フルブラウザ

フルブラウザ：パソコン並みのWeb閲覧を実現した技術の進化

はじめに

フルブラウザとは、パーソナルコンピュータ向けに設計されたウェブサイトを、携帯電話やPHSなどのモバイル機器で閲覧可能なウェブブラウザです。限られた画面サイズや処理能力の携帯端末において、パソコン並みのウェブサイト表示を実現した画期的な技術です。この記事では、フルブラウザの歴史、主要なフルブラウザ、関連技術について詳細に解説します。

フルブラウザの黎明期：フィーチャーフォン時代

2000年代初頭、フィーチャーフォン全盛期において、携帯電話やPHSは画面解像度や処理速度の限界から、PC向けのウェブサイトを十分に表示することが困難でした。通信速度や料金も大きな課題でした。そのため、Compact HTMLなどの携帯端末向けに簡素化されたHTMLと、専用のモバイルブラウザが広く利用されていました。しかし、これらのブラウザは機能が制限されており、PCサイト閲覧には不向きでした。

PCサイトにアクセスする手段としては、携帯電話をPCに接続する方法もありましたが、高額な通信料金や煩雑な接続手順が障壁となり、利用者は多くありませんでした。

この状況を打破する動きが、携帯電話の性能向上とともに現れ始めます。2004年、DDIポケット（現WILLCOM）と京セラは、Operaを搭載したPHS端末「AH-K3001V」を発売。PCサイト閲覧を可能にしたこの端末は大ヒット商品となり、フルブラウザ搭載機の普及を加速させました。

この成功の要因は、携帯電話各社のサービスにおける携帯端末用コンテンツの少なさです。PC向けサイト閲覧の需要が高く、無料で利用できる点がユーザーに受け入れられました。さらに、パケット定額制との組み合わせにより、時間や料金を気にせずブラウジングできる環境が整ったことも、普及を後押ししました。

スマートフォン時代のフルブラウザ

スマートフォンの登場により、フルブラウザはさらに進化を遂げます。高性能なプロセッサと大画面により、PCサイトの表示が容易になり、モバイルブラウザは事実上の標準機能となりました。

主なスマートフォン用フルブラウザ

AndroidシステムのWebView: Android 4.4以前の標準ブラウザとして、または一部機種で4.4～7.1まで標準ブラウザとして搭載されました。
Firefox for Mobile: Mozilla Firefoxのモバイル版。PC版との高い互換性を持ちます。
Google Chrome: Google Chromeのモバイル版。Android 4.4以降で多くの機種で標準搭載されました。PC版と異なり、拡張機能には対応しません。
Mobile Safari: macOS版Safariのモバイル版。iPhoneに標準搭載されています。iOSのマルチタッチインターフェースを継承しています。
Opera: Operaのモバイル版。軽量版のOpera Mini Webも存在します。

過去のスマートフォン用フルブラウザ

Internet Explorer Mobile: Windows Mobile搭載スマートフォンに付属していました。
Web Browser for S60: Symbian OS/S60搭載Nokiaスマートフォンに標準搭載。WebKitを採用しており、独自のMini Map機能を持っていました。
Windows Mobile・Symbian OS版Opera: Windows MobileおよびSymbian OS搭載機種向けに提供されていました。

フィーチャーフォン時代のフルブラウザ

フィーチャーフォンにも様々なフルブラウザが搭載されました。

ネイティブアプリケーション系

端末に組み込まれて動作するブラウザです。

NetFront Browser: ACCESSが開発。多くの機種に搭載されました。
Opera Mobile: Opera Softwareが開発。独自の小型画面レンダリング技術が特徴でした。
Picsel Browser: ピクセルテクノロジーが開発。一部のNTTドコモ機種に搭載されました。

Javaアプリケーション系

ユーザーがダウンロードして利用するJavaアプリケーション型のブラウザです。

Opera Mini: Opera Mobileの軽量版。多くの機種で利用可能でした。
jigブラウザ: jig.jp開発。PCサイトのレイアウトをそのまま表示できるのが特徴でした。
ibisBrowser: アイビス開発。DoCoMo向けに提供されました。

変換サイト系

CGIなどを利用し、PCサイトのHTMLを携帯端末向けに変換するサービスです。端末側のソフトウェアを必要としないため、幅広い機種で利用できましたが、表示能力は限られていました。

ファイルシーク: 個人運営の変換サイト。画像加工やPDF閲覧などの機能も提供していました。
Google Wireless Transcoder: Googleが提供。テキストや画像を抽出して表示するサービスでした。
ぐるっぽ: 登録制の変換サイト。SNS機能も備えていました。
その他多数: 通勤ブラウザ、PCAny、はてなMobileGatewayなど多くの変換サイトが存在しました。

変換スクリプト

PCサイトを携帯向けに変換するスクリプトも存在しました。オープンソースのpc2mが有名で、多くの企業や個人によって利用されました。mobazilla、KZ BRAIN Mobile、Flash Mausなどがその例です。

フルブラウザの機能比較

様々なフルブラウザが登場した2000年代末期、それぞれの機能を比較する試みも盛んに行われました。この比較では、搭載ブラウザ、対応機種、機能(JavaScript対応、画像表示、SSL対応など)が比較対象となりました。

ドコモによる「フルブラウザ」商標登録出願

NTTドコモは「フルブラウザ」の商標登録を出願しましたが、2006年に拒絶査定が確定しました。

まとめ

フルブラウザは、携帯電話やスマートフォンの進化とともに発展してきた重要な技術です。限られたリソースの中で、PCサイト閲覧を実現したフルブラウザは、モバイルインターネットの発展に大きく貢献しました。この記事では、フルブラウザの歴史と主要な種類、そして関連技術を概観しました。今後もモバイル環境の進化に伴い、フルブラウザはさらに進化を続けると考えられます。

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