フィアット・1100/1200

フィアット1100/1200：イタリアを代表する小型乗用車の歴史

フィアット1100/1200は、1937年から1969年までイタリアの自動車メーカー、フィアットによって製造された小型乗用車シリーズです。このシリーズは、その長い歴史の中で、大きく分けて2つの世代に分類されます。1つは1937年から1953年まで製造されたフレームシャシを持つ旧シリーズ、もう1つは1953年から1969年まで製造されたモノコックボディの新シリーズです。両シリーズで共通するのはエンジンのみという、モデルチェンジの規模が非常に大きいシリーズでした。

508C「ヌオーヴァ・バリッラ1100」（1937-1953年）

1937年に登場した508C「ヌオーヴァ・バリッラ1100」は、1932年から生産されていた508「バリッラ」の後継モデルです。508「バリッラ」は全鋼製ボディと油圧ブレーキを備えた当時としては革新的な大衆車であり、市場で成功を収めていました。508C「ヌオーヴァ・バリッラ1100」は、より小型な500「トポリーノ」と直列6気筒エンジンを搭載した中型車1500の中間を埋める車種として開発されました。

開発を担当したのは、「トポリーノ」の開発にも携わったダンテ・ジアコーサです。流線型の4ドア・ピラーレスセダンボディや前輪独立サスペンションといった先進的な設計が特徴です。当初は後輪独立懸架も検討されましたが、コスト面から見送られました。エンジンは旧バリッラ系の1000ccサイドバルブ直列4気筒をベースに、スポーツモデル用のOHV1089cc 32馬力エンジンが搭載されました。トランスミッションは4速MTが採用されています。

508Cは、その居住性、操縦安定性、そして最高速度110km/hという動力性能により、当時の欧州における同クラスのサルーンを凌駕する評価を得ました。特に旧式な設計の大衆車が主流だったイギリスでは、スポーツサルーンとして認識されるほどでした。

このシャーシとエンジンをベースに、前衛的な超流線型2シータークーペボディを与えたレーシングモデル、508CS「ミッレミリア」も1937年から1940年まで限定生産されました。1100ccで42馬力に強化されたエンジンと空力特性により140km/hに到達し、レースフィールドでも活躍しました。その後、1100Sと名を変え、フェイスリフトを経て1947年から生産が再開され、最終的には51馬力、150km/hに到達。終戦後の欧州レース界で活躍しました。

1940年代後半には、中小零細のスポーツカーメーカーが「1100」のエンジンをチューンして搭載し、小型スポーツカーの高性能化を競いました。このエンジンは、適度なサイズ、価格、チューニングポテンシャルから、広く愛用されたのです。

1939年にはフェイスリフトが行われ、フロントがアメリカのスチュードベーカー風のデザインに改められ「1100B」となりました。1949年には、リアにトランクが追加され「1100E」が登場しています。なお、戦後は「バリッラ」の名前が外されています。508Cと1100Bのロングホイールベースシャシーは、タクシーやライトバンにも利用されました。

「1100/103」（1953-1961年）

1953年のジュネーヴ自動車ショーで発表された「1100/103」は、フルモデルチェンジを受け、完全な戦後型モデルとして生まれ変わりました。設計は引き続きダンテ・ジアコーサが担当し、モノコックボディ、ダブルウィッシュボーン式前輪サスペンションを採用し、合理化されました。

当初は廉価版の「Economica」と通常版の「Normale」の4ドアベルリーナ、5ドアファミリアーレがラインナップされていましたが、間もなく高性能版の「TV（Tourismo Veloce）」が追加されました。「TV」は圧縮比を高め、ツインチョーク式ウェーバーキャブレターを搭載し、50馬力を発揮しました。「TV」の外観上の特徴は、フロント中央のドライビングランプです。

1956年以降、1962年に「1100D」に交代するまで、フロントグリルの変更やサイドモールの追加などが行われました。特徴的な前開きドア（スーサイドドア）はそのまま採用されています。

1955年には、2ドアコンバーチブルの「1100TV/103Eトラスフォルマービレ」が登場しました。当時のアメリカ車のオープンカーの影響を強く受けたデザインで、ベルリーナと同様のコラムシフトでした。

1200グラン・ルーチェ（1957-1961年）

1957年11月のトリノ自動車ショーで、「1100」の上級モデルとして「1200グラン・ルーチェ」が登場しました。「1100-103TV」の後継車として開発されたこのモデルは、エンジン排気量が1221ccに拡大され、55馬力を発揮しました。外観上の特徴は、通常の後開きドアと広いリアウィンドウです。

1959年には、ピニンファリーナ製の新しいボディを持つ「1200カブリオレ」が登場し、それまでの「トラスフォルマービレ」に代わって生産されました。「カブリオレ」には後にDOHCエンジンを搭載した「1500」が追加され、シャシーも上級の1300/1500用へ切り替えられ、1100/1200シリーズとは異なる道を歩むことになります。

「1200グラン・ルーチェ」は約40万台を生産し、1961年9月に生産中止となり、後継モデルは「1300ベルリーナ」となりました。

1100D（1962-1966年）

上級版の1200が「1300ベルリーナ」に引き継がれた翌年、ボディデザインを若返らせ、前ヒンジドアを装着した「1100D」が登場しました。1200グラン・ルーチェのデザインをよりシンプルにした「1100D」は、1960年代前半の小型車の代表格として人気を博しました。

「1100D」はインドでも1964年からライセンス生産が開始され、「プレミア・パドミニ」として2000年まで生産され続けました。

1100R（1966-1969年）

最終モデルである「1100R」は、1966年に発表されました。ボディは前後が延長され、角張ったデザインとなり、同年に登場した上級モデルの「124」に似たモダナイズされたデザインになりました。テールフィンは廃止され、「850」と同じ丸い赤いテールランプが採用されています。

「124」との競合を避けるため、「1100D」で選択できた1221ccエンジンは廃止され、1089cc48馬力エンジンのみとなりました。エンジンやフレーム形式は旧態化していましたが、「1100R」はシリーズで初めてフロアシフトとなり、プロペラシャフトも3分割化され、前輪にディスクブレーキが装着されるなどの改良が加えられました。

「1100R」は1969年、新しい前輪駆動車である「フィアット128」に世代交代し、32年間に及ぶ「1100」シリーズの生産は終了しました。

まとめ

フィアット1100/1200シリーズは、その長い歴史の中で、時代ごとに変化するニーズに対応しながら進化を続けました。小型ながらも高い性能と実用性を備えたこのシリーズは、イタリアのみならず世界中で愛され、フィアットの歴史において重要な役割を果たしました。

参考資料：

Gazoo名車館 1938年　フィアット508Cヌオーバ・バリッラ1100
Gazoo名車館 1953年フィアット1100
Gazoo名車館 1955年フィアット1100TV/103E　トラスフォルマービレ
Gazoo名車館 1966年フィアット1100D

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