フランチェスコ・ダ・ミラノ

フランチェスコ・カノーヴァ・ダ・ミラノ（Francesco Canova da Milano）は、1497年8月18日にミラノ郊外のモンツァで生まれ、1543年4月15日にミラノで没した、イタリア・ルネサンス期を代表する作曲家であり、当時のヨーロッパで最も称賛されたリュート奏者の一人です。

彼は生前から「神々しいフランチェスコ（il Divino）」と称されるほどのヴィルトゥオーソとして広く知られていました。この称号は、同時代の芸術家ミケランジェロにも与えられたものであり、彼の音楽家としての評価がいかに高かったかを示しています。彼の活動は主にローマの教皇庁や北イタリアの有力者の宮廷で行われ、リュート音楽の発展に大きな足跡を残しました。

フランチェスコは、音楽家であった父ベネデット・カノーヴァのもとに生まれました。初期の音楽教育については詳しい記録は少ないものの、マントヴァのイザベラ・デステ公妃に仕えていた著名なリュート奏者ジョヴァンノ・テスタグロッサから薫陶を受けたと伝えられています。1519年からはローマに移り、教皇レオ10世の宮廷楽師として仕え始めました。その後も、おそらくハドリアヌス6世やクレメンス7世といった歴代の教皇のもとでその地位を保ち続けたと考えられています。

1520年代後半には一時的にイタリア北部へ活動の場を移し、1528年にはピアチェンツァで活躍し、1530年には故郷ミラノに戻ってミラノ大聖堂のオルガニストとして奉職しました。しかし、1535年には再びローマへと戻り、強力なパトロンであったイッポーリト・デ・メディチ枢機卿にリュート奏者およびヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として仕える傍ら、当時の教皇パウルス3世の孫にあたるオッターヴィオ・ファルネーゼの音楽教師としても迎えられました。1538年には、教皇に随行してニースで行われた神聖ローマ皇帝カール5世とフランス王フランソワ1世の会談に臨むなど、その影響力と名声は宮廷内の重要な場面にまで及んでいました。

1543年、フランチェスコはローマでその短い生涯を閉じました。息子に先立たれた父ベネデットは、彼の功績と早すぎる死を悼み、ミラノのサンタ・マリア・デッラ・スカラ教会に墓碑を建立しました。

フランチェスコ・ダ・ミラノは、生前から「神々しい（il Divino）」と称されるほどの卓越した演奏技術と作曲能力で広く知られていました。彼のパトロンであった占星術師ルーカス・グヮリーコは、教皇パウルス3世に宛てた書簡の中で、フランチェスコを「あらゆる音楽家の中で最も重要で最も秀でた音楽家であり、そのリュート演奏は神話上のオルペウスやアポローンをも凌駕する」と極めて高く評価しています。

フランチェスコの作品は、彼の死後も長くヨーロッパ各地で影響力を持ち続けました。1536年から1603年にかけて、イタリア国内だけでなく、フランス、ドイツ、スペイン、スイス、オランダなど各地で40点以上に及ぶリュートのタブラチュア譜として繰り返し出版されています。さらに、25点の独立した手稿譜も現存しており、これは彼の作品がいかに広く流布し、演奏されていたかを示しています。

彼の作曲した楽曲の大部分は、当時の主要なリュート音楽の形式であるファンタジアとリチェルカーレです。これらの作品は、ポリフォニックな書法と自由な形式を特徴とし、高度な技術と深い音楽的表現力を要求するものです。フランチェスコ・ダ・ミラノの作品は、今日においてもリュート奏者やクラシックギター奏者によって頻繁に演奏されており、ルネサンス期の器楽音楽の傑作として、その魅力を失っていません。彼の遺した楽譜は、当時の演奏習慣や作曲技法を知る上で貴重な資料となっています。

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