フォード・コスワース・FVA

フォード・コスワースFVAエンジン：F2を席巻した革新技術

フォード・コスワースFVAエンジンは、1960年代後半から70年代初頭にかけて、フォーミュラ2（F2）において圧倒的な成功を収めたレーシングエンジンです。コスワース社がフォード社の支援を受けて開発したこのエンジンは、その画期的な技術と圧倒的な性能で、F2の歴史に名を刻みました。

誕生の背景：F1エンジン開発への布石

FVAエンジンの開発は、1960年代半ば、国際自動車連盟（FIA）によるF1エンジン規定の変更がきっかけでした。FIAは、1966年からF1エンジンの排気量を3,000cc（自然吸気）または1,500cc（過給機付き）に変更すると発表。これを受け、ロータスのコーリン・チャップマンがフォード社に協力を要請、新たなF1エンジン開発計画が始動しました。

この計画の一環として、1965年10月、フォード社はコスワース社と契約。F1用エンジンの開発と並行して、F2用エンジンとしてFVAの開発に着手しました。F1用エンジン、DFVは、FVAをベースにV型8気筒に改良したものでした。FVAはDFV開発における重要な先行開発モデルとなったのです。

画期的な技術：狭角4バルブペントルーフ型燃焼室

FVAエンジンの最大の特徴は、世界で初めて狭角4バルブのペントルーフ型燃焼室を採用したことでした。それまでのレーシングエンジンは、主に半球型燃焼室が主流でしたが、コスワース社のキース・ダックワースは、燃料の質向上を背景に、より高圧縮比と高効率な燃焼を実現するためにペントルーフ型燃焼室を開発。

ペントルーフ型燃焼室は、バルブ挟み角を狭く設定することで、ピストン頭部をフラット形状に近づけ、圧縮比を高め、急速燃焼と高い充填効率を実現しました。これにより、高出力と低燃費を両立させることに成功しました。

圧倒的な性能と成功：F2時代の支配

1967年3月のF2開幕戦でデビューを果たしたFVAエンジン搭載車は、その圧倒的な性能で勝利を収め、その後も長くF2を席巻しました。フェラーリやBMWなどのライバル勢を寄せ付けず、1,600cc F2時代を制覇したのです。FVAという名称は、「Four Valve type A」に由来しています。

その主要諸元は、自然吸気直列4気筒DOHC4バルブ、ボア×ストローク85.6×69.5mm、排気量1,598cc、最大出力218ps/9,000rpmでした。鋳鉄製のシリンダーブロックは、フォードの量産型116Eブロックをベースに、コスワースが設計したシリンダーヘッドと組み合わせられました。

FVAの系譜：発展型エンジン群

F2エンジンとしての成功後も、FVAエンジンは様々な発展型を生み出しました。

FVB: DFV開発のための試験機。排気量1,500cc、出力200馬力。
FVC: FVAのストロークを延長したスポーツカー用エンジン。排気量1,790cc、出力235馬力。
FVD: 排気量2,000ccに拡大した実験機。排気量1,975cc、出力275馬力。
FVAターボ: 富士グランチャンピオンレース参戦用ターボエンジン。

これらの発展型エンジンは、FVAの基本設計を踏襲しつつ、排気量や出力、用途に合わせて改良が加えられています。

F2時代の終焉とその後

1972年シーズンからは、F2のエンジン規定が2,000cc直列4気筒に変更されました。FVAは1,500ccベースのエンジンであったため、この規定変更に対応することが困難となり、コスワースはF2から撤退。王座はBMWに譲ることとなりました。

FVAエンジンは、その革新的な技術と圧倒的な成功によって、モータースポーツの歴史に大きな足跡を残しました。その名は、今日でも多くのモータースポーツファンに語り継がれています。

もう一度検索