フォエデラティ

フォエデラティ：古代ローマの同盟 部族とは

フォエデラティ（ラテン語: foederati）は、古代ローマにおいて、ローマと条約（フォエドゥス; foedus）を結んだ部族を指します。この言葉は、共和政ローマ初期と西ローマ帝国末期でその意味合いが大きく異なり、ローマ帝国の歴史を理解する上で重要なキーワードとなります。

共和政ローマ時代のフォエデラティ

共和政ローマ初期において、フォエデラトゥス（単数形）は、ローマと条約を結んだ部族を意味しました。彼らはローマの植民地の住民やローマ市民権を持つ部族とは異なり、有事の際にローマに戦力を提供する義務を負っていました。これは一種の同盟関係であり、ラティウムの部族は血縁関係にあると見なされましたが、それ以外の部族はフォエデラティまたはソキイ（同盟市）として扱われました。

しかし、ローマとの同盟は必ずしも有益とは限りませんでした。ローマの拡大に伴い、同盟市の中には不満を募らせるものも現れ、同盟市戦争（紀元前91年 - 紀元前88年）を引き起こしました。この戦争の結果、紀元前90年にユリウス法が制定され、その条項を受け入れた同盟市の住民にはローマ市民権が与えられることになりました。ただし、全ての同盟市がローマの共和政に吸収されることを望んだわけではありません。

イタリア半島以外にもフォエデラティは存在し、例えばスペインのカディスやフランスのマルセイユなどがその例として挙げられます。

帝政ローマ時代のフォエデラティ

帝政ローマ時代になると、フォエデラティという言葉は、ローマが傭兵として戦士を供給してもらう代わりに援助を与えた周辺の蛮族を指すようになりました。フランク族、ヴァンダル族、アラニ族、そして西ゴート族などがその代表例です。アラリック1世も、元々はゴート族のフォエデラティの一団を率いていました。

"federation"（同盟、連邦）という単語は、ラテン語の"foedus"（フォエドゥス）に由来します。フォエドゥスとは、ローマと他の国家が永久的な正式の相互扶助の条約を締結したことを示す言葉でした。当初、ローマは相手に金銭や食料を提供していましたが、4世紀から5世紀にかけて税収が減少すると、フォエデラティには辺境の土地を与えるようになり、ローマ帝国内の領土に定住を許されることとフォエデラティであることが同義となっていきました。

辺境に広大なヴィッラを構えて自給自足の生活を送っていた地主たちも、このような情勢の変化の中でローマへの忠誠心を保つことが難しくなり、フォエデラティと妥協するようになりました。その結果、帝国は各地方ごとにまとまるようになり、分裂状態に陥っていきました。

358年、フラウィウス・クラウディウス・ユリアヌス帝は、人口が激減していたガリア北部にサリ系フランク族を定住させ、フォエデラティとしました。ローマ軍はライン川防衛のため、ライン川から南西に約160kmの一帯に軍団を置いていましたが、フランク族はそこから北および東に定住して緩衝地帯を設け、戦略面でもローマ帝国の防衛を助けました。しかし、406年と407年の厳冬期にヴァンダル族とアラニ族が一団となってライン川を渡って襲来すると、ローマ人とフランク族は圧倒され、ライン川付近を失うことになりました。

376年、ゴート族の一団がウァレンス帝にドナウ川南岸への定住を願い出て、フォエデラティとして認められました。しかし、378年には同じゴート族の一団が反乱を起こし、ハドリアノポリスの戦いでローマ軍と戦いました。この戦いによって西ローマ帝国はさらに兵力を失い、フォエデラティへの依存度を高めることになりました。

しかし、これらの部族やその指導者たちのローマへの忠誠は決して信用できるものではありませんでした。395年にはアラリック1世に率いられた西ゴート族が反乱を起こしました。西ローマ帝国後期で最も有能な将軍の一人であったスティリコも、両親がフォエデラティ出身でした。

5世紀になると、軍団を維持できるだけの財力が失われた西ローマ帝国の軍隊は、ほぼ完全にフォエデラティの戦力で構成されるようになりました。451年のカタラウヌムの戦いでアッティラ率いるフン族を撃退できたのも、フォエデラティの戦力あってのことでした（西ゴート族やアラニ族もフォエデラティとして参戦していました）。

そして、フォエデラティの台頭は、致命的なクーデターの原因となりました。476年、軍司令官だったオドアケルが最後の西ローマ皇帝ロムルス・アウグストゥルスを廃位させ、帝位をコンスタンティノポリスに返上したことで、西ローマ帝国は名実ともに滅亡しました。

東ローマ帝国の軍では、6世紀までフォエデラティが存続しました。アフリカ属州やイタリア本土の再征服を行ったベリサリウスやナルセスの軍団には、フォエデラティが多数含まれていました。

このように、フォエデラティは、ローマの拡大と衰退の歴史の中で、その役割と意味合いを変えていきました。彼らはローマの同盟者であり、傭兵であり、そして最終的にはローマを滅ぼす存在となったのです。

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