サラトガのイヤリングセールは一時中止されましたが、1943年にはキーンランド[[競馬場]]の敷地を借りて競売を開催。このセールで競り落とされたフープジュニアは、翌1945年のケンタッキーダービーを制覇しました。

1952年には、フロリダ州で2歳馬セールが開催され、1983年にはコールダー[[競馬場]]に移転。現在では世界最大級の2歳馬セール市場として知られています。このセールからは、モナーコス、リズンスター、クロフネなど、数々の名馬が誕生しました。

1972年には、ケンタッキー州レキシントンに本拠地を移転。年間を通してのセール開催が可能となり、ジェニュインリスクやダンシングブレーヴなど、多くの優秀な競走馬が取引されました。2007年のノベンバーセールでは、ベターザンオナーが1400万ドルという繁殖牝馬の競り価格としては史上最高額を記録しました。

2008年には、ドバイを拠点とするシナジーインベストメント社に買収され、新たな体制の下で発展を続けています。

ファシグ・ティプトンの貢献

ファシグ・ティプトン社は、長年にわたりサラブレッド競売業界をリードし、その発展に大きく貢献してきました。競売カタログの改革、健康状態証明書の導入、そして数々の名馬の取引を通じて、競馬業界の発展に貢献し続けています。その歴史と伝統は、未来の競馬界を担う若き才能の育成にも繋がっていると言えるでしょう。

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