フィアット・ディーノ

フィアット・ディーノ：フェラーリ技術が生んだイタリアン・スポーツカー

フィアット・ディーノは、イタリアの自動車メーカー、フィアットが1966年から1973年にかけて生産したスポーツカーです。その最大の特徴は、フェラーリ製の高性能V6エンジンを搭載している点にあります。このエンジンは、フェラーリがフォーミュラ2への参戦に必要な台数を確保するため、量産をフィアットに委託したことで実現しました。

フェラーリ創業者エンツォ・フェラーリの長男、アルフレード・フェラーリ（愛称ディーノ）のアイデアを基に開発されたこのエンジンは、「ディーノV6」と呼ばれ、フェラーリ自身の市販車であるディーノ206GTにも搭載されました。フィアットへの供給に際しては、元フェラーリの主任技術者であるアウレリオ・ランパルディの手によって、レース用エンジンから市販車向けに適したチューニングが施されました。

ディーノは、スパイダーとクーペの2つのボディタイプで展開されました。1965年のトリノモーターショーで初公開されたスパイダーは、ピニンファリーナによる流麗なデザインが特徴です。フロントエンジン、後輪駆動という古典的なレイアウトと、抑揚のあるボディラインが調和し、独特の魅力を放っていました。1,987ccのアルミ製シリンダーブロックV6エンジンは、最高出力160馬力を発揮し、最高速度は210km/hに達しました。

一方、クーペはベルトーネがデザインと製造を担当しました。当時、ベルトーネに在籍し、後にカロッツェリア・ギアに移籍したジョルジェット・ジウジアーロのデザインは、いすゞ・117クーペにも似た、洗練されたクーペスタイルに仕上がっています。2ドア2+2シーターの居住空間も確保されており、実用性も考慮された設計となっています。

1969年には、エンジンが2,418ccに排気量アップされ、最高出力は180馬力に向上しました。シリンダーブロックは鋳鉄製に変更され、スパイダーモデルでは車両重量が増加したものの、出力の向上により最高速度は維持され、0-100km/h加速もわずかに短縮されました。このエンジン変更は、フェラーリのフォーミュラ2参戦に必要な生産台数を達成したことによるもので、フェラーリ自身のミッドシップスポーツカーである246GTB/GTSも同様に排気量アップされました。同時に、リアサスペンションもフィアット130と同じストラット式独立懸架に変更され、乗り心地や操縦性が向上しました。興味深いことに、2,418ccエンジンを搭載したディーノは、フィアットではなくフェラーリのマラネッロ工場で生産されました。

大衆車メーカーであるフィアットブランドで生産されたこともあり、フェラーリ製ディーノと比較すると比較的地味な存在でしたが、近年ではその稀少性と高い性能から再評価され、特にスパイダーモデルの人気が高まっています。日本へは正規輸入されませんでしたが、並行輸入された個体も存在しています。フィアット・ディーノは、フェラーリの技術とフィアットの量産技術が融合した、希少価値の高いイタリアンスポーツカーとして、その名声を不動のものにしています。

もう一度検索