フォート・デトリック

フォート・デトリック：生物兵器研究から感染症対策へ

フォート・デトリックは、アメリカ陸軍が管轄する医学研究施設であり、メリーランド州フレデリックに位置しています。かつては生物兵器の研究開発の中心地でしたが、現在は感染症対策研究の拠点となっています。その歴史は、1929年にフレデリック空港として建設されたことに始まり、1931年にはフレデリック・デトリック少佐の名を冠してデトリック・フィールドと改称されました。

生物兵器研究の歴史

1943年、航空センターとしての役割を終え、キャンプ・デトリックとしてアメリカ陸軍の生物兵器研究施設へと生まれ変わりました。1943年から1969年まで、アメリカの生物兵器プログラムの中核を担い、炭疽菌や野兎病菌などの生物兵器の開発・実験・生産が行われました。この時期には、旧日本軍731部隊の実験資料が持ち込まれたとも言われています。初期には、炭疽菌の大量培養が行われ、その後、ブルセラ菌や野兎病菌の培養施設が建設されました。実験には、ハツカネズミ、モルモット、サルなど、多種多様な動物が使用されました。

1950年には、大規模な実験施設「エイトボール」が完成し、野兎病菌を詰めた爆弾の実験や、炭疽菌の実験が行われました。この実験には、多くのアカゲザルが用いられました。

1969年、ニクソン大統領が攻撃用の生物兵器の開発を中止すると宣言したことで、フォート・デトリックは新たな局面を迎えます。以降は、アメリカ陸軍感染症医学研究所（USAMRIID）が設置され、生物兵器や生物テロに対する防護研究が行われるようになりました。USAMRIIDは、バイオセーフティーレベル4の高度な設備を備え、世界的に知られる研究機関です。

その後の活動と事件・事故

1971年から1976年にかけて、USAMRIIDは韓国から大量の胎児の腎臓を買い付けていたことが明らかになりました。これらの腎臓は、流行性出血熱の研究に使用されたとされています。

2019年8月には、細菌漏れ事故が発生し、一時的に施設が閉鎖されましたが、2020年4月にはオペレーションを再開しています。2021年には、施設の拡張と改修が行われ、現在に至ります。

フォート・デトリックでは、過去に研究者が感染事故により死亡する事件も発生しており、そのうち3名の名を冠した通りがあります。また、2001年のアメリカ炭疽菌事件では、当施設で保管されていた炭疽菌株が使用されたとされ、犯人とされた研究者が自殺するという悲劇も起こりました。この事件の捜査過程では、不当に犯人扱いされた人物が司法省を訴え、後に勝訴しました。さらに、2021年には、フォート・デトリックから韓国に汚染物質が違法に持ち込まれたとして、韓国の民間団体が提訴しています。同年には、海軍病院の衛生兵による銃撃事件も発生し、2人が死亡しています。

フィクション作品への影響

フォート・デトリックは、その特異な性質から、SF作品にも影響を与えています。小松左京のSF小説「復活の日」や、マイケル・クライトンの「アンドロメダ病原体」にも引用されており、映画「アンドロメダ…」に出てくる地下研究施設のモデルにもなりました。

フォート・デトリックは、生物兵器研究の歴史から、感染症対策研究へと変化を遂げてきました。その過程で様々な事件や事故も発生しましたが、現代においては感染症研究における重要な役割を果たしています。

脚注

アメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)は、世界で最も高度なバイオセーフティーレベル4の施設の一つです。
過去には、生物兵器の開発に関わっていた歴史から、様々な論争の的となってきました。
現在も、生物テロ対策や感染症の治療薬開発など、重要な研究が行われています。

関連項目

アメリカ合衆国の大量破壊兵器

外部リンク

英語'>フォート・デトリック公式ウェブサイト
英語'>アメリカ陸軍感染症医学研究所（USAMRIID）公式ウェブサイト

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