ファジル・サイ

ファジル・サイは、1970年1月14日にトルコで生まれた、世界的に知られるピアニストおよび作曲家です。その卓越した演奏技術と斬新な解釈、そして多様なジャンルにわたる作曲活動から、「鬼才」「天才」という形容詞とともに紹介されることも多く、日本でも広くその名を知られています。

音楽とは直接関係のない家庭に育ったサイですが、アンカラ国立音楽院でピアノと作曲の才能を開花させます。17歳で奨学金を得てドイツのシューマン音楽院に留学し、デイヴィッド・レヴァインに師事しました。その後、ベルリン音楽院でも研鑽を積み、1994年のヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディションでの優勝を機に、国際的なキャリアを本格的にスタートさせました。

私生活では、トルコ人チェリストとの結婚を経て一女をもうけましたが、後に離婚しています。現在はイスタンブールの自宅を拠点とし、娘との時間を大切にしています。娘の学校の送迎を行うなど、子煩悩な一面も持ち合わせており、娘のバレエ発表会でピアノ伴奏を務めた際は、地元の新聞で報じられるという心温まるエピソードも伝えられています。

ピアニストとしては、世界の主要オーケストラとの共演を重ねています。ニューヨーク・フィルハーモニック、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、BBC交響楽団、フランス国立管弦楽団など、枚挙にいとまがありません。また、ルツェルン音楽祭、ヴェルビエ音楽祭といった著名な音楽祭や、カーネギーホール、サントリーホール、ベルリン・フィルハーモニーといった世界有数のコンサートホールでリサイタルやオーケストラとの共演を行い、その圧倒的な演奏で聴衆を魅了し続けています。

同時に、作曲家としても非常に精力的に活動しています。16歳で書いた作品がベルリン建都750周年記念行事で演奏されるなど、早くから才能を発揮しました。1991年には自身の作品である「ヴァイオリンとピアノのための協奏曲」をベルリン交響楽団と自ら初演。1996年に初演したピアノ協奏曲第2番「シルクロード」は、2003-2004年のシーズンだけで12回も演奏され、その全てのピアノ独奏を自身が担当するという快挙を成し遂げました。トルコの著名な詩人ナーズム・ヒクメットの詩に基づくオラトリオ「ナーズム」は、トルコ文化庁の委嘱により作曲され、トルコ大統領臨席のもと初演され、後にCD化されました。他にも、ラジオ・フランスとクルト・マズアからの委嘱によるピアノ協奏曲第3番、イスタンブール音楽祭で5,000人の聴衆の前で初演されCD化されたオラトリオ「Metin Altiokのためのレクイエム」など、大作を次々と発表しています。クラシック作品を題材にした「トルコ行進曲」や「パガニーニ・ジャズ」といったジャズ作品や、ザルツブルク音楽祭のために作曲した「In the Serai」など、その創作の幅は非常に広いことが特徴です。

2006年からは映画音楽の分野にも進出し、トルコの実写映画や、日本の岩堀利樹プロデューサーが手掛けたアニメーション映画『オオカミくんはピアニスト』の音楽を担当しました。『オオカミくんはピアニスト』のために作曲されたピアノ曲は、日本でのコンサートでも披露されています。

日本へは1996年に初来日し、NHKの『芸術劇場』で初めて日本のテレビ視聴者に紹介されました。その後も度々来日しており、2006年にはテレビ東京の『たけしの誰でもピカソ』に出演し、北野武氏からその並外れた才能と演奏技術を絶賛されました。2006年から2008年にかけては、日本各地で集中的にコンサートツアーを行っています。これらの公演では、クラシックの名曲から自身のオリジナル曲、即興演奏まで、幅広いプログラムを展開し、日本の聴衆を魅了しました。2008年のツアーでは、新日本フィルハーモニー交響楽団と共演し、日本初演を含むオールコンチェルト・プログラムを披露するなど、常に挑戦的な姿勢を見せています。

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