フランシスコ・ゲレーロ
フランシスコ・ゲレーロ（Francisco Guerrero, 1528年10月4日？ – 1599年11月8日）は、ルネサンス時代後半に活躍したスペインの重要な作曲家です。彼は南部アンダルシア地方の中心都市セビリャに生まれ、その地で波乱に満ちた生涯を終えました。
ゲレーロは、兄のペドロと共に幼少期から音楽教育を受けました。その才能は非常に早熟であり、わずか17歳という若さでハエン大聖堂の楽長（maestro de capilla）に任じられたことからも、その非凡さが窺えます。数年後には故郷セビリャに戻り、大聖堂でより高位の職を得ました。彼は卓越した歌手としても、また独創的な作曲家としても高い評価を受け、30歳になる前にはすでにスペイン国内はもとより、国外でも広くその名を知られるようになりました。この時期に国外で複数の作品集が出版された事実は、彼がいかに早くから国際的な名声と影響力を確立していたかを物語っています。
その後、ゲレーロは数十年にわたり、スペインやポルトガル各地の教会や宮廷で精力的に活動しました。一時期は神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン2世にも仕える機会を得るなど、その活動範囲は広範でした。1581年から82年にかけての一年間はイタリアに滞在し、この地でも新たに2冊の作品集を出版しました。イタリアからの帰国後、再びスペインで数年を過ごした後、彼はかねてからの強い願いであった聖地パレスチナへの巡礼を決意し、1589年にその壮大な旅を実現させます。この巡礼では、ダマスカス、ベツレヘム、そしてエルサレムといったキリスト教にとって重要な聖地を巡りました。
しかし、その帰路は想像を超える苦難に満ちたものでした。彼が乗っていた船は、地中海上で二度にわたり海賊に襲撃されました。ゲレーロは九死に一生を得ましたが、所持品をすべて奪われた上に、さらには身代金目的で海賊に拘束されるという悲劇に見舞われます。最終的には身代金が支払われたことで解放され、無事にスペインに帰還することができましたが、この出来事により文字通り一文無しとなってしまいました。借金を抱えた彼は、一時的に負債者監獄に収監されるという屈辱的な経験をすることになります。幸いなことに、最終的にはセビリャ大聖堂でのかつての雇用主や同僚の助けを得て救済され、再びその職を得て安定した晩年を送ることができるようになりました。
この波乱に満ちた聖地への旅の体験は、1590年に旅行記『エルサレムへの旅』（El viage de Hierusalem）として出版され、当時のスペイン社会で大きな人気を博しました。この旅行記は広く読まれ、スペイン文学史上最も有名な作家の一人であるミゲル・デ・セルバンテスもこれを手にして、その内容を知っていた可能性が指摘されています。晩年、ゲレーロは再び聖地への旅行を計画しましたが、その夢を果たすことはできませんでした。1599年11月8日、セビリャで流行していたペストにより、彼は71歳でその生涯を閉じました。
同時代のスペインを代表する他の作曲家、例えばトマス・ルイス・デ・ビクトリアやクリストバル・デ・モラーレスなどが活動の多くの部分をイタリアで送ったのに対し、ゲレーロは生涯の大部分をスペイン国内に留まり、活動した点が特徴的です。ただし、当時イベリア半島でも活躍したフランドル楽派の作曲家とは異なり、多くのスペイン人作曲家はたとえ国外で長く過ごしても、晩年には故国に戻る傾向がありました。
ゲレーロは、同時代のビクトリアやモラーレスが主に宗教音楽に傾倒したのとは異なり、宗教音楽と世俗音楽の双方において精力的に作曲を行いました。彼はミサ曲、モテット、受難曲といった教会音楽の主要なジャンルに加え、世俗歌曲や器楽作品も多数残しています。彼の音楽は、人間が経験する多様な感情を驚くほど豊かに表現することに長けており、恍惚感から深い絶望、甘いあこがれ、純粋な喜び、そして敬虔な宗教的静寂といった幅広い感情を見事に描き出しました。
彼の作品は、死後数百年を経てもその価値が失われることなく人気を保ち続け、特に大西洋を越えたラテンアメリカの教会では長く演奏され、親しまれていました。音楽様式においては、同時代のスペインで流行していたホモフォニーを巧みに用い、覚えやすく歌いやすい、印象的な旋律を生み出すことを得意としていました。ゲレーロの様式における特筆すべき点は、後のバロック時代に確立される機能和声的な作曲法を先取りするかのような先進的な手法を随所に取り入れている点です。彼の音楽におけるこの先進性は、例えばペルーのリマで発見され、当初は18世紀の作品と考えられていた作曲者不詳のマニフィカトが、後の綿密な研究によってゲレーロの作品であることが判明したことからも強く示唆されます。
Gustave Reese, Music in the Renaissance. New York, W.W. Norton & Co., 1954. ISBN 0393095304
The New Grove Dictionary of Music and Musicians, ed. Stanley Sadie. 20 vol. London, Macmillan Publishers Ltd., 1980. ISBN 1561591742
* 合唱曲パブリック・ドメイン・ライブラリー（CPDL）のゲレーロの楽譜
生涯
ゲレーロは、兄のペドロと共に幼少期から音楽教育を受けました。その才能は非常に早熟であり、わずか17歳という若さでハエン大聖堂の楽長（maestro de capilla）に任じられたことからも、その非凡さが窺えます。数年後には故郷セビリャに戻り、大聖堂でより高位の職を得ました。彼は卓越した歌手としても、また独創的な作曲家としても高い評価を受け、30歳になる前にはすでにスペイン国内はもとより、国外でも広くその名を知られるようになりました。この時期に国外で複数の作品集が出版された事実は、彼がいかに早くから国際的な名声と影響力を確立していたかを物語っています。
その後、ゲレーロは数十年にわたり、スペインやポルトガル各地の教会や宮廷で精力的に活動しました。一時期は神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン2世にも仕える機会を得るなど、その活動範囲は広範でした。1581年から82年にかけての一年間はイタリアに滞在し、この地でも新たに2冊の作品集を出版しました。イタリアからの帰国後、再びスペインで数年を過ごした後、彼はかねてからの強い願いであった聖地パレスチナへの巡礼を決意し、1589年にその壮大な旅を実現させます。この巡礼では、ダマスカス、ベツレヘム、そしてエルサレムといったキリスト教にとって重要な聖地を巡りました。
しかし、その帰路は想像を超える苦難に満ちたものでした。彼が乗っていた船は、地中海上で二度にわたり海賊に襲撃されました。ゲレーロは九死に一生を得ましたが、所持品をすべて奪われた上に、さらには身代金目的で海賊に拘束されるという悲劇に見舞われます。最終的には身代金が支払われたことで解放され、無事にスペインに帰還することができましたが、この出来事により文字通り一文無しとなってしまいました。借金を抱えた彼は、一時的に負債者監獄に収監されるという屈辱的な経験をすることになります。幸いなことに、最終的にはセビリャ大聖堂でのかつての雇用主や同僚の助けを得て救済され、再びその職を得て安定した晩年を送ることができるようになりました。
この波乱に満ちた聖地への旅の体験は、1590年に旅行記『エルサレムへの旅』（El viage de Hierusalem）として出版され、当時のスペイン社会で大きな人気を博しました。この旅行記は広く読まれ、スペイン文学史上最も有名な作家の一人であるミゲル・デ・セルバンテスもこれを手にして、その内容を知っていた可能性が指摘されています。晩年、ゲレーロは再び聖地への旅行を計画しましたが、その夢を果たすことはできませんでした。1599年11月8日、セビリャで流行していたペストにより、彼は71歳でその生涯を閉じました。
同時代のスペインを代表する他の作曲家、例えばトマス・ルイス・デ・ビクトリアやクリストバル・デ・モラーレスなどが活動の多くの部分をイタリアで送ったのに対し、ゲレーロは生涯の大部分をスペイン国内に留まり、活動した点が特徴的です。ただし、当時イベリア半島でも活躍したフランドル楽派の作曲家とは異なり、多くのスペイン人作曲家はたとえ国外で長く過ごしても、晩年には故国に戻る傾向がありました。
作品
ゲレーロは、同時代のビクトリアやモラーレスが主に宗教音楽に傾倒したのとは異なり、宗教音楽と世俗音楽の双方において精力的に作曲を行いました。彼はミサ曲、モテット、受難曲といった教会音楽の主要なジャンルに加え、世俗歌曲や器楽作品も多数残しています。彼の音楽は、人間が経験する多様な感情を驚くほど豊かに表現することに長けており、恍惚感から深い絶望、甘いあこがれ、純粋な喜び、そして敬虔な宗教的静寂といった幅広い感情を見事に描き出しました。
彼の作品は、死後数百年を経てもその価値が失われることなく人気を保ち続け、特に大西洋を越えたラテンアメリカの教会では長く演奏され、親しまれていました。音楽様式においては、同時代のスペインで流行していたホモフォニーを巧みに用い、覚えやすく歌いやすい、印象的な旋律を生み出すことを得意としていました。ゲレーロの様式における特筆すべき点は、後のバロック時代に確立される機能和声的な作曲法を先取りするかのような先進的な手法を随所に取り入れている点です。彼の音楽におけるこの先進性は、例えばペルーのリマで発見され、当初は18世紀の作品と考えられていた作曲者不詳のマニフィカトが、後の綿密な研究によってゲレーロの作品であることが判明したことからも強く示唆されます。
参考文献
Gustave Reese, Music in the Renaissance. New York, W.W. Norton & Co., 1954. ISBN 0393095304
The New Grove Dictionary of Music and Musicians, ed. Stanley Sadie. 20 vol. London, Macmillan Publishers Ltd., 1980. ISBN 1561591742
外部リンク
* 合唱曲パブリック・ドメイン・ライブラリー（CPDL）のゲレーロの楽譜
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