フェルディナン・エロルド

ルイ・ジョゼフ・フェルディナン・エロルド

19世紀フランスの楽壇で異彩を放った作曲家、ルイ・ジョゼフ・フェルディナン・エロルドは、1791年1月28日にパリに生を受けました。主にオペラ作曲家として知られますが、ピアノ曲や管弦楽曲も数多く手掛けています。彼の作品で今日特に知られているのは、力強い序曲を持つオペラ《ザンパ》や、優美なバレエ音楽《ラ・フィユ・マル・ガルデ》でしょう。アルザス地方にルーツを持つエロルド家は、代々音楽家を輩出した家系でした。姓の綴りにアクサンテギュが付かないのは、そのルーツに由来します。

生涯

父は著名なピアニスト、フランソワ＝ジョゼフ・エロルド、母はジャンヌ＝ガブリエル・パスカル。フェルディナンは両親にとってかけがえのない一人息子として育ちました。祖父のニコラ・エロルドも教会のオルガニストという音楽家の家系です。彼は幼い頃から聡明で、6歳で学校に通い始めると優秀な成績を収めました。音楽の才能も早くから芽生え、この時期にフランソワ＝ジョゼフ・フェティスから音楽理論の手ほどきを受けています。7歳になる頃にはピアノ演奏を開始し、自作曲も手掛けていました。

しかし、父フランソワは息子に音楽家になってほしいとは考えていませんでした。父が1802年に世を去った後、ようやくフェルディナンは本格的に音楽の道へと踏み出す決意を固めます。1806年、パリ音楽院に入学。ここでは後にアドルフ・アダンを育てるルイ・アダンからピアノを、カテルに和声法を、クロイツェルからヴァイオリンを、そして最も重要な師となるメユールから作曲を学びました。音楽院での厳しい研鑽は、彼にピアノとヴァイオリン両方における驚異的な演奏技術をもたらしました。1810年にはピアノ科の試験で自作曲を披露して首席を獲得しています。

1812年には作曲の登竜門であるローマ大賞で見事栄冠を手にし、翌年には大賞受賞者として提出が義務付けられていた最初の交響曲を書き上げています。1815年には健康上の理由からローマからナポリに移り住みました。ナポリ滞在中には、3つの弦楽四重奏曲と第2交響曲を生み出しています。また、偽名ランドリアーニを用いて最初のオペラ『アンリ5世の青春』を作曲、ナポリでの上演は好評を博しました。この地では、ナポリ王ジョアシャン・ミュラの王女たちに教師として仕え、多額の報酬を得ています。さらにウィーンでは、あのメッテルニヒ宰相にも約2ヶ月間仕えるという異色の経験もしました。その後、ミュンヘンやスイスを経て故郷パリへ戻ります。

パリ帰国後、彼はすぐさま創作活動を再開します。1816年にはボワエルデューとオペラ『フランク王カール』を共作し、聴衆にその名を印象付けました。同年、単独で作曲したオペラ『優秀な少女たち』は恩師メユールに献呈され、成功を収めます。1817年初演のオペラ『小さな鐘』も好評でしたが、一方で台本探しに苦労し、『初めての訪問』のような質の低い台本で書かれた作品は大きな成功には至りませんでした。1819年の《Les Troqueurs》も同様に失敗に終わっています。

旺盛な創作意欲に駆られ、エロルドは時に質の低い台本にまで手を出してしまう傾向がありました。これが原因となり、『プラトニック・ラブ』や『死せる作家、生ける作家』といったいくつかのオペラは期待通りの結果を残せませんでした。相次ぐ不首尾に打ちひしがれた彼は、その後3年間、オペラ作曲から距離を置くことになります。

転機が訪れたのは1821年、イタリア劇場の助手に就任したことです。歌手を発掘するためのイタリア出張は、心身ともに疲弊していた彼にとって、新たな霊感を得て健康を回復させる絶好の機会となりました。1823年、オペラ《Le Muletier》で舞台に復帰し、成功を収めます。続く《Lasthénie》もまずまずの評価を得ました。同年には、フランス軍のスペイン侵攻の成功を記念して、オベールと共作で《Vendôme en Espagne》を書いています。

1824年、オペラ＝コミック座から『ルネ王』の作曲を依頼されました。同年、イタリア劇場のコレペティトールに就任し、2年後には合唱指揮者へと昇格します。しかし、1826年のオペラ《Le Lapin blanc》は再び失敗に終わりました。次のオペラ『マリー』は大成功を収めますが、イタリア劇場での職務は多忙を極め、彼に更なる高みを目指すための時間や、自身の才能を深く掘り下げる余裕を与えませんでした。結果として、彼は続く3年間、主にバレエ音楽の作曲に取り組むことになります。この時期に作曲されたバレエ音楽の中には、今日でも上演される《ラ・フィユ・マル・ガルデ》が含まれています。

1827年にはパリ・オペラ座に転属となり、1828年11月3日にはフランスの栄誉であるレジオンドヌール勲章を授与されました。1829年のオペラ『まぼろし』は成功を収めましたが、同年の《Emmeline》は振るいませんでした。

そして1831年5月3日、ついにエロルド最大の成功作となるオペラ『ザンパ』が初演されます。この作品はフランス国内にとどまらずドイツでも絶大な人気を獲得し、今日でも折に触れて上演されるレパートリーとなっています。『ザンパ』の成功に続いて、多数の作曲家との力のこもった共作である『ブランヴィリエ侯爵夫人』を手掛けました。

1832年には『医者いらず』、そして生涯最後の傑作となる『プレ・オ・クレール』を書き上げました。『プレ・オ・クレール』の初演からわずか1ヶ月後、1833年の年明け間もなく、彼は長患いだった肺結核のため、ヌイイ＝シュル＝セーヌで41歳の短い生涯を閉じました。未完となったオペラ『リュドヴィク』は、友人のアレヴィによって補筆完成されています。

彼の遺体はパリのペール・ラシェーズ墓地に静かに葬られました。しかし、傑作『プレ・オ・クレール』は死後も上演が続けられ、1871年には100回目の公演を記録するほどの人気を博しました。また、エロルドの生誕90周年にあたる1881年には、彼が生まれたパリの通りが作曲家を称えて「エロルド通り」と名付けられています。短い生涯ながら、特にオペラとバレエの分野において、フランス音楽史に確かな足跡を残した作曲家と言えるでしょう。

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