フィエラブラス

フランツ・シューベルトが1823年に作曲した3幕構成のオペラ、『フィエラブラス』D796は、彼自身が「3幕の英雄劇」や「3幕のロマン的オペラ」と称した意欲作です。これはシューベルトが筆を置いたオペラの中で、数少ない完成作品の一つであり、事実上、彼が完成させた最後のオペラとして知られています。

本作は1823年5月25日から10月2日にかけて作曲されました。シューベルトはこの年、先に別のオペラ『リューディガー』D791に着手しましたが、これはわずか2曲を書いて途中で放棄しています。そうした状況の中で、彼の友人であり、当時ウィーンのケルントナートーア劇場のスタッフでもあったヨーゼフ・クーペルヴィザーが『フィエラブラス』の台本を書き上げ、シューベルトに提供しました。クーペルヴィザーは劇場での上演実現に向けて熱心に準備を進めていましたが、残念ながら劇場の幹部との対立が生じ、初演計画は直前になって立ち消えとなってしまいました。このため、『フィエラブラス』は完成しながらも日の目を見ることなく、長らくお蔵入りすることになったのです。シューベルトはその後もオペラ創作を試みますが、1827年の『グライヒェン伯爵』D.918も未完に終わっています。このように、『フィエラブラス』はシューベルトのオペラ創作における苦悩や不遇を象徴する作品とも言えるでしょう。

完成から長い歳月が流れた後、ようやく『フィエラブラス』が聴衆の前に姿を見せたのは、シューベルトの死後7年を経た1835年のことでした。ウィーンで上演されましたが、これは全曲ではなく、抜粋されたコンサート形式にとどまり、評判も芳しくなかったと伝えられています。作品全体が舞台で演奏される、いわゆる全曲初演は、さらに時を経た1897年になるまで実現しませんでした。そして、その歴史的な全曲版世界初上演が実現したのは、遥か後年の1988年になってからです。この出来事は、指揮者クラウディオ・アバドによってアン・デア・ウィーン劇場で実現し、同時に初めての全曲録音も実施されました。これにより、長らく埋もれていた『フィエラブラス』が再び広く知られるきっかけとなったのです。

本作の舞台は8世紀から9世紀にかけてのフランク王国。カール大帝が支配していた頃の南フランスやスペインを背景としています。台本は友人のヨーゼフ・クーペルヴィザーによるドイツ語です。作品の中でも特に単独で演奏される機会が多いのが序曲です。約8分程度のこの曲は、まず緊張感をはらんだ序奏で始まり、それに続いてロマンティックなアレグロが展開されます。シューベルト自身、この序曲をピアノ連弾（4手）のために編曲しており、これはD798として知られています。

近年になり、この作品の楽譜も入手しやすくなっています。2014年には、ベーレンライター社から初めて楽譜が出版されましたが、一般に販売されているのはボーカルスコアのみで、フルスコアはレンタルという形式になっています。

『フィエラブラス』は、シューベルトのオペラ作曲の試みの中で重要な位置を占める作品でありながら、その上演史は極めて波乱に満ちたものでした。しかし、現代において、その音楽的価値が再認識されつつあります。

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