フェリックス・ブルーメンフェルト

フェリックス・ミハイロヴィチ・ブルーメンフェリト（1863年4月17日または19日 - 1931年1月21日）は、帝政ロシア末期からソヴィエト初期にかけて活躍した、ユダヤ系の作曲家、ピアニスト、指揮者、そして傑出した音楽教育者です。

現在のウクライナにあたるヘルソン県エリザヴェドグラート近郊のコヴァレフカで生まれました。オーストリアを出自とするブルーメンフェルト家は音楽との関わりが深く、父は学校でフランス語と音楽を教える教師、母は古くは由緒のあった芸術一家の末裔でした。フェリックスは4人兄弟の末弟で、兄たちもピアニストや作曲家となり、妹オルガもピアニストとして、後に著名な教育者であるハインリヒ・ノイハウスの母となりました。音楽的な環境で育った彼は、早くからその才能の片鱗を見せ始めます。

音楽の基礎を兄スタニスラフや義兄グスタフ・ノイハウスから学んだ後、運命的な出会いが彼の進路を決定づけます。1881年夏、休暇でクリミアを訪れていたニコライ・リムスキー=コルサコフに師事する機会を得たのです。これを機に音楽家としての道を志し、同年秋にはサンクトペテルブルク音楽院に入学。ピアノをF.F.シュタインに、そして作曲をリムスキー=コルサコフ本人から学びました。1885年に音楽院を卒業後、すぐに母校で教鞭を取り始め、1918年までその地位にありました。この時期には、後に世界的なピアニストとなるシモン・バレルを指導しています。

革命後の1918年からはキエフに移り、ミコラ・リセンコ音楽演劇学校の校長を1922年まで務めました。ここで彼がマスタークラスで指導したヴラディーミル・ホロヴィッツは、その名を世界に知らしめることになります。ブルーメンフェリトはホロヴィッツのために《2つの劇的瞬間》作品50と《あるダンサーの人生のエピソード》作品52を献呈しており、師弟関係の深さがうかがえます。1922年からはモスクワに移り、亡くなる1931年までモスクワ音楽院のピアノ科教授として、多くの後進の育成に尽力しました。妹オルガとその息子ハインリヒ・ノイハウスもまた、それぞれ教育者として多大な貢献をしており、ブルーメンフェリト家がロシアのピアノ教育界に与えた影響は計り知れません。

ブルーメンフェリトは優れたピアニストとしても知られ、特に1890年代には、当時のロシアの新しい世代の作曲家、アントン・アレンスキー、アレクサンドル・グラズノフ、アナトーリ・リャードフといった人々のピアノ作品を数多く初演しました。また、1895年から1911年にかけては、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で指揮者としても活躍しました。この劇場では、師であるリムスキー=コルサコフの歌劇『見えざる街キーテジと聖女フェヴローニヤの物語』の世界初演や、アレクサンドル・スクリャービンの交響曲第3番『神聖な詩』、第4番『法悦の詩』のロシア初演を指揮するなど、重要な役割を果たしています。さらに、リヒャルト・ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》のロシア初演も彼の指揮で行われました。1908年には、セルゲイ・ディアギレフが主導した、ムソルグスキーの歌劇《ボリス・ゴドゥノフ》のパリ初演を成功に導くという、国際的にも大きな業績を残しました。このパリ公演は、《ボリス・ゴドゥノフ》がロシア国外で初めて演奏された機会でした。

作曲家としては、フレデリック・ショパンやピョートル・イリイチ・チャイコフスキーからの明らかな影響が見られます。膨大な数のピアノ曲を中心に、交響曲1曲、協奏的作品《演奏会用アレグロ》、室内楽曲、そしていくつかの声楽曲を残しています。彼の作品は技巧的な要求が高いものが多く、特に没後、その超絶技巧を凝らしたピアノ曲が再評価されるようになりました。中でも《左手のための練習曲》作品36は、ショパンを思わせる繊細さと抒情性を持ち合わせた傑作として名高く、弟子のシモン・バレルによる録音も存在します。

ブルーメンフェリトは、そのピアノ指導法においても独自の考えを持っていました。彼は、指を立てて鍵盤を打つ伝統的な奏法（ハイフィンガー）ではなく、指を伸ばして弾く奏法（フラットフィンガー）を強く推奨しました。このメトードは、アルフレッド・コルトーやヴラディーミル・ホロヴィッツといった彼の指導を受けた、あるいは影響を受けた著名なピアニストたちによって実践され、その効果が証明されています。

フェリックス・ブルーメンフェリトは、作曲、演奏、指揮、教育という音楽の主要な分野すべてにおいて卓越した才能を発揮し、特に教育者としては20世紀を代表する偉大なピアニストたちを育て上げました。その多岐にわたる活動と貢献は、帝政ロシアからソヴィエト初期にかけてのロシア音楽史において、重要な足跡として記憶されています。

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