クルト・マズア

クルト・マズア：激動の時代を彩った巨匠指揮者

クルト・マズア（Kurt Masur, 1927年7月18日 - 2015年12月19日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて、国際的に活躍したドイツの指揮者です。東ドイツ時代からその才能を開花させ、ドイツ再統一後は世界的な舞台でその名を轟かせました。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との長年の関係、ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督としての活躍は、音楽史に燦然と輝く業績です。また、1989年のライプツィヒでのデモにおける平和的解決への貢献は、彼の音楽家としての枠を超えた人格を物語っています。

生い立ちと音楽への目覚め

1927年、ドイツ東部のブリーク（現ポーランド領）で生まれたマズアは、幼少期から音楽に親しみ、ブレスラウ（現ヴロツワフ）の国民音楽学校でピアノとチェロを学びました。その後、ライプツィヒ音楽院で指揮、ピアノ、作曲を学び、ハインツ・ボンガルツに師事しました。この時期の学びが、後のマズアの音楽観と指揮者としてのキャリアを形成する上で大きな影響を与えました。

キャリア初期：東ドイツでの飛躍

ライプツィヒ音楽院卒業後、ハレ州立歌劇場、エルフルト市立歌劇場、ライプツィヒ歌劇場で指揮者としての経験を積みました。1955年からは、恩師ボンガルツのもとでドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の副指揮者を務め、メクレンブルク国立劇場の音楽総監督にも就任。1960年にはベルリン・コーミッシェ・オーパーの音楽総監督となり、1964年には再びドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者として活躍しました。

ライプツィヒ時代：国際的な名声の確立

1970年、マズアはライプツィヒ市の楽長とゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者に就任し、その後の26年間、このオーケストラとの密接な関係を築きました。この間、西ヨーロッパ、アメリカ、旧ソ連の主要オーケストラにも客演し、その名は国際的に知られるようになりました。日本でもNHK-FM放送で頻繁に放送され、読売日本交響楽団の名誉指揮者にも就任するなど、日本との縁も深いものでした。

ドイツ統一への貢献：平和への強い意志

1989年、ベルリンの壁崩壊につながったライプツィヒの月曜デモにおいて、マズアは東ドイツ当局に対し、市民への武力行使を避けるよう強く訴えました。この行動は国際的な注目を集め、彼の平和への強い意志を示すものとなりました。ドイツ再統一後には、大統領候補に擬せられたこともありました。

ニューヨーク時代から晩年：世界的な活躍

1991年、マズアはズービン・メータの後任としてニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任。その後も、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、フランス国立管弦楽団の首席指揮者や音楽監督を務め、世界的な活躍を続けました。また、メンデルスゾーンの作品研究と普及にも尽力し、メンデルスゾーンの住居再建や、フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ基金設立など、その功績は多岐にわたります。2015年、パーキンソン病による合併症のため88歳で死去。

他の音楽家との交流

マズアは、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督にヘルベルト・ブロムシュテットを推薦したことがあり、東ドイツ時代のライバルであったブロムシュテットを遠ざけるための策略であると噂されました。しかし、ブロムシュテット自身がこれを否定しています。

家族と私生活

マズアは3度の結婚歴があり、2番目の妻を交通事故で亡くしています。その後、声楽家の桜井偕子と結婚し、息子ケン＝ダーフィト・マズアをもうけました。ケン・マズアは現在、サンアントニオ交響楽団の常任指揮者を務めています。

顕彰歴

東ドイツ時代には芸術アカデミーの会員であり、ドイツ政府から大功労十字章、大功労十字星章、大功労十字星大綬章と3度の功労勲章を授与されています。また、フランス政府からはレジオンドヌール勲章を、ドイツ・ボンからはヴィルヘルム・フルトヴェングラー賞を授与されています。

クルト・マズアは、その卓越した音楽性と人道的な行動によって、20世紀後半から21世紀初頭にかけての音楽界を代表する巨匠の一人として、世界中でその功績が称えられています。

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