フィリップ・ヨーク (初代ハードウィック伯爵)

初代ハードウィック伯爵フィリップ・ヨーク

初代ハードウィック伯爵フィリップ・ヨーク（Philip Yorke, 1st Earl of Hardwicke, 1690年12月1日 - 1764年3月6日）は、グレートブリテン王国の法律家、政治家として、18世紀のイギリス政界で重要な役割を果たしました。1737年から1756年まで大法官を務め、その卓越した法的手腕と政治力で知られています。また、首相を2期務めたニューカッスル公爵の親友であり、彼の政権を支える重要な存在でした。

生い立ちと初期の経歴

フィリップ・ヨークは、法律家のフィリップ・ヨーク（1721年没）の息子として、ドーバーで生まれました。母エリザベスはリチャード・ギボン・オブ・ロルヴェンデンの娘であり、歴史家エドワード・ギボンの家族と親交がありました。彼は、国教会忌避者のサミュエル・モーランドが運営するベスナル・グリーンの学校で教育を受けました。

16歳の時、ヨークはロンドンのホルボーンにあるチャールズ・サルケルドの法律事務所に入りました。1708年11月にはミドル・テンプルに入り、サルケルドからマクルズフィールド伯爵に推薦され、伯爵の息子たちの家庭教師として法律を教えることになりました。

1712年4月28日には、フィリップ・ホームブレッドという筆名で『ザ・スペクテイター』に投稿したこともありましたが、文学への興味は早々に薄れました。弁護士資格を取得したのは1715年のことです。19世紀の法律家キャンベル男爵によると、ヨークの昇進の早さはデビュー間もない弁護士としては異例であり、1718年に大法官に任命されたマクルズフィールド伯爵の後援によって、さらに昇進が加速しました。王座裁判所から大法官府裁判所に移った後も、ウェスタン巡回裁判所での開業を続けました。

翌年、ロバート・ウォルポールの家族が関心を寄せた裁判において、ヨークは裁判官の司法権に対する深い知識と研究を示し、衡平法専門の法律家としての名声を確立しました。その後、衡平法の知識をさらに深め、ケームズ卿への手紙でそれを示しました。マクルズフィールド伯爵のニューカッスル公爵に対する影響力により、ヨークは1719年にルイス選挙区の代表として庶民院に入り、1720年には法曹界に入って4年しか経っていないにもかかわらず法務次官に任命され、騎士爵に叙されました。

キャリア

法務総裁

アタベリー陰謀事件に関連してクリストファー・レイヤーがジャコバイトとして反逆罪で訴追されたことで、ヨークは法廷の雄弁家としての名声を高めました。そして、法務総裁に任命された1723年には、庶民院でフランシス・アタベリーに対する刑罰法案を通過させました。1725年にマクルズフィールド伯爵が弾劾された際には、伯爵との友人関係もあって国王代表として伯爵を弾劾することを免除されました。マクルズフィールド伯爵に次ぐ新しい後援者にはニューカッスル公爵がつき、以降ヨークはニューカッスル公爵を支持しました。

1729年、ヨークはヨーク＝タルボット奴隷制度意見書の著者の1人になりました。この法的意見は奴隷制度の適法性を確定するためのものであり、ヨークとチャールズ・タルボット法務次官は奴隷制度が適法であるとの見解を出しました。意見書は広く散布、引用され、ヨークもPearne v Lisle (1749) Amb 75, 27 ER 47という裁判で裁判官として自身の見解を支持しました。ウォルポール内閣に対しては、外国への借款禁止（1730年）、軍の規模拡大（1732年）、消費税（1733年）といった法案を支持することで貢献しました。

ウォルポール内閣

1733年、ヨークは王座裁判所主席裁判官と枢密院顧問官に任命され、同時にハードウィック男爵に叙されました。1737年にはチャールズ・タルボット（このときにはタルボット男爵に叙され、大法官になっていた）の後を継いで大法官に任命され、ウォルポール内閣に入閣しました。ハードウィックが就任して最初に行ったことの1つは、タルボットによって任命された詩人ジェームズ・トムソン（当時、大法官府裁判所書記だった）の職を解くことでした。ハードウィックは以降1756年まで大法官を務め、その任期の長さは歴代2位となりました（1位はブラックリー子爵の20年10か月）。

貴族院

ハードウィックは貴族院に移ったことで政治における影響力が大きく増しました。ニューカッスル公爵の能力が不足していたため、ハードウィックが政府の施策を擁護するという責務を負ったからです。彼は、カートレット男爵の軍隊人員削減法案や、スペインに敵対的な法案に反対しました。しかし、ウォルポールが世論の圧力に屈してスペインに宣戦布告すると、ハードウィックは戦争遂行について主動的な攻撃を支持しました。また、ニューカッスル公爵とウォルポールの間に不和が生じないよう仲介しました。

ウィルミントン内閣とペラム内閣

ウィルミントン内閣でも大法官に留任したことは、ハードウィック自身にとって驚きでした。彼は、ウォルポールの行為を証言する証人への保護に反対しました。ウィルミントン内閣でも影響力を発揮しましたが、1743年8月に首相ウィルミントン伯爵が死去すると、首相職に就こうとしたウィリアム・パルトニーへの対抗馬としてヘンリー・ペラムを推しました。これ以降、ハードウィックは政府を支配するほどの影響力を誇りました。

同時期には、国王ジョージ2世がオーストリア継承戦争などで大陸ヨーロッパに向かい、本国を留守にすることも多かったため、ハードウィックは摂政委員会の委員長を務めました。そのため、1745年ジャコバイト蜂起への対処などの責任も負いました。カロデンの戦いの後、ハードウィックはスコットランドのジャコバイト貴族の裁判を主宰し、その裁決は法的には公平だったものの、品位や寛大さには欠けていました。彼は反乱者への厳罰、特に長らく公権喪失していたチャールズ・ラドクリフの処刑（1746年）とアーチボルド・キャメロン・オブ・ロキールの処刑（1753年）には責任の一端を負わなければなりません。1746年、ハードウィックは大規模な改革で土地を所有する紳士階級というスコットランドに残存していた封建階級を一掃しました。しかし、1748年のハイランダー武装解除とタータン仕立ての衣装の着用禁止という2つの立法については施行が難航し、実効がほとんどありませんでした。1751年のチェスターフィールド伯爵による暦法改革（グレゴリオ暦採用）には支持しましたが、1753年のユダヤ人帰化合法化法案は世論の大騒ぎを引き起こして失敗しました。同年に提出した1753年結婚法は議会を通過し、以降の結婚法の基礎となりました。

ニューカッスル公爵内閣

1754年にペラムが死去すると、ハードウィックはニューカッスル公爵を首相に押し上げ、その謝礼としてハードウィック伯爵とロイストン子爵に叙されました。1756年11月、内閣の弱体さと外国の脅威（イギリスは七年戦争でフランスに劣勢だった）でニューカッスル公爵が辞任を余儀なくされると、ハードウィックも下野しました。1757年にニューカッスル公爵とウィリアム・ピットの連立政権交渉に関与、入閣もしましたが貴族院議長（当時は大法官が兼任）の職には戻りませんでした。1760年にジョージ3世が即位した後、ハードウィックは1762年にビュート伯爵内閣によるフランスとの講和に反対し、翌年のサイダー法にも反対しました。ジョン・ウィルクスの裁判においては一般逮捕状の発行に反対、庶民院議員による扇動的な誹謗文書配布への議員特権適用にも反対しました。1764年3月6日、ロンドンで死去しました。

ヨークは1739年にケンブリッジシャーで最も大規模なカントリーハウスであるウィンポール・ホールを購入しており、死後は先祖の多くとともにウィンポールのセント・アンドリュー・チャーチヤードで埋葬されました。伯爵位は長男のフィリップが継承しました。

影響

1736年、ヨークが主席裁判官を務めた王座裁判所はMiddleton v. Crofts 2 Atk 650の裁判において、地域主教会議で成立した教会法令自体は平信徒を縛ることができないとの判決を下しました。ヨークの判決は衡平法の原則と限界を定めました。また、彼の影響力により判事の間で残っていたステュアート朝からの伝統が抹消され、（近代の）イギリスの判事の責務とあるべき態度が確立されました。チェスターフィールド伯爵は前任者たちの執拗さと対比してヨークの訴追を称え、ヨーク自身を人情と節度のある、礼儀正しい人物と形容しました。

家族

1719年5月16日、メアリー・コークスと結婚しました。メアリーはチャールズ・コックスと妻メアリー（大法官サマーズ男爵の姉妹）の娘であり、ウィリアム・ライゴン（William Lygon、1716年に子女なくして死去）の未亡人でした。2人は5男2女をもうけました。

フィリップ・ヨーク（1720年 - 1790年） - 第2代ハードウィック伯爵
チャールズ・ヨーク（1722年 - 1770年） - 大法官
エリザベス・ヨーク（1725年 - 1760年） - アンソン男爵と結婚、子供なし
ジョセフ・ヨーク（1724年 - 1792年） - 初代ドーヴァー男爵、外交官
ジョン・ヨーク（1728年 - 1801年） - 庶民院議員
ジェームズ・ヨーク（1730年 - 1808年） - イーリー主教
マーガレット・ヨーク - 第3代準男爵ギルバート・ヒースコートと結婚

関連項目

七年戦争におけるイギリス

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