フランク・ハーン

フランク・ハーン

フランク・ハーン（Frank Horace Hahn、1925年4月26日 - 2013年1月29日） は、ドイツで生まれ、そのキャリアの大半をイギリスで過ごした著名な経済学者です。彼の主要な専門分野は、経済学における最も基礎的かつ重要な理論の一つである一般均衡理論、そして貨幣に関する理論でした。

生涯とキャリア

1925年、フランク・ハーンはドイツの首都ベルリンで、有名な哲学者・数学者を父として生を受けました。しかし、時代の波に翻弄され、一家は1931年にプラハへ、そして1938年にはイギリスへと移住することになります。

高等教育はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）で受け、1945年に理学士号（BS）を取得しました。さらに研究を進め、1950年にはLSEで博士号（Ph.D.）を取得しています。彼の博士論文は『国民所得に占める賃金の分け前』と題され、後に1969年に書籍として出版されています。

博士号取得後、ハーンはアカデミックなキャリアをスタートさせました。1953年から1960年にかけてはバーミンガム大学で教鞭を執り、数理経済学を教えました。その後、名門ケンブリッジ大学に移籍し、1960年から1966年まで講師を務めました。1967年から1972年の間は再びLSEに戻り、経済学の教授として活躍しました。1972年からは再びケンブリッジ大学の教授となり、1992年に名誉教授の称号を得るまでその地位にありました。また、1990年から1996年にかけては、イタリアのシエナ大学でも教授を務め、博士課程の学生指導にあたっています。

ハーンは母校や主要な所属大学以外にも、国際的に認められた機関で客員研究員や客員教授を歴任しました。これには、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学（MIT）、カリフォルニア大学バークレー校などが含まれ、アメリカ芸術科学アカデミーの客員研究員も務めています。

主要な業績

フランク・ハーンは、一般均衡理論の分野における世界的な権威として広く認識されています。この理論は、経済全体における様々な市場がどのように相互に関連し、均衡状態がどのように達成されるかを分析するものです。

一般均衡理論への貢献

一般均衡理論は数学的な複雑さを伴うため、その研究者の多くは専門家間の議論に焦点を当てがちです。しかし、ハーンは理論の厳密さを追求する一方で、その重要性をより広い層、特に学生に対して繰り返し説こうと努めました。ケンブリッジ大学での教授就任講演をまとめた著書『経済学における均衡の概念』（1973年）や、高名な経済学者K・J・アローと共同で執筆した教科書『一般均衡分析』（1971年）の冒頭章は、その理論の意義を平易な言葉で解説するハーンの努力を示す好例です。

ハーンが特に強調した論点の一つは、一般均衡理論こそが、経済学者が何百年にもわたって主張してきた「個々の経済主体の合理的な行動が集まって経済全体の調和や効率性を生み出す」という考え方、いわゆる「見えざる手」の概念を、厳密かつ正確に理論的に裏付ける唯一の方法である、という点でした。

貨幣理論とマネタリズム批判

ハーンは貨幣理論にも深い関心を寄せ、特に貨幣が経済の均衡に与える影響について研究しました。彼の著書『貨幣とインフレーション』（1982年）では、当時の経済学界で大きな影響力を持っていたマネタリズムに対し、正面からの批判を展開しました。ハーンは、マネタリズムの基本的な考え方が、彼が専門とする一般均衡理論の枠組みとは両立し得ないという点を強く主張しました。

主な著作

フランク・ハーンの著作は数多く、彼の研究成果は様々な論文や書籍として発表されています。

日本語訳

（K・J・アロー共著）『一般均衡分析』、福岡正夫・川又邦雄共訳、岩波書店、1976年
『貨幣とインフレーション』、丸山徹訳、創文社、1987年

原書（一部）

"The Share of Wages in the Trade Cycle", Economic Journal, vol 60 (1950).
"The Share of Wages in National Income", Oxford Economic Papers vol. 3#2 (1951).
"The Rate of Interest in General Equilibrium Analysis", Economic Journal (1955).
"Gross Substitutes and the Dynamic Stability of General Equilibrium", Econometrica vol 26 (1958).
"The Patinkin Controversy", Review of Economic Studies vol. 19 (1960).
"The Stability of Growth Equilibrium", Quarterly Journal of Economics vol. 74 (1960).
"Money, Dynamic Stability and Growth", Metroeconomica vol. 13#11 (August 1961).
"A Stable Adjustment Process for a Competitive Economy", Review of Economic Studies vol 39 (1962).
"A Theorem on Non-Tatonnement Stability" with T.Negishi, Econometrica vol. 30#3 (1962).
"On the Stability of a Pure Exchange Equilibrium", International Economic Review, vol. 3 (May, 1962).
General Competitive Analysis (1971), with K.J. Arrow.
On the Notion of Equilibrium in Economics (1974).
Money and Inflation (1982).
Equilibrium and Macroeconomics (1984).
Money, Growth and Stability (1985).
Critical Essay on Modern Macroeconomic Theory (1995) with R.M. Solow.
* "Notes on Sequence Economies, Transaction Costs and Uncertainty", with K.J. Arrow Journal of Economic Theory vol. 86#2 (1999).

フランク・ハーンは、その厳密な理論研究と同時に、経済学の重要な概念を広く伝える努力を続けたことで、後世の経済学者に大きな影響を与えました。

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