フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニ

フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニ：中世の銀行家、その生涯と業績

フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニ（Francesco di Marco Datini, 1335年頃 - 1410年8月16日）は、イタリアのプラートに生まれ、中世のフィレンツェを中心に活躍した商人であり、初期の銀行家としても知られています。

生い立ちと初期のキャリア

1348年、黒死病によって両親を亡くしたダティーニは、「母の代理人」と呼ばれる人物に育てられました。手紙に「母へ、愛を込めて」と署名していることから、良好な親子関係であったことが伺えます。フィレンツェで徒弟奉公に出た後、15歳で当時教皇の住まいとなっていたアヴィニョンへ向かう商人の一団に加わりました。そこで武器貿易を始め、百年戦争の間ということもあり、多大な利益を得ました。その後、アヴィニョン在住の富裕な枢機卿向けの贅沢品や美術品も扱うようになり、購入された美術作品は、宗教目的ではなく個人的な目的のために購入されたものとしては最初期の例の一つとされています。

事業の拡大と会計の革新

当時、中世のフィレンツェで最大の富豪であったペルッツィ家やアルベルティ家と同様に、ダティーニも武器、奴隷貿易、毛織物、香辛料、葡萄酒、オリーブオイルなど、幅広い商品を教皇庁と取引していました。

ダティーニは、まだ社会に完全に浸透していなかった複式簿記が、事業の利益を適正に把握するために必要不可欠なツールであることを理解していました。彼は、日々の取引を事業別に仕訳帳に記入し、総勘定元帳に転記し、少額の現金については現代の現金出納帳のようなものに記載していました。その他にも、現代の商品有高帳に相当する在庫台帳や不動産台帳、給料の記録簿に加え、個人的な家計簿にはシーツ、ろうそく、石炭、食品、女中の賃金など、事細かに記載していました。そして、すべてを総合的に管理する「秘密の本」には、事業の最終的な決算や教会への寄進、貧者への施しなど、プライベートな内容を記載していました。

結婚と晩年

1383年1月10日、ダティーニは40歳を超えてから一時的にプラートに戻り、25歳年下のマーガレッタと結婚しました。彼が仕事で出かけているときに交換した手紙は、彼の人生に関する多くの情報を今日に残しています。これらの手紙類は、現在プラートのダティーニ古文書館に保管され、重要な当時の商業史料として活用されています。

また、12万4549通にも及ぶ商用文書、573冊の帳簿と元帳など、中世では最大となる個人の会計記録を残しました。

1400年6月17日頃、黒死病禍を避けて夫妻はボローニャの彼の庶出の娘のところへ移り、1410年にプラートへ戻り、そこで生涯を閉じました。ダティーニが残した財産は、10万フローリン金貨にも及ぶとされています。

文化への貢献

ダティーニは、フィリッポ・リッピの聖母戴冠では寄進者の一人として名を残しています。


フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニは、中世の商業と金融の発展に大きく貢献した人物として、その名を知られています。


参考文献:
* イリス オリーゴ著, 徳橋 曜 (監修), 篠田 綾子 (翻訳)「 プラートの商人―中世イタリアの日常生活」ISBN 4560028052

もう一度検索