フランス芸術家協会

フランス芸術家協会、フランス語でソシエテ・デ・ザルティスト・フランセ（Société des artistes français）は、1881年にフランスで設立された美術団体です。かつて芸術アカデミーが主催していた権威ある官展、サロン・ド・パリの後継として、現在に至るまで美術展覧会を開催し続けています。

設立の背景と沿革

フランス第二帝政期まで、美術家が自身の作品を発表する主要な場は、芸術アカデミーによって厳格に管理されていたサロン・ド・パリでした。この官展に入選することは、画家が社会的な認知度を高め、公的または個人的な制作依頼を獲得するための不可欠なステップでした。しかし、普仏戦争後の第三共和政が始まっても、1872年に再開されたサロンの審査基準はさらに保守的な傾向を強め、多くの美術家が落選の憂き目を見ることになります。

当時のサロンでは、歴史画や物語画といったジャンルが最も高尚とされ、国民の芸術的な趣味を啓蒙し、洗練させる役割を担っていると考えられていました。その一方で、一般の人々の関心や購買意欲は、風俗画や風景画、静物画といった、サロンの基準では低い位置づけとされるジャンルへと向かい始めていました。このようなアカデミックな価値観と現実の嗜好との間に生じた矛盾は、サロンのあり方に対する疑問を投げかけました。こうした状況下、1874年以降、クロード・モネやピエール＝オーギュスト・ルノワール、カミーユ・ピサロ、エドガー・ドガといった新進気鋭の画家たちは、サロンに対する不満から独自のグループ展、いわゆる印象派展を開催する動きを見せます。

美術界を取り巻く環境が変化する中、政治情勢も動いていました。1873年に大統領に就任した王朝派のパトリス・ド・マクマオンが1879年に退任し、共和派のジュール・グレヴィが大統領に選ばれます。グレヴィ政権は、オルレアン王朝派や経済界との協調を図りながら、穏健な共和制政策を進める日和見主義的な姿勢を取りました。この流れは、公教育省大臣に任命されたジュール・フェリーの美術政策にも影響を与えます。彼は、一般大衆の需要に応えるという共和派の理念と、伝統的なアカデミーの保守的な考え方の間で、妥協的な解決策を模索することとなります。

フェリーによって美術担当国務大臣に任命されたエドモン・テュルクは、1879年にサロン改革案を提示しました。その内容は、会場への電気照明の導入、審査委員構成の多様化、そして絵画部門を物語画・人物画といった上位ジャンルと、風俗画・風景画・静物画といった下位ジャンルに分けて審査することなどでした。しかし、この改革案はサロン審査委員会からの強い反発を招き、ウィリアム・アドルフ・ブグローやポール・ボードリーといった有力な審査委員が辞任するという事態に発展します。テュルクは美術行政の人事刷新などでこれに対抗しましたが、混乱は収まりませんでした。その後、美術省大臣となったアントナン・プルーストも、審査免除特権の廃止や装飾美術部門の新設といった改革案を打ち出しますが、これもまたアカデミーの反対に遭います。

最終的に、ジュール・フェリーの決断により、1881年春のサロン開催が中止されることが決定されます。そして、テュルクは同年1月17日、以下の内容を通達しました。

サロンの運営は美術家自身の手に委ねる。
国は、過去数年間のサロン出品作の中から優れた作品を選び、数年ごとに展覧会（トリエンナーレ展）を開催する。

これは、美術家が作品を販売するための展覧会と、鑑賞や教育を目的とする国の展覧会とを並存させるという、当時の状況における妥協的な解決策でした。この通達を受けて、芸術アカデミーの支配から離れ、美術家自身が運営する主体として、フランス芸術家協会が設立されることとなります。

1881年春、フランス芸術家協会は第1回の年次展を開催しました。この展覧会も、引き続き「サロン」として広く通称されることになります。しかしながら、設立当初のフランス芸術家協会の中心人物には、ジャン＝レオン・ジェローム、アレクサンドル・カバネル、ブーグロー、エルネスト・メソニエといったアカデミー会員やエコール・デ・ボザールの教授たちが多数を占めていました。このため、協会内部でも保守派と革新派の対立が深まります。

協会内の分裂と美術界の変革

協会内部の対立は、新たな美術団体の設立を促しました。1884年には、審査がなく褒賞も与えないことを原則とするアンデパンダン展を主催する団体が分離独立します。さらに1890年には、エルネスト・メソニエがブーグローとの意見の対立から、他の美術家たちと共にフランス芸術家協会を離脱し、国民美術協会を設立しました。これらの分裂は、当時のフランス美術界における多様化と旧体制からの脱却の動きを象徴しています。

この頃から、サロンに入選することで作品が認められ、それによって画家が顧客を獲得するという従来のアカデミックな制度は、徐々にその影響力を失っていきました。代わりに、画家自身や画商が主体となって展覧会を企画・運営し、批評家がその広報や宣伝を担うという、新しい美術作品の流通と評価のシステムが形成されていくことになります。

フランス芸術家協会が主催するサロンの会場は、以前のサロンと同様にシャンゼリゼ通り沿いの産業館が使用されました。この産業館は、1900年のパリ万国博覧会に向けて建て替えられ、グラン・パレとなります。以後、フランス芸術家協会のサロンは、戦争などによる一時的な中断を除き、毎年グラン・パレで開催され、今日に至っています。協会の設立とその後の変遷は、19世紀後半のフランス美術界における権威の移行と新しい表現の探求の歴史を色濃く反映しています。

もう一度検索