フォード・フリック

フォード・クリストファー・フリック（Ford Christopher Frick、1894年12月19日 - 1978年4月8日）は、MLB（メジャーリーグベースボール）の3代目コミッショナーとして、1951年から1965年までその職を務めました。

経歴

フリックは、そのキャリアを野球記者としてスタートさせ、卓越した記事で名声を確立しました。その後、ナショナルリーグの会長に就任し、ハッピー・チャンドラーの後任としてコミッショナーの座を引き継ぎました。彼の功績は多岐にわたり、1970年にはアメリカ野球殿堂入りを果たしました。また、1978年からは、メジャーリーグの報道・放送分野で顕著な貢献をした人物を称える『フォード・C・フリック賞』が創設され、彼の名前は不朽のものとなっています。

ジャッキー・ロビンソンの昇格への貢献

1947年4月10日、ブルックリン・ドジャース傘下の3Aに所属していたジャッキー・ロビンソンがメジャーリーグに昇格する際、多くの球団がこれに反発し、一部は「黒人を試合に出場させるなら試合を放棄する」とドジャースを脅迫する事態となりました。当時ナショナルリーグ会長であったフリックは、コミッショナーのハッピー・チャンドラーと共に、「人種を理由に対戦を拒否するチームや選手には出場停止処分を科す」という断固たる姿勢を示し、事態の沈静化に尽力しました。彼の強い働きかけにより、ロビンソンは4月15日に黒人初のメジャーリーガーとして歴史的な一歩を踏み出すことができました。

ロジャー・マリスの年間最多本塁打記録を巡る騒動

1961年、ロジャー・マリス（ニューヨーク・ヤンキース）が当時の大リーグ年間最多本塁打記録となる61本塁打を達成しました。それまでの記録保持者はベーブ・ルースであり、1927年に60本塁打を記録していました。しかし、当時のニューヨークのメディアは、マリスがルースの記録を塗り替えることを快く思っていませんでした。コミッショナーであったフリックもその一人でした。彼は、野球記者時代にベーブ・ルースと親交が深く、個人的な思い入れがあったのです。

1961年は、MLBの球団数が8球団から10球団に増加し、年間試合数も154試合から162試合に増加した年でした。フリックは、この記録達成に対し複雑な感情を抱いており、シーズン中に「ルースは154試合制の下で記録を達成した。マリスが162試合制で記録を更新しても、154試合目までにルースの記録を上回らなければ、新記録とは認めない」という声明を発表しました。この声明は、評論家、記者、ファンからの猛烈な反発を招き、連日議論が沸騰し、大きな騒ぎとなりました。

マリスは154試合目で59本塁打に留まり、ルースの60本塁打を超えることはできませんでした。しかし、158試合目で60号本塁打、そして162試合目で61号本塁打を放ちました。アメリカンリーグ会長のジョー・クローニンは「誰が何と言おうと新記録と認めざるを得ない」と主張しました。最終的にフリックも折れ、154試合制でのルースの60本塁打と、162試合制でのマリスの61本塁打を併記するという折衷案を受け入れました。さらに、公式記録にアスタリスク（注釈）を付けるように指示しました。

このアスタリスクは、長年にわたりマリスの記録につきまとい、物議を醸しました。しかし、1991年に当時のコミッショナーであったフェイ・ヴィンセントが「記録は統一されるべきである。マリスは誰よりも本塁打を打った」との見解を示し、アスタリスクを外し、マリスの「名誉回復」がなされました。

フォード・C・フリックは、その功績と、ロジャー・マリスの記録を巡る騒動によって、野球史にその名を深く刻んでいます。

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