ファースト・フリート

ファースト・フリート：オーストラリアの幕開け

ファースト・フリート（The First Fleet）は、1787年5月13日にイギリスからニューサウスウェールズ植民地に向けて派遣された11隻の船団を指します。この船団は、オーストラリア大陸におけるヨーロッパ人による最初の入植を担い、1788年1月26日に現在のシドニー湾に到着しました。この日を境に、オーストラリアは植民地としての歴史を歩み始め、現在では「オーストラリアの日」として祝われています。

背景：囚人輸送という選択

18世紀のイギリスは、農業革命と産業革命の影響を受け、都市部への人口流入が加速していました。しかし、都市部の生活は困窮を極め、軽犯罪が多発。当時の法制度では、微罪でも収監されることが多く、刑務所はすぐに満員となりました。そこで、イギリス政府は、軽微な犯罪者であっても海外植民地へ流刑するという政策を採用します。

当初、流刑地は北米の13植民地でしたが、アメリカ独立戦争の終結により、アメリカ合衆国が流刑者の受け入れを拒否。新たな流刑地の選定が必要となりました。そこで白羽の矢が立ったのが、1770年にジェームズ・クックが到達した太平洋地域、特にニューサウスウェールズでした。温暖な気候で自給自足が可能であると判断されたニューサウスウェールズは、新たな流刑植民地として選ばれたのです。

1786年9月、アーサー・フィリップ予備役海軍士官がファースト・フリートの総司令官に任命され、オーストラリア到着後には初代ニューサウスウェールズ総督となることが決定しました。

船団の構成

ファースト・フリートは、以下の11隻の船で構成されていました。

旗艦： シリウス号（20門の大砲を備えた帆船、指揮官：ジョン・ハンター）
護衛艦： サプライ号（8門の大砲）
囚人輸送船： アレクサンダー号、シャーロット号、フレンドシップ号、レディ・ペンリン号、プリンス・オブ・ウェールズ号、スカボロー号（計6隻）
輸送船： ゴールデン・グローヴ号、フィッシュバーン号、ボロウデール号（計3隻、2年分の食料、衣類、農具などを輸送）

これらの船団のレプリカはシドニー博物館に展示されており、シドニー湾内を運行するフェリーには、ファースト・フリートの船名にちなんだ名前が付けられています。

船団の人々

ファースト・フリートには、イギリス人を中心に、アフリカ人、アメリカ人、フランス人などの囚人も乗船していました。その内訳は、船員、海軍兵士とその家族、政府役人、そして多くの囚人であり、女性や子供も含まれていました。囚人たちは、窃盗、偽証、詐欺、暴行、強盗など、様々な罪を犯し、7年、14年、あるいは無期の流刑を言い渡されていました。

乗船していた人数については諸説ありますが、モーリー・ギレンの調査によると、総勢1,420名で、シドニー到着時には1,373名であったとされています。アーサー・フィリップは1,030名、法務官デーヴィッド・コリンズは各船のトン数、乗組員、人数などを記録しています。

航海：困難と工夫

1787年5月13日、ポーツマスを出航した船団は、カナリア諸島、リオデジャネイロ、喜望峰を経由して、オーストラリアを目指しました。フィリップは、航海中の囚人への食事に配慮し、非人道的な扱いを避けるよう努めました。

赤道を通過する際には、高温多湿な環境下で害虫が発生し、船底の腐敗臭も問題となりました。フィリップは、船底の海水を毎日排出するよう指示し、衛生状態の維持に努めます。リオデジャネイロでは、船の清掃や修理を行い、オレンジなど壊血病予防に効果のある食料を調達しました。喜望峰では、家畜や植物の種子を積み込み、新たな植民地での自給自足を目指しました。

1788年1月18日、サプライ号がボタニー湾に到着。しかし、クックが報告したような肥沃な土地ではなく、沼地や砂地が広がっていました。さらに、11隻の船が停泊するには狭すぎ、水も土壌も不足していたため、フィリップはポート・ジャクソン湾を調査し、「世界一の天然の良港」と評価しました。

1月26日、ファースト・フリートはポート・ジャクソン湾に移動し、錨を下ろしました。この場所は現在のシドニー・コーブであり、今回の航海の計画の中心人物である初代シドニー子爵トマス・タウンゼンドにちなんで命名されました。

航海の意義

ファースト・フリートの航海は、当時の航海の中でも特筆すべきものでした。15,000マイル（24,000キロメートル）の航海で、11隻の船団が1隻も落伍することなく、死亡者も乗組員の3%強に抑えられました。これは、フィリップの綿密な準備とリーダーシップの賜物と言えるでしょう。

ファースト・コンタクト：先住民との出会い

ニューサウスウェールズに植民地を建設したイギリス人たちは、先住民であるアボリジニと接触しました。当初、植民地政府はアボリジニとの友好的な関係を築こうとしましたが、土地や文化の違いから衝突が発生。アボリジニの指導者ペムルウイと植民者の間で死闘が繰り広げられることとなりました。

文学作品への影響

ファースト・フリートの航海は、数多くの文学作品の題材として取り上げられています。マーカス・クラークの『フォー・ザ・ターム・オブ・ヒズ・ナチュラル・ライフ』、コリーン・マッカラの『モーガンズ・ラン』、トマス・キニーリーの『ザ・プレーメーカー』などが代表的な作品です。

ファースト・フリートの航海は、オーストラリアの歴史の始まりを象徴する出来事であり、その影響は現代にも色濃く残っています。

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