フランク・チャーチ

フランク・フォレスター・チャーチ3世（Frank Forrester Church III、1924年 7月25日 - 1984年 4月7日）は、アメリカ合衆国を代表する政治家の一人であり、弁護士としての経験も持ち合わせていました。アイダホ州から選出された民主党所属の上院議員として長きにわたり活躍し、特に情報機関の活動や多国籍企業の振る舞いに関する調査で知られています。日本では、ロッキード事件の真相究明に深く関わることとなった、上院外交委員会に設置された多国籍企業小委員会（通称「チャーチ委員会」）の委員長を務めた人物として特にその名を知られています。

生い立ちと初期の歩み

チャーチは1924年 7月25日、アイダホ州ボイシに生まれました。若い頃から政治に関心を持ち、地元アイダホ州選出の上院議員ウィリアム・ボーラを敬愛していました。ボイシ高校では生徒会長を務め、1942年にはスタンフォード大学に進学し、学問を修めました。

第二次世界大戦中の1943年、彼は陸軍に入隊。情報担当として、中国、ビルマ、インドなどアジアの戦線で任務に就きました。1946年に軍務を終えると再び大学に戻り、1947年に学士号を取得しました。同年には、後のアイダホ州知事となるチェイス・A・クラークの娘、ベサイン・クラークと結婚しました。その後、名門ハーバード・ロー・スクールに進みますが、一年を経ずしてスタンフォード・ロー・スクールに転籍します。この時期、彼は持続的な背中の痛みに悩まされ、当初は気候の影響と考えていましたが、後に精巣癌という重い病であると診断されました。片方の睾丸と腺の切除手術を受け、余命はわずか数ヶ月と宣告されましたが、別の医師による放射線治療が奏功し、奇跡的に回復を遂げました。この死の淵からの生還は、彼のその後の人生観に深い影響を与え、「人生そのものが極めて危うい試みであり、それを生き抜くことこそが、大きな機会を得る唯一の道である」と深く考える契機となりました。1950年にスタンフォード・ロー・スクールを卒業した彼は、故郷ボイシに戻り、弁護士としてキャリアをスタートさせました。フランクとベサインの間には、フランク・フォレスター・チャーチ4世とチェイス・クラーク・チャーチという二人の息子が生まれました。息子のフランク4世は2009年に亡くなりましたが、チェイスは現在もボイシに居住しています。

政治家としての活動

弁護士としての活動を経て、チャーチは政治の世界へと足を踏み入れます。1956年、弱冠32歳でアイダホ州選出の上院議員に当選し、その若さながらも頭角を現しました。ベトナム戦争が泥沼化する中、1967年にはジョージ・マクガバン、J・ウィリアム・フルブライトといった他の上院議員と共に、早期の戦争解決を求める声明を発表しました。さらに、1970年5月には共和党のジョン・シャーマン・クーパー上院議員と共同で、「クーパー・チャーチ修正案」を議会に提出。これは、アメリカ軍がインドシナにおける地上戦闘作戦や軍事顧問活動を行うことを禁止するもので、この提出により彼は国内外から大きな注目を集めることとなりました。

1973年、チリでサルバドール・アジェンデ政権が崩壊した出来事を背景に、多国籍企業の活動がアメリカ外交に与える影響の調査が重要視されるようになります。これを受け、上院外交委員会の下に多国籍企業小委員会が設置され、チャーチはその委員長に選ばれました。彼はこの立場から、アジェンデ政権の転覆に関与したとされる企業と、アメリカ中央情報局（CIA）との関係性を深く掘り下げて調査しました。1974年には、アメリカの資源外交における石油メジャーとの癒着問題を明らかにするため、主要な石油会社15社を対象とした公聴会を開催しています。

さらに1975年、CIAによる国内外での非合法な活動が次々と暴露される事態を受け、情報機関の活動を監督するための「情報活動調査特別委員会」が上院に設立されました。こちらも通称「チャーチ委員会」と呼ばれ、彼はこの特別委員会の委員長も兼任しました。この委員会は、CIAや連邦捜査局（FBI）など、アメリカの情報機関の秘密活動や権限濫用について徹底的な調査を行いました。同年11月、委員会はCIAが過去に5件の外国要人暗殺計画に関与していたとする衝撃的な報告書を発表し、情報機関に対する国民の不信感を高めました。この調査の成果は、1978年の外国情報評価法（Foreign Intelligence Surveillance Act, FISA）の制定に大きく貢献しました。1976年には、FBIによる国内の政治活動家などを標的とした監視プログラム「コインテルプロ（COINTELPRO）」に関する調査も開始し、その活動が違法であったと結論付けました。

特に日本において彼の名前が知られるきっかけとなったのは、ロッキード事件との関連です。チャーチが率いる多国籍企業小委員会は、ロッキード社の副社長であったカール・コーチャンを議会に召喚しました。彼はそこで、日本政府高官への贈賄や、日本の航空会社に対するトライスター機の売り込みに関する詳細な情報を厳しく追及され、議会の場でその一部を証言しました。この証言が日本国内の汚職事件発覚につながる重要な情報源の一つとなったことから、彼の名が日本でも大きく報じられることになったのです。

政治家として、1979年にはエジプトとイスラエルの間の平和条約調印式に参列するなど、外交の舞台にも関わりました。

晩年と死去

1984年1月、チャーチは膵臓癌を患い、入院生活を送ることとなりました。そして同年4月7日、メリーランド州ベセスダの自宅にて、59歳でその生涯を閉じました。フランク・チャーチは、癌を克服して得た第二の人生を、アメリカの政治と社会、特に情報機関の透明性と説明責任を求める活動に捧げた人物として記憶されています。彼の委員会の調査は、アメリカの情報機関のあり方に大きな影響を与え、その後の改革の礎となりました。

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