フフシル

フフシル：青い峰の秘境

フフシル（可可西里）は、チベット高原北部に位置する広大な地域であり、その名はモンゴル語で「青い峰」を意味します。平均標高は5,000mを超え、極寒の高山気候が特徴です。世界でも有数の無人地帯として知られ、手つかずの自然が残されています。

多様な生態系

フフシルには、氷河の雪解け水が作り出した無数の湖沼と湿地が点在し、イネ科植物を中心とした草原が広がっています。この過酷な環境下で、チルー（チベットアンテロープ）、オオカミ、ヒグマなど、230種を超える野生動物が生息しています。特に、チルーはフフシルを代表する動物であり、重要な繁殖地となっています。毎年、初夏になると数万頭の雌が繁殖のために集まり、その光景は圧巻です。

フフシルの生態系の特徴は、固有種の多さです。植物種の3分の1以上、哺乳類全体の60%がこの地域に固有であり、特にチルー、ノヤク、チベットノロバ、チベットガゼルといった草食哺乳類はすべて固有種です。これは、フフシルの隔離された環境が独自の進化を促した結果と言えるでしょう。

脅威と変化

近年、フフシルは様々な脅威にさらされています。チルーの毛皮を目的とした密猟は深刻な問題であり、密猟者と保護団体の間で厳しい戦いが繰り広げられています。また、違法な採掘、気候変動、草原の砂漠化なども生態系に悪影響を及ぼしています。一方、地震による温泉や断層の形成、氷河の融解による湖の拡大など、新たな生息地が生まれる変化も見られます。

世界遺産登録

2017年、フフシルは自然美と生物多様性が評価され、世界遺産に登録されました。登録されたのは、青海可可西里国家級自然保護区や三江源国家級自然保護区に属する地域です。世界遺産としての登録基準は以下の通りです。

(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。

交通と映像作品

フフシルの中央部は、G109国道（北京～ラサ）と青蔵鉄道（西寧～ラサ）が南北に走っています。これらの交通網は、フフシルへのアクセスを容易にする一方で、環境への影響も懸念されています。

フフシルを舞台とした映像作品も制作されています。NHKのドキュメンタリー番組『遥かなり 秘境 可可西里 〜日中合同探検隊・60日間の記録〜』や、テレビ東京の『20世紀最後の秘境 青く透明な大地ココシリ』などが制作されました。また、2004年にはルー・チュアン監督による映画『ココシリ』が公開され、東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

フフシルは、地球上に残された数少ない秘境の一つです。その貴重な自然と生態系を守り、未来へと受け継いでいくために、私たち一人ひとりが意識を高める必要があります。

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