フェラーリ・F300

フェラーリF300：1998年シーズンの挑戦と進化

1998年のF1世界選手権でスクーデリア・フェラーリが投入したF300は、ロス・ブラウンとロリー・バーン両氏の手によって設計された、革新的なフォーミュラ1マシンでした。フェラーリにおけるコードナンバーは649。3リッターV型10気筒エンジンを搭載し、そのネーミングは、このエンジン排気量に由来するとされています。「0」については、エンツォ・フェラーリの生誕100周年記念という説もあるなど、様々な憶測が飛び交いました。

1998年F1レギュレーションとF300の設計

この年、レギュレーション変更により車体の横幅が狭くなったことを受け、F300はマクラーレンMP4-13ほどではありませんが、セミロングホイールベースを採用。ノーズは前年のF310Bよりもさらに高く設計され、ローノーズのマクラーレンとは対照的なスタイルとなりました。フロントサスペンションには、ショックアブソーバーを垂直に、トーションバースプリングを水平に配置することで、従来のコイルスプリングよりも小型化を実現し、モノコックの細身化に貢献しています。

Tipo 047エンジンは、バンク角を75度から80度に広角化し低重心化を実現。ギアボックスは横置きから縦置きに変更されました。また、排気管の後方位置を制限するレギュレーションに対応するため、第5戦スペインGPからは、リアデッキ上面に排気口を配置する「上方排気システム」を採用。これは排気流の空力的な応用だけでなく、排気管の短縮によるエンジン出力向上にも繋がり、後のF1マシンデザインの標準となりました。排気熱によるサスペンションやウィングの損傷を防ぐため、排気が当たる部分には耐熱シールが施されました。

F300は高いポテンシャルを秘めており、セットアップ変更にも柔軟に対応。些細な改良もラップタイムの向上に直結するなど、開発陣の技術の高さが伺えます。トラクションコントロール並みの高度なデファレンシャル、ブレーキ、スロットル、クラッチ制御なども徹底的に開発されました。

この年から導入されたグルーブドタイヤにおいては、当初ブリヂストンが優勢だったため、グッドイヤーは第3戦から改良型のワイド化されたフロントタイヤを投入。これに合わせて、F300のホイールベースとトレッドも短縮されました。さらに、高速走行時における視認性を高めるため、白いロゴタイプには黒い縁取りと文字影が追加されるなど、細部にもこだわった設計がなされています。

シーズンを通しての進化とタイトル争い

開幕戦オーストラリアGPでは、ミハエル・シューマッハがエンジントラブルでリタイア、エディ・アーバインもマクラーレンに周回遅れを喫するなど、最悪のスタートとなりました。しかし、その後は高い信頼性を示し、メカニカルトラブルによるリタイアは第12戦ハンガリーGPでのアーバインのギアボックストラブルのみでした。

フェラーリはシーズンを通して空力特性を中心に開発を続け、戦闘力の向上を図りました。第2戦ブラジルGPではシューマッハが3位に入賞するも、マクラーレン勢には大きな差をつけられました。第3戦アルゼンチンGPでは、グッドイヤーの改良型ワイドタイヤとの組み合わせが功を奏し、シーズン初優勝を飾ります。その後も、フロントウィングを始め、様々なパーツが毎戦のように改良されていきました。

第4戦サンマリノGPではサイドウイング（通称：Xウィング）、第5戦スペインGPでは上方排気システム、第8戦フランスGPではディフューザーの変更などが行われました。また、高速サーキットで開催されたドイツGP、ベルギーGP、イタリアGPでは、ロングホイールベース仕様の専用シャーシが使用されました。イタリアGPではバージョンアップしたTipo047Cエンジンが搭載され、予選では800馬力を発生したとも言われています。このエンジンは、マクラーレンのメルセデスエンジンを凌駕するパフォーマンスを発揮し、優勝に貢献しました。

第15戦ルクセンブルクGPではスタートシステムの変更、フロントウィングの後退翼への変更、重量バランス調整のためのタングステン製ディスクのコクピット下への搭載など、様々な改良が施されました。最終戦日本GPに向け、タイヤ、クラッチ、デファレンシャルの改良にも重点が置かれました。

戦略面ではシューマッハへの集中サポートに加え、ジャン・トッドによるFIAへの働きかけなど、政治的な活動も展開されました。これらの努力により、カナダGP、イギリスGP、ハンガリーGPなどで勝利を収め、タイトル争いを展開しましたが、オーストリアGP、ベルギーGP、ルクセンブルクGPでの勝利逸脱が響き、最終的にはドライバーズタイトルをミカ・ハッキネン、コンストラクターズタイトルをマクラーレンに奪われてしまいました。

スペック

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