ダンシングブレーヴ

ダンシングブレーヴ：伝説的名馬の生涯

ダンシングブレーヴ (1983年5月11日 - 1999年8月2日) は、アメリカ合衆国で生産され、イギリスで調教された競走馬にして、偉大な種牡馬です。その輝かしい競走馬時代は、1986年の2000ギニー、エクリプスステークス、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、そして凱旋門賞制覇によって彩られました。

当時のヨーロッパ最強馬との呼び声も高く、インターナショナル・クラシフィケーション（現ワールド・ベスト・レースホース・ランキング）では、史上最高のレートを記録するなど、その実力は折り紙付きでした。1986年にはヨーロッパ年度代表馬、イギリス年度代表馬、フランス年度代表馬の栄冠に輝き、その名を世界中に知らしめました。

生い立ち

アメリカ合衆国のグレンオーク牧場で生産されたダンシングブレーヴは、イヤリングセールにおいてサウジアラビアの王子、ハーリド・ビン・アブドゥッラーによって20万ドルで落札され、イギリスへと渡りました。その名は、父リファール（フランスの舞踏家セルジュ・リファールに由来）、父系に繋がるノーザンダンサー、そして母ナヴァホプリンセス（アメリカ先住民ナヴァホ族の王女を意味する）から命名された「踊る勇者」を意味します。しかし、競走馬としての活躍とは裏腹に、性格はおとなしい馬だったと言われています。

競走馬時代

2歳時に2戦2勝と無敗でシーズンを終えたダンシングブレーヴは、3歳シーズン、クレーヴンステークス（英G3）で重賞初制覇を飾ります。そして迎えた初G1レース、2000ギニーでは2着馬に3馬身差をつける圧勝劇を披露しました。

続くエプソムダービーでは、スタミナ不足の懸念がありながらも圧倒的な1番人気に支持されました。レースはスローペースで展開され、ダンシングブレーヴは後方待機。直線では大外に出すもバランスを崩し最後方まで後退。しかし、驚異的な末脚で追い込み、僅かに届かず2着となりました。

ダービーでの敗北はありましたが、その潜在能力を証明したダンシングブレーヴは、続くエクリプスステークスで強豪トリプティクやベッドタイムを4馬身差以上突き放して圧勝。キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスでは、ダービー、アイリッシュダービーを制したシャーラスタニを相手に、ハイペースの消耗戦を制し2着に3/4馬身差をつけて優勝しました。

秋初戦、凱旋門賞へのステップレースとなるセレクトステークス（英G3）では、2着に10馬身差をつけるレコードタイムでの圧勝劇。そして迎えた凱旋門賞は、ベーリング、シャーラスタニ、トリプティクなど、錚々たるメンバーが揃ったまさに夢の競演となりました。スローペースの展開の中、ダンシングブレーヴは後方待機。最後の直線では前が壁となり、大外に出すロスを強いられながらも、驚異的な末脚で豪快に差し切り、2着馬に1 1/2馬身差をつけ、コースレコードで勝利を飾りました。

その後、アメリカ遠征で挑んだブリーダーズカップ・ターフでは4着に敗れ、間もなく引退が発表されました。しかし、この敗戦はダンシングブレーヴの評価を落とすことはなく、むしろ伝説を不動のものとしました。

歴代最強馬としての評価

凱旋門賞制覇以前から、リボー、シーバード、ニジンスキーに匹敵する名馬として評価されていたダンシングブレーヴ。しかし、凱旋門賞での圧勝劇によって、その評価はさらに高まりました。インターナショナル・クラシフィケーションにおいて141ポンドという史上最高のレートを与えられ、1977年以降の世界のサラブレッドの中で最強であることを示しました。その後、レートの見直しが行われたものの、公式には141ポンドという評価は維持されています。

種牡馬時代

引退後は、ダルハムホールスタッドで種牡馬入り。しかし、1987年にマリー病（肥大性肺性骨関節症）を発症。その後も種牡馬としての活動は続けましたが、1991年に日本中央競馬会 (JRA) によって購入され、日本軽種馬協会に寄贈されました。イギリスに残した産駒から、マリー病発症後も活躍馬が輩出されたことから、「早すぎた日本への輸出」と惜しまれることとなりました。

日本ではエリモシック、キョウエイマーチ、キングヘイロー、テイエムオーシャンなど数々のGI競走優勝馬を輩出し、成功を収めました。種牡馬生活は順調とは言えませんでしたが、関係者の尽力により最晩年まで産駒を残し続けました。1999年8月2日、病気と闘いながらも立ち上がって息を引き取るという、その最期は多くの関係者の心を打つものでした。

ダンシングブレーヴの産駒は、マイルから中距離を中心に活躍し、優れた瞬発力と重馬場適応能力、そして日本の軽い高速馬場への高い適性を示しました。JRAで出走した195頭のうち112頭が勝ち上がり、重賞25勝を挙げ、その競走成績は、父系としてだけでなく、母の父（ブルードメアサイアー）としても大きな影響を与えました。

代表産駒

ダンシングブレーヴは、数々のGI競走優勝馬を輩出しました。代表的な産駒として、コマンダーインチーフ、ホワイトマズル、エリモシック、キョウエイマーチ、キングヘイロー、テイエムオーシャンなどが挙げられます。また、母の父としては、スイープトウショウやメイショウサムソンといった名馬も輩出しました。

血統

ダンシングブレーヴの全妹には、ディアヌ賞、ヴェルメイユ賞優勝馬であるJolyphaがいます。また、その血統は、現代競馬においても大きな影響を与え続けています。

ダンシングブレーヴの生涯は、競走馬としての偉大な功績、種牡馬としての成功、そしてマリー病との闘いを通して、その強さと気高さ、そして関係者たちの深い愛情を物語る感動的なものです。その名は、これからもサラブレッドの歴史に永遠に刻まれ続けることでしょう。

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