フレッド・ブラッシー

フレッド・ブラッシー：リングのヴァンパイアとクラッシーの二面性

フレッド・ブラッシー（1918年2月8日 - 2003年6月2日）。その名は、アメリカプロレス史、そして日本プロレス史に深く刻まれています。ミズーリ州セントルイス出身の彼は、プロレスラーとして、そして後に敏腕マネージャーとして、世界中のリングを席巻しました。

彼のトレードマークは、何よりも反則技である噛みつき攻撃。観客を戦慄させるその凶暴性から「ヴァンパイア（吸血鬼）」という異名が付けられました。しかし、ブラッシーはただ凶暴なだけではありませんでした。リング外では「クラッシー（粋な、高級な）」というニックネームを持つように、ハリウッドスターばりのファッションセンスと洗練された振る舞いで知られていました。「ハリウッド・ファッション・プレート」という異名も、そのスタイルを端的に表しています。ザ・ロックやクリス・ジェリコといった後進のプロレスラーたちも、彼の影響を受けたことを公言しています。

日本では「銀髪鬼」「吸血鬼」「噛みつき魔」などと呼ばれ、特に力道山との激闘は、日本プロレス黎明期における大きな出来事でした。彼の残忍なファイトスタイルは、当時の日本のプロレスファンに衝撃と興奮を与えたのです。しかし、私生活では大の親日家として知られ、1965年の来日時に出会った日本人女性、三耶子さんと結婚。生涯にわたる愛を育みました。

彼の決め台詞「Listen, You Pencil Neck Geeks!（よく聞け、このヘタレ野郎ども！）」は、自伝のタイトルにも採用されるほど有名で、彼の強烈な個性とヒールとしてのカリスマ性を象徴しています。

華麗なるキャリア：レスラーからマネージャーへ

ブラッシーのキャリアは、地元ミズーリ州でのデビューから始まりました。精肉所で働きながらプロレスのトレーニングを重ね、1935年にプロレスラーとしての道を歩み始めます。その後は中西部、そしてサーカスのカーニバル・レスリングなど、様々な場所で経験を積んでいきました。第二次世界大戦中はアメリカ海軍に入隊し、戦後は「セーラー」フレッド・ブラッシーとしてプロレス界に復帰。

1950年代には、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点に活躍。フレッド・マクダニエルというリングネームを使い、実の兄弟ではないものの、ビリー・マクダニエルと「ブラッシー・ブラザーズ」としてタッグを組み、ジョージア州アトランタでNWA世界タッグ王座を獲得するなど、数々のタイトルを獲得しました。この時代はベビーフェイスとして活動していましたが、南部のファンのブーイングを浴びることも少なくありませんでした。

1956年、ヒールに転向。ゴージャス・ジョージに影響を受け、髪を金髪に染め、強烈なトラッシュトークと噛みつき攻撃で観客の怒りを買い、「ヴァンパイア」フレディ・ブラッシーとしてヒールとしての地位を確立しました。

1960年代には再びロサンゼルスに戻り、WWA（後のNWAハリウッド・レスリング）で活躍。力道山との対戦では、WWA世界ヘビー級王座を巡って激闘を繰り広げました。日本遠征にも度々参加し、その際、ヤスリで歯を研ぐパフォーマンスで話題を集めました。このパフォーマンスは、実際には差し歯と細かいヤスリを使ったものでしたが、当時の日本のプロレスファンに強いインパクトを与えました。

1960年代後半からは、WWAやWWWF（現WWE）で活躍。WWWFではブルーノ・サンマルチノのWWWF世界ヘビー級王座に挑戦したり、様々なタイトルを獲得しました。1970年代前半には膝の負傷により現役をセミリタイアしますが、1974年にはマネージャーに転向。「クラッシー」フレディ・ブラッシーとして、アイアン・シークやハルク・ホーガン、スタン・ハンセンなど、多くのヒールレスラーをマネジメントし、彼らの成功に大きく貢献しました。

日本での活躍と力道山との因縁

ブラッシーは日本プロレスにも度々参戦。力道山との対戦は、日本プロレス界に大きな影響を与えました。1962年の初来日時には、力道山との試合でWWA世界ヘビー級王座を賭けて対戦しましたが、王座奪還はなりませんでした。しかし、その後も日本プロレス、全日本プロレス、新日本プロレスなど、多くの団体で活躍。猪木や馬場といった日本のレジェンドレスラーとも対戦しています。

特に有名なのは、1962年の神戸大会での出来事です。6人タッグマッチで、ブラッシーの噛みつき攻撃によってグレート東郷が大流血。その衝撃的なシーンはテレビで生中継され、11人の老人がショック死したと伝えられています。この事件は国会にまで持ち込まれる騒ぎとなり、ブラッシーは日本のプロレス界に大きな衝撃を与えたのです。

1976年のアントニオ猪木対モハメド・アリの異種格闘技戦では、アリのスペシャル・アドバイザーを務めました。ブラッシーのマネージャーとしての才能は、国境を越えて認められていたのです。

マネージャーとしての才能と晩年

ブラッシーは、マネージャーとしても類まれな才能を発揮しました。彼は単に選手を管理するだけでなく、彼らのキャラクターを磨き上げ、観客を惹きつけるストーリーを作り上げていました。ニコライ・ボルコフをマネジメントした際には、彼の出身であるユーゴスラビア亡命者という背景を活かし、共産主義者というヒールキャラクターを確立させました。

1986年にマネージャーを引退した後も、WWEのテレビ放送のモニターやチャリティー活動などを行い、WWEに貢献し続けました。2003年、自伝『Listen, You Pencil Neck Geeks!』を出版。WWEのRAWにゲスト出演した直後に倒れ、6月2日に死去しました。

フレッド・ブラッシーの生涯は、プロレスラー、マネージャーとして成功を収めただけでなく、親日家としての温かい一面も持ち合わせた、まさに波瀾万丈な人生でした。彼の残した功績は、これからもプロレス界に語り継がれることでしょう。

もう一度検索