フットワーク・FA16

フットワーク・FA16：1995年シーズンの軌跡

フットワーク・FA16は、フットワークチームが1995年のF1世界選手権参戦のために開発したフォーミュラカーです。設計を手がけたのはアラン・ジェンキンス。開発においては、当初予定していたフォード・ゼテックRエンジン搭載計画が頓挫し、急遽ハートV8エンジンを搭載することになったという波乱がありました。この変更は、設計段階での大きな修正を余儀なくされ、チームにとって大きな試練となりました。

アラン・ジェンキンスは、この困難な状況を振り返り、ハートエンジンへの変更がマシン開発における最大の課題であったと証言しています。しかし、資金不足という制約の中で、ハートエンジンはコンパクトで軽量、そしてこの予算で可能な最高の性能を提供したと評価しています。このエンジンは、F1で唯一ニューマチックバルブを搭載していないエンジンでしたが、開発者であるブライアン・ハートは、資金が確保されれば導入できるよう準備を整えていました。

ドライバーの井上隆智穂は、FA16について「よくできたクルマ」と高く評価しています。ハートエンジンの非力さを認めた上で、それでもF1マシンとしての実力を感じたと語っています。シャシーの設計を担当したアラン・ジェンキンスの設計能力についても、井上は高い評価を与えています。

FA16の優れた点は、セットアップが決まった時の軽快性です。ハートエンジンは中速コースにマッチしており、ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットやアデレード市街地コースといった特性の似たコースで、ジャンニ・モルビデリが好成績を収めました。

1995年シーズン、フットワークチームの活躍を牽引したのはジャンニ・モルビデリでした。彼はカナダGPで6位に入り1ポイントを獲得、そして最終戦オーストラリアGPでは、1989年アメリカGP以来となる3位表彰台を獲得。FA16の潜在能力を最大限に引き出しました。しかし、他のドライバーである井上隆智穂や、資金調達のためシーズン途中から起用されたマッシミリアーノ・パピスはFA16の性能を十分に発揮することができませんでした。

井上隆智穂は、モナコGPとハンガリーGPでオフィシャルカーとの接触事故に見舞われました。モナコではピットに戻っている際に、ハンガリーではエンジントラブルにより停止したマシンにコースカーが接触するというアクシデントでした。幸いにも、彼は大きな怪我をすることはありませんでした。これらの事故は、彼のF1ドライバーとしての経験不足を物語るものでした。今宮純は、シーズンの総括で、井上のF1ドライバーとしての能力は、まだ発展途上であったと述べています。

チームはモルビデリを中心とした活躍により5ポイントを獲得。これはティレルと並んでいましたが、モルビデリが獲得した表彰台により、コンストラクターズランキングでティレルを上回る8位でシーズンを終えました。

シーズン後、FA16はその後、幾多のオーナーを転々としました。しかし、現在では当時のドライバーである井上隆智穂によってレストアされ、現役当時の姿で保存されています。このレストアされたFA16は、1995年シーズンのフットワークチームの挑戦と、そのマシンが秘めたポテンシャルを今に伝える貴重な証となっています。

参考文献:

Henry, Alan (ed.) (1995). AUTOCOURSE 1995-96. Hazleton Publishing. pp. 60-61. ISBN 1-874557-36-5

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